【ライブレポート】2021/11/13 Jam Fuzz Kid pre"HOMIES”@渋谷LUSH
10月24日に新代田で開催されたpavilion企画ライブを観に行ってから3週間。その企画に呼ばれていたJam Fuzz Kidによる自主企画に遊びに行ってきた。
出演バンドは以下の通り。
Jam Fuzz Kid
Subway Daydream
pavilion
NEW BABYLON
THE PLANET WE CAN SEE
数年後、とんでもないラインアップだったと振り返ることになる、そんな可能性も感じさせるライブを簡単に振り返ってみよう。
■pavilion
開演から10分ほど遅れて到着したため、後半数曲のみの観賞となってしまった。
同日に開催される"AGESTOCK2021 in TOKYO DOME CITY HALL"での「NextAgeMusicAward2021」決勝戦に出場するということもあっての、トップバッターでの出演なのかもしれない。
前回、新代田FEVERでのライブはとても肉体的だと感じたが、今日のライブはまたちょっと違っていて、わかりやすく外に向かって放出するというよりは、内に秘めた熱量が溢れてしまうようなライブパフォーマンスだった。
内に秘めた、と書くと誤解を招くかもしれないが、たまに出くわす、メンバー同士のスタジオライブを見せられているようなライブとは違う。pavilionは、その溢れ出る熱を届けようとしているようなライブなのだ。中途半端に煽ってこられるよりもむしろパッションを感じさせてくれる。
Jam Fuzz Kidについて、その出会いは下北でのライブ終わりにERAのバーで今村力(Vo)と飲んだのが始まりだったと語る森(Vo/Gt)。お互い呼び合って高め合える仲間ができたことを誇らしく思う、とも話していた。
コロナでライブ活動が思うようにいかず、少し落ち着いてもなかなか対バンイベントが組みづらい状況が続いていた2020年から2021年にかけて。同世代のバンド同士でライブをしながら切磋琢磨して、音楽シーンをともに駆け上がっていく、そんな流れが途絶えていたと思う。
ここにきてようやく、ライブも活発に行われるようになり、こうした対バンイベント等を通じてバンドが成長する機会を得る、そんな瞬間に立ち会えていることがイチ音楽ファンとしてただただ嬉しい。
ラストに演奏した、今の彼らの代表曲「Yumeji Over Drive」はおそらく数年経っても色あせることのない一曲になっていると思う。個人的にこの曲での佐藤(Ba)のベースが好みで、歌声をメインにしつつも、ベース音にも耳を傾けながら楽しんだ。
冒頭で触れた大会だが、その結果は惜しくも準優勝。優勝は輪廻だったらしいが、決勝まで残ったこと自体素晴らしい。今注目のバンドのひとつ、その動向は引き続きチェックしていこうと思う。
■THE PLANET WE CAN SEE
音楽メディアでは「女性Vo.ウィスパー・インディーポップバンド」といった言葉で紹介されていたTHE PLANET WE CAN SEEが2番手で登場。
Taito(Vo/Gt)、Maria(Vo)、Asato(Gt)、Daiki Usui(Ba)、Yutaro Kaneko(Dr)、kazumi(Syn)による6人編成で、Mariaをメインに据えたツインボーカル体制だ。
ざっくり言うとインディーポップになるらしい。シューゲイザーやドリームポップの要素も感じさせてくれるそのサウンドは、今の時代にもマッチしているようにも思う。本日初めて彼女たちのライブを観るのでいろいろ間違って認識してしまった部分もあるかと思うが、第一印象としては好みの音楽。
「ウィスパー」のフレーズに引っ張られてイメージを膨らませる人もいるかもしれない。しかし、しっかりとメロに乗った歌声を披露していたので、ささやき系が苦手という人でもちゃんと楽しめる音楽を奏でていると思う。
Mariaの歌声やAsatoの透明感あるギター、浮遊感あるkazumiのシンセの音色が洗練された印象を与えながら、(今日だけかもしれないが)Taitoの汗がいい意味でのバンド臭さを表現していて絶妙なバランスだった。
MCブロックでは、メンバーの顔を見えやすくするために照明が明るい光りでステージを照らすと、すぐさま「光落としてください」とリクエストするTaito。それほどまでにステージは暑かったようだ。
