【ライブレポート】2022/1/27 一寸先闇バンド presents「閃閃」@渋谷WWW
渋谷WWWで開催された一寸先闇バンド企画『閃閃』に行ってきた。対バンにHONEBONEを迎えたツーマンだ。ともに高円寺を背負っていると言っても過言ではない2組による、渋谷での夜を振り返る。
HONEBONE
HONEBONEはボーカル/作詞/作曲/MCを担当するEMILYとギター/作詞/作曲/編曲を担当するKAWAGUCHIによるフォークデュオだ。数年前、テレビ東京系『家、ついて行ってイイですか?』に出演していたEMILYを見てHONEBONEの存在を知ったのだが、ライブを観るのは今日が初めてだ。
開演予定の19時よりも数分前にステージに登場したふたりは、そのままトークを繰り広げる。先日のライブで喋りすぎてしまい、セットリストから2曲削ることになってしまったことを悔やむHONEBONE。
MCブロックではなく曲中に、観客を煽ることに時間を割きすぎた結果、本来3~4分の曲で12分も時間を使ってしまったというエピソードと共に、今日はしっかり時間厳守していくと話すふたり。
「世の中の“負けないぞ”という気持ちを勝手に代弁して歌います」というEMILYの言葉から、コロナ禍を反映した「バンドマン」という曲でライブは幕を開ける。
KAWAGUCHIによる心地よいギターサウンドに乗せ、EMILYがビブラートを効かせ、時に美しく、時に力強い歌声を披露。
続く2曲目「東横戦争」では、かつて高円寺で共に暮らしながら、やがてひとり家を出て祐天寺へと去っていった元彼描写を入れ込みながら、東横線住民への嫌悪を歌う。
曲が終わるとフロアに向けて東横線沿線住民の有無をアンケート。さらには歌詞に出てくる“たいてい駅名略してくるもんね”を引き合いに、「ムサコといったら武蔵小金井」と持論を展開するEMILYの東横線に対するユーモアを交えたディスりが止まらない。
かと思えば今度は一転、高円寺や阿佐ヶ谷の愛すべき飲食店紹介も兼ねた「オムニマッ