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シンガポール人と働いて気づいた日本がしんどい理由

つらいししんどい、毎朝起きるのもうイヤ。
でもきっと働くってこういうものなんだ。

28歳のとき、しんどさを抱えながら日本で働いていた私は、未経験でいきなりシンガポールで転職をしました。

日本以外での就労経験によって、今まで当たり前だと思っていた仕事や働き方から解き放たれたというか。
生きることがすごく楽になりました。

私の仕事観をガツンと打ち壊してくれたのは、2人のシンガポーリアン。

今回は、その2人にまつわるエピソードと、そこから体得した仕事観についてのお話です。

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職場の先輩・リンダに怒られてやっとわかった「辛けりゃ休め」

ひとりめは、職場の先輩のリンダ。

シンガポール人はイングリッシュネームといわれるニックネームを使うのが一般的。中華系シンガポーリアンのリンダの本名は確か漢字3文字だったはず。

リンダは自分の担当部署を管理しながら、出勤シフトを組んだり、お店全体の調整役なども担っているリーダー的存在で、勤続およそ15年の大ベテラン。

当時の職場は、シンガポールでの店舗勤務。
早番と遅番があり、シフト制で休みも出勤もバラバラ。
翌月の出勤シフトを作るリンダは、月末になるといつも頭を抱えていました。

そんなシフト勤務を大きく狂わせるのが、MCと呼ばれる病休。
Medical Certificateの略であるこの病休は、シンガポールに限らずアジア諸国ではわりとある福利厚生のことです。

このMC、当時の職場の規定では、勤務開始1分前まで有効で
職場に電話を入れて
「今日は具合が悪いのでMCください」
といえば会社は必ず休ませないといけない決まりになっています。

これが日本だったら
「ご迷惑おかけして本当にすいません。どうしても今日は辛くて…」

としつこいくらい丁寧に伝えて休みを取るけど(しかも有休扱い)

MCは労働者の権利なので、繁忙期だろうが明らかな人手不足だろうが、取る人はバンバン取ります。

しかもこのMC、どれだけ取っても人事評価のときにはマイナスにならないとも決められていて。
一般的な福利厚生として、有給休暇年間14日、LCも年間14日。
翌年に繰り越せる有給休暇は貯めまくって、繰り越しができないMCからまずは使い倒すという強者もいました。

シフトに穴を開けちゃいけない。
いきなり休んだら迷惑がかかる。

日本でのしんどい働き方のまま、勤続1年目の私は風邪をひいても熱が出てもとりあえず出勤していました。

シンガポールなど常夏の国あるあるなんだけど、外は暑いし建物の中はクーラーがガンガン効いてるしで、油断するとすぐに風邪を引きがち。

その日も、発熱でだるだるになった体でなんとか出勤していました。

関節が痛い、熱で頭がフラフラする、そんな日に限ってやたら忙しい。
具合が悪すぎて1人で勝手にイライラしている私に、リンダが話しかけてきました。
来月のシフト希望についての確認だったかな。

「私さあ、熱があって具合悪いんだけど!」

普段はニコニコ明るく元気なキャラでやっていたけど、
この日ばかりは限界で、怒鳴り気味に返してしまいました。

私の怒りの声に対するリンダの返事は、ねぎらいでもあげますでも慰めでもなく。

あんた、何言ってんの?
ここに来るって決めたのはあんたでしょ。

働くっていうのあんたの意思でやってんでしょ!

そんなに疲れて辛いんだったらMCとればいいじゃない!

MCとらずに自分で来てるんだから、それで文句言うんじゃないわよ。

リンダの怒りとともにぶつけられた優しさに従って、その5分後にMCを取って病院に行ってソッコー帰宅しました。

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そうか、そうなんだ。

病気になったり辛かったら、人って休むんだな。
わざわざ無理をして仕事しててイライラしてても周りに迷惑かけるんだな。
万が一他のスタッフに移したに電話したらさらに迷惑だわそりゃ。

迷惑をかけたくない、雇ってもらった会社に貢献したいという思いから無理して仕事をしていて、それはむしろ迷惑になることもあるんだな。

その日を境に、朝起きた瞬間に、今日辛いなと思ったらすぐに電話をしてMCをとって休むように。
どうしても辛ければ休めばいい。シンガポールで仕事して、怒られてやっと、この当たり前ことができるようになりました。

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掃除のおばちゃんが見せてくれたやる気スイッチの振り幅

ふたりめに衝撃を受けたのは、掃除のおばちゃん。

当時の私はシェアハウスで住んでいて、そこのオーナーはすごくいい人で住み心地がとてもよかったです。
オーナーが雇ってくれたメイドさんがたまに来て、廊下やキッチン、バスルームなんかの共有スペースを掃除してくれて。

メイドさんといってもTシャツに短パンのおばさんで、英語通じず中国語も何やらの持っている様子。
キッチンのゴミを指してなにか言ってるけど、わからない。
ハハって笑いながらごまかして、自室にさっと移動していました。

そのおばちゃんの働き方が衝撃だったんです。

ある日のおばちゃんは、廊下の端から端まで、キッチンの隅から隅までモップ掛け、さらに水拭きまでしてきっちり仕上げてくれることもあれば。

別の日はキッチンの大きなゴミ箱のゴミを放置してそのまま帰ったり(ゴミ箱を空にすることは確実に業務指示にはいっていたはず)。

仕事ぶりに、ものすごくムラがある…ッッ。

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なかでも最も衝撃を受けた日のこと。

掃除にやって来たと思ったら、キッチンの椅子にどかりと座り込んで、ずっとスマホを両手でいじり倒して数時間。
なんとそのまま帰宅!?

たまたまその日、私はシフト休みで1日中家にいて

トイレに立ったり、キッチンの冷蔵庫に行くたびに
私の視線などおかまいなしに、スマホにフル集中してるおばちゃんの姿が。

そうか、そうだよな。

仕事ってこういう時もあるよな。
やらなきゃいけない、締め切りが目の前だって言う時に限ってどうしてもやる気が出ない。
5分だけ、とロック解除したスマホの画面をタップしてスクロールで50分経ってたとか。
やる気が十分で、気が乗る時もあればそうじゃない時もある。
あれ、もしかしたら
月曜から金曜、朝8時から夜6時まで、もしかしたらそれ以上の時間
フル集中でやらないと終わらない仕事量って、そもそも多いのでは?
できるときにどんどん進んで、集中力が切れたらちょっと休んで。
それぐらいのエネルギーでできる仕事の量が適正なのかもしれない。

掃除が苦手な私は、ゴミ捨てをしてくれるだけでもほんとありがたい。
だけどおばちゃんには言葉が通じない。

おばちゃん、いつも、いや、たまに気分が乗ったときにうちをピカピカにしてくれてありがとう。
またいつか、気分が乗ったらやってくれると嬉しいな。

スマホに夢中のおばちゃんの背中に、無言でそっと感謝の言葉を述べて部屋に戻った。

おばちゃんのやる気スイッチのオンとオフの振り幅の大きさから、働き方にはムラがある、できるときにやればいいし、無理なときは無理なんだ、ということを学びました。

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