汗をだらだらかきながらギターを弾くTaitoの横で、涼しい顔をして繊細な歌声を披露するMariaというなんとも対照的なふたりの姿が面白い。
Taitoは、ここ2年ほどまともに活動できなかったがここから本格的に活動を始めていくと宣言していた。いろんなバンドたちが「さあ、ここから!」と気合を入れ直したであろう2021年秋は、あとで振り返ると大きな転換点になっているのかもしれない。
12月1日に予定しているライブの告知をするTHE PLANET WE CAN SEEの面々。翌12月2日がAsatoの誕生日だそうで、今19歳の彼にとって12月1日のライブはティーンネイジャーギターとして最後になると話していた。
最近、高校生バンドを観る機会も増えたのでバンド内に19歳がいても驚きはないものの、それでも若さが呼び起こす無限大の未来に思いを馳せてしまう。彼のギターはとても気持ちのいい音を出していたので、これからのさらなる成長が楽しみでもある。
■NEW BABYLON
3番手に登場したのはNEW BABYLON。リハの時点でギターとベース、ドラムの3人がインストバンドばりにゴリゴリの音でタイトに攻めている。
これはカッコいいバンドじゃないか。センターに1本、主が不在のマイクスタンドが立っていたのでスリーピースではなく4人組バンドなんだろう、と思うくらいに予備知識ゼロで臨んだ彼らのライブ。
編成は以下の通りだ。
JAYPAY(Vo)
Shunta Satoh(Vo/Gt)
Yuki Izumimoto(Ba)
LUKE(Dr/support)
リハでShuntaがセンターマイクを移動させようとして「動かさなくていいから!」と軽く怒られる場面があり、そのことがメンバーへの興味をそそられて、俄然ライブが楽しみになったのだが…本番で姿を現したJAYPAYが一気に空気を持って行った。
いきなりのラップスタイルでライブは始まり、リハ同様のインストばりのバンドサウンドをトラックにJAYPAYがリリックを紡ぐ…というより発射していく。
歌×バンドではなくラップ×バンドに近いような。歌を引き立たせるためのバンドサウンドではなく、バンドの音にリリックを乗せていくスタイルゆえ、楽器隊の音楽がインストのように聴こえたのかもしれない。
しっかりとまとまったコンビネーションかといえばそうではなく、まだまだ粗削りで衝動を感じさせるようなパフォーマンスがアツい。
MCで知ることになるのだが、なんと彼らは今日が2回目のライブとのこと。まとまりよりも荒々しさを感じた理由はこれかもしれない。
NEW BABYLONの音楽は自分の好みとは異なるタイプのものだ。しかし好みではないにもかかわらず、そのライブには胸が熱くなった。カッコいいとも思った。獰猛なステージを終えると深々とお辞儀をするJAYPAYの姿はとても清々しい。
思えば、JAYPAYはTHE PLANET WE CAN SEEのライブも、彼の後に出演したバンドのライブもフロアで楽しんでいた。楽しさを体で表現していた。
めちゃくちゃいい人なのだ。
今日の出演アーティストの中ではジャンル的にも異質だと感じるNEW BABYLONだったが、心を掴まれたオーディエンスも多かったのではないだろうか。
結成2回目のライブ現場に立ち会えたことが自慢になるようなバンドになっていってほしい。
■Subway Daydream
トリ前を務めたのは大阪からやってきたSubway Daydream。すでに知名度もあり、サブスクの公式プレイリストでも名前を見ないときがないほど、今注目のバンドだ。
中学時代に触れたフジファブリックきっかけでロックを聴くようになり、大学4年でバンドを始めたという双子の兄弟、藤島裕斗(Gt)と雅斗(Vo/Gt)、そしてたまみ(Vo)とKana(Dr)による4人組にサポートベースの樋川祥也を加えた編成でのライブとなった。
オープニングを飾るのは、11月24日配信スタートとなる新曲「Pluto」。最初に惹かれたのは、小さな体をフルに使う、キュートな声も魅力のボーカル・たまみだった。その隣でソフトな歌声でSubway Daydreamの歌をより豊かに表現するMC担当、雅斗。このふたりを中心にライブはまわっていく。
