中国人と付き合うってことは中国式メンツと付き合うことであって
先月、深センの自宅に無事に帰り着きました。
やっぱり自分の家はここだったんだな、とありふれた日常という幸せをガシガシ噛みしめていたら1ヶ月も経ってました。いやはや快適、中国生活!
とはいえ良いことばかりも続きません。
以前の記事で書いた通り、同居人で婚約者のヤンくんとは連戦連夜のケンカをなんとか乗り越えたものの、同居人で婚約者のままです。
もうぜんぜん進んでいかないね、結婚。まだまだ遠いよ結婚。
いよいよ入籍! からの挙式準備!
かと思いきや、先月帰宅してずいずいと婚姻手続き開始を迫ったら(迫るから)飛び出したジャックナイフみたいな言葉が私のハートを突き刺しました。
いきなりそんなこと言わないで!
オレ、10ヶ月間も一人暮らししてたんだよ!
心の準備ってものがあるでしょう?
・・・お、おお。
言葉を失いました。私の語彙力がものすごい勢いで置いていかれる。
いやいやあんた、Wechatビデオ通話で何度も話したじゃない。
覚悟はいいか、と。
私でいいのか、と。
あの会話すべて水泡に帰したんかい、そうですかい。
オールリセット。什么都没有。
進学からの就職と転職、趣味の旅行に読書に語学に。
これまでひとりで好き勝手に自由度高くやらせていただきました。
ここから先の結婚や妊娠といったライフステージはもうひとりじゃできないんですよね。相手が必要。
ほかに結婚したい相手もいないし、よそへ行って新しい相手を探すエネルギーも今のところなく、できるものならこの人としてみたいと願っているので、待つことにしました。
そう決めて1ヶ月。彼の心境には変化があったようで。
私「2月の春節にヤンくんの実家に帰る前に婚姻手続きしてくれないならひとりで実家に帰ってください(また迫るから)」
ヤ「うんいいよ。手続きしよう!」
わーーー
はやい、はやいなーーー
どうやら心の準備とやらができたそうです。これはなにかある。
というわけで彼の心情にどんな変化があったのか、ひとりで勝手に考察してみることに。聞いても教えてくれないだろうから。
メンツが立った
自慢の彼女でいなくちゃね!
可愛い服を着て、メイクもポージングもばっちりきめてね!
交際当初からアラサー小太りでインスタ映えとはほど遠い私に、ヤンくんはこんなことを何度も言い聞かせてました。
以前の記事でもぶちまけたように、私はビジュアル担当というか、見た目の評価で加点をもらったことはない。
明るいねとか悩みがなさそうとか、生命力があってしぶとい印象とか、褒められているのかなんなのかよくわからないけど前向きさアピールで、この体とこの色で生き抜いてきたんだから!
それなのにヤンくんは、理想の彼女像とやらに私をぐいぐい寄せようとする。
黙って座ってニコニコしていれば華になるようなタイプではないので、私はガツガツしゃべります。役割分担をわきまえてるなんて立派なことではなく、自分がそうしたいから。黙って息しているだけなんてつまらないです。
どうやらヤンくんにとって美しいガールフレンドの存在は、自分のメンツを立ててくれる要素のひとつらしいです。
やってらんねーよ、というのが正直な感想だけど、これは彼の性格なのか、育ってきた環境に起因するものなのかはっきりさせられないのが難しいところ。
理想の彼女像は実現しなくても私のことが好きだというヤンくんと
理想の彼女像は実現する気サラサラないけどヤンくんのことが好きな私。
この緊迫したバランスが大きく揺らぐことがたまにあります。その場合、私にとって有利に事態が動きます。
それはヤンくんの友人や会社の同僚に紹介されたとき。
「彼女、え、外国人? すごい!」
「彼女は日本人? じゃあヤンは日本語できるの? えええ、普段は英語で会話? 素敵!!」
「日本人の彼女と英語でコミュニケーションなんてかっこいい!!!」
というあからさまな反応が(おそらく中国語で)友人や同僚とのやりとりで発生しています。
このような、すごい、素敵、かっこいい、あたりのリアクションが、彼のメンツをふくふくと満たしてくれて、ご満悦なんですね。
そのため「可愛い服を着てポージングばっちり理想の彼女」の条件を満たさなくても、「自慢の彼女」の方ならばっちりというわけです。所持しているパスポートで一発解決!
彼のメンツを立てるという点において、第一関門はこのようにラクラク突破なわけですが、その次が難しい。なぜなら私はしゃべりたくて仕方ないから。
你好!
我是日本人!
とりあえずこう言うわけですね。これしか中国語で言えないから。
周りは外国人が珍しいので、何を話してもキャッキャと喜んでもらえますが、そこから特に会話が広がるわけでもありません。単に私が言いたいだけ。
すると翌日、ヤンくんから衝撃のフィードバックが入ります。
ゆきのはね、ちょっと自慢気だからね、もうちょっと謙虚に生きようね
なんじゃそりゃあ!!!
私はそんなにいけしゃあしゃあと厚かましいのかと、超ショックでした。しかし気づきました。
「你好、我是日本人」
どうだ! 私ってば日本人なんだぜ!
こんな風に聞こえるらしいんです。なんですかその激しめの超訳は。
事実を伝えているというか、言えるフレーズ言ってるだけで「自慢気」認定をいただきました!
外国人の彼女は自慢したいのに、自分から「外国人なんだぜ!」と発言するのはメンツを立てることにならないらしいです。メンツの取り扱い、難しい。
そのため、初手にして最終奥義である私の中国語会話「你好、我是日本人」は封印しました。でもどうしてもしゃべりたい。
その結果、ヤンくんの婚約者の役割担当のときは、英語でしゃべりたおすことにしました。そうすると不思議なもので、相手も慣れない英語で会話をしてくれようとするのです。
すると友人同士や同僚同士で盛り上がり「おい、英語しゃべれるんかい!」「ま、まあちょっとな」と拍手喝采モノ。これはこれで会話が弾んでなんかいいカンジ。
当のヤンくんは「英語でしゃべりたおす日本人婚約者」の役割を果たした私の隣でふくふくと満足気な笑顔です。
あ、いまこの人のメンツが立った。
クララが立った、みたいな分かりやすさ。
このように「外国人と結婚予定? すごい!」と、メンツポイントをふくふくとマイレージした結果、ヤンくんの意識が「いきなり結婚なんて、ちょっと待ってよ!」から「うんいいよ、結婚しよう」のボーナスステージに突入したようです。
全然よくわからない展開だけど、私に有利なことは確かだ!
中国社会における正しいメンツの立て方
メンツやプライドというのは、他者と比較することによって高低差をつける承認欲求の満たし方だと認識しています。
他人と比べることをやめて、自分がいいと思えば他人の評価は気にしない性格と身につけてしまった私には、正直よくわからない感覚、メンツ。
このメンツを立てるのに効果テキメンで簡単な方法はずばり贈り物です。
会社の同僚に日本からのお土産を配っておくと、会社でちょっとだけ優遇してもらえたりとか(会社によると思う)
彼の会社の同僚や家族に日本からのお土産を配っておくと、彼のメンツが立つとか。
そのお土産は、金色や赤色の派手なもの、ドカンと大きめ、湿布や目薬といった医薬品ぽいもの、などがいいそうです。
「外国人から外国産の立派な贈り物を受け取った自分」という流れで、メンツが立つんだそうです。
それから、前述の会話フローの失敗例にもある通り、会話の中ではいかに自分から先出しで「すごい」と言わずに、相手から「すごい」を引き出すかも重要なポイントです。
春と言わずに春を表現するかのような、月がきれいですねと言って愛を伝えたような、まるで日本文学みたいですね!
この実例をもとにご紹介した中国的メンツは、あくまで我が家の一例です。14億人に当てはまるというわけではありません。n=1のデータとして。
メンツの立て方は難しいし、人それぞれメンツポイントがあるし、立てようとがんばったら逆効果になることもしばしばあります。
でもまあ、好きな人が隣で笑っていてくれるなら、できることから少しずつはじめてみようかなあと今では思います。
よし、ヤンくん。私がんばってみるよ!
と伝えたのがまずかった。「じゃあ結婚に向けて、もっと可愛くならないとね!」とすかさず反応したヤンくん。
コミュニケーションでも適切な距離感でもなく、なにがなんでも顔面をどうにかすることが、彼と、彼のメンツと付き合うためには必須事項らしいです。