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お酒との距離感~20~

私はお酒が苦手だ。お酒を楽しむ友人との時間を共有することは嫌いではないけど、無理にお酒を飲んで身勝手にクラクラするのは恥ずかしくて嫌いだ。業界にいた頃は付きあいのお酒を嫌というほど飲まされてタクシーに押し込まれたこともあったし、酩酊状態の先方を介抱したことも幾度となくある。だから醜態を曝してまでお酒を飲む楽しさがなかなか理解できない。いまは病気のせいもあって禁酒となっているが、恐らくほろ酔い1本で充分に気持ちよく眠れるくらいお酒は弱い。

一方で妻は人並みにお酒を楽しめる女性だ。ビール・日本酒・赤・白・泡までジャンルを問わず一通りを楽しめる。子育て専念中のいまはお酒を飲めないけど、妊娠前はたまに友人と楽しく飲んできて、実に気持ちよさそうに帰ってくる妻を迎えることが好きだった。長年一緒にいるからこそ見抜ける違い。すこしだけ声量が上がってる。頬が紅色に染まってる。会話の主導権が妻になる。そんな些細な変化を感じ取って併せるのが好きだった。1度だけ「ダンスを踊りましょうよ」と社交界みたいなことを言い出したときは笑いながらステップを踏んだことがある。実に甘い思い出だ。

数年に1度。夏の渇きと鋭利な感情が重なったとき、私も自宅でお酒を飲むことがある。甘味の強いほろ酔い。妻は心配そうにこちらの様子をうかがっている。そして半分も飲まないうちに私は笑い上戸になる。「酔ってないよ」の声量があがり「酔ってきたね」と笑いながら返す妻。無理して全部飲まなくていいのよと窘められても少しずつ喉を潤していく。そしてクラクラが訪れる。酔ってきた実感。そして此処は家だから大丈夫の安心感。それが重なって目蓋がくっつきそうになると、「はい、今日はもう寝なさい」と寝室に運んでくれる妻がいる。

例えば私がひとなみにお酒が好きで、晩酌を楽しめる人間だとしたら、妻は一緒に楽しんでくれたのだろうか。私が飲めないばかりにお酒を飲みたい気持ちを抑制しているのだろうか。気になって質問したことがあるけど「お酒は飲んでも飲まなくても楽しいからいいの。気にしないで」と言ってくれて胸を撫でおろしたことがある。

息子は生後10ヵ月。早い子だとそろそろ卒乳を迎える。そうなれば妻の禁酒期間も終わり、お酒を飲めるようになる。そして今まで授乳に宛がわれてた摂取カロリーのすべてが妻に張りつくことになる。ちょっとくらい肉付きがあるほうが可愛く思えるのだが、もう二の轍を踏むことはしないと固く決心しているようだ。いまはこうして入院してお酒と無縁の生活をしているけど、退院したら私はほろ酔いで、つまは好きなお酒で乾杯できたらと思っている。ふたりで笑いながらダンスでも踊ってみようじゃないか。

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