渋谷LUSHはいわゆるステージ袖、というものがないようで、メンバーたちはステージ後方の暗幕をめくって登場する。ここが楽屋との通路になっているのだろう。彼女たちのライブを観ていると、ふと違和感を覚えて暗幕部分に目をやってみた。するとJam Fuzz Kidの今村がグラサン姿で暗幕から顔だけ出してニコニコとライブを観ているではないか。
これに気づいた何人かの観客も指をさして笑ったり、スマホで撮影したりしている。
ちょうど曲の間奏というタイミングでたまみが後ろを振り返ってパフォーマンスを始めると、照れ臭くなったのかすぐに今村は引っ込んでしまった。
気さくな男だという今村らしさが出ていた迷シーンを経ながら、ライブは続く。サポートの樋川による軽快なベースラインも気持ちよく、ポップなサウンドとポップな歌声がLUSHを覆っていく。
kanaはときおり、満面の笑みを浮かべながら実に楽しそうにドラムを叩いていた。笑顔なドラマーはそれだけでバンドを、音楽をHAPPYなものにしてくれる。Subway Daydreamが持つポップは、音楽そのものとたまみのパフォーマンス、そしてkanaの笑顔によって生み出されているのかもしれない。
通常はリズム隊同士で視線を合わせることが多いものだが、Subway Daydreamはサポートベースということもあってか、ドラムのkanaとギターの裕斗によるアイコンタクトが多かったように思う。
Jam Fuzz Kidについて、同世代のカッコいい音楽をやっているバンドという印象だと語る雅斗。多種多様な音楽が鳴る今日の企画についても「いいイベント」と話していたが、とても楽しそうな彼の表情からもその充実感が伝わってくる。
若い世代のバンドが5組集い、ライバルのように互いを高めて成長し、頭角を現していく様を想像して、ワクワクしてしまう。
今日が2021年、東京での最後のライブだというSubway Daydreamは、ライブ中盤に「Timeless Melody」や「Fallin' Orange」でフロアを楽しませると、ラスト2曲には「Canna」「Freeway」を披露。サポートの樋川もたっぷりの笑顔、たまみも飛び跳ねながら全身で歌を表現し、今年最後の東京ライブを思い切り盛り上げてくれた。
「Freeway」を演奏し終えた瞬間、2本のスティックを後ろに投げ飛ばして、激しい一面を見せるkanaだったが、その笑顔はとても優しいものだった。
■Jam Fuzz Kid
企画の主、トリを飾るは我らがJam Fuzz Kid。新代田でのライブ同様、今村以外のメンバーだけが先にステージに現れ、「Untitled」を演奏する。その途中でゆっくりと登場する今村。
5人揃ったところで「Fringe」へ。王者の貫禄、というと言い過ぎではあるものの、その堂々たる立ち居振る舞いはバンドとしての勢いや自分たちに対する自信のようなものの表れではないかと思う。
それほどまでに、Jam Fuzz Kidのステージングは圧倒的。渋谷LUSHという小さいキャパのライブハウスをスタジアム級の会場に変えてしまうようなパワーがある。リアム・ギャラガーばりにマイクを少し高めにセットし、手は後ろに、やや首を上げるスタイルで歌う場面も。いろいろな意見はあるかもしれないが、平たく言えば、めちゃくちゃカッコいいのだ。
サマソニのステージで賛否両論巻き起こしたっていい、自由に、好きなようにやったらいい。カッコいいんだから。
フロアにたくさんの観客がいることを素直に「すげえ嬉しいっス」と喜ぶ今村。コロナのせいで調子良かったバンド活動が止まり、まるで地を這うようだったと話す。少しずつライブ活動が再開し始めるなかで、それでもまだリスクを避け、ライブハウスを敬遠する人も多い。大阪のライブ、キャパ500の会場にはメンバー5人と観客5人、そんなケースもあったんだそう。「バスケの試合してんのかと」などとジョークを飛ばすが、今まで積み上げてきたものが崩れてしまったような感覚を味わったのではないだろうか。
そんなMCを聞いてしまったら、大人見している場合ではない。遠慮することなく自分もライブの喜びや興奮を表に出そう、ステージに届けようとガンガンに拳を上げてライブを楽しんだ。
今村の語りは止まらない。
真面目にバンドを頑張らないと、と思っていた時期もあったというが、バンドを頑張るってなんだ?と疑問に思ったそう。下北沢から始めて、少しずつ上がっていくというバンド界の「ルール」についても、どうでもいいと切り捨てる。
やりたいからバンドをやっているだけ。ここにいる観客も、今日来たいと思ったからここに来ているはずで、それが大事なんだと。Jam Fuzz Kidは、いつまで続くかわからない。いつかイギリスの大きなステージに立っているかもしれないし、5日後に解散しているかもしれない。
それでも「今日この瞬間を生きてて良かったと思えるように過ごすのがいちばん大切」
今村はそう語った。
彼のことを深く知っているわけではないが、前回の新代田でのライブと、今日のこれまでのパフォーマンスから感じ取れる彼のキャラクターが見事に表現されたメッセージだったのではないだろうか。
小さな枠に収まってほしくないし、収まりたいとも思っていない。テッペン取ろうという野心を携えて、どこまでも突っ走っていってほしい。そう思わせてくれるような、スケールの大きなライブは続く。
Jam Fuzz Kidを代表するミディアム曲「Parade」や最新曲「consequences」、さらには新アンセムと呼んでもいい「Tyler」と、キラ星のごとく名曲たちが披露される。
今村の歌声はもちろんだが、小畠舜也(Ba)によるベース音も個人的にとても好みで、ついつい追いかけてしまう瞬間が何度もあった。さらには黒木徹(Gt)とヤマザキタイキ(Gt)の両ギターが奏でるリフやソロにも酔いしれてしまう、至福の時間。
「めんどくせえこと全部おいといて」
「これからたくさんいろんな上の人たちに」
「怒られるかもしんないけど」
「勝手にロックやってるだけなんで」
「みんなついてきてくださいよ」
「ロックして帰るか!」
ラストにそう告げると「Sunshine Highway」をフロアに叩き込み、アウトロの終了を待たずに今村はステージを去っていく。
メンバー全員がはけた直後、終演への感謝を表す拍手からアンコールへと切り替わる手拍子に迎えられて再登場したJam Fuzz Kid。
ここで「悪い知らせがある」と不穏な発言が飛び出した。ドラムの村松知哉がジストニアを発症し、今日のライブをもって治療のため休養するとのこと。満足にドラムを叩けない状況にあるようで、アンコールについて「もう叩きたくない」と本人の弁。
ということでアンコール一曲だけのピンチヒッターとして呼ばれたのは、彼らの友人でもあり、実際に音作りで制作に参加していた“ふみくん”こと佐藤文耶。
アンコールでは、まだ音源化していない、いつ音源化するかも未定だという新曲を披露する。しかも驚くべきことにJam Fuzz Kidメンバーと佐藤はこの曲を合わせたことがなく、今この瞬間が初合わせだというのだ。
「こんぐらいがちょうどいいっしょ!」と軽やかに話す今村が実に頼もしい。
演奏された新曲は、Jam Fuzz Kidらしい、スケール感のあるイントロを持ち、ミディアムテンポで遠くへと響かせるように伸びやかなサビが魅力的な、名曲の匂いがする一曲。これをもってJam Fuzz Kidの自主企画「HOMIES」は幕を閉じた。
01.Untitled
02.Fringe
03.Concorde
04.Where we goona go
05.Rovers
06.Parade
07.consequences
08.601
09.Tyler
10.Afterglow
11.Sunshine Highway
EN.
12.新曲
小さなハコで多数のバンドが出演する自主企画では、フロアにはまばらな観客、いても大半が知り合いか出演者で熱もそこまで感じない…そんな景色をよく目にしてきた。しかし今日のフロアには確実にアツいものが生まれていたように思う。もちろん友人や出演バンドのメンバー、そしていわゆる業界の人もいただろうが、そんな身内も巻き込まれるような熱気が生まれていたのだ。
大小の差はあるものの、これは今日の出演の全バンドに当てはまっていたように思う。しかし、特に素晴らしかったのはやはりJam Fuzz Kid。上がる拳の数もたくさんあり、鳴らす音楽と放たれるメッセージががっちりとかみ合って、あまりのカッコよさに涙がでるほどだった。
2022年は、これまでの鬱憤を晴らすように猪突猛進、突き抜けるような活躍をしてくれるに違いない。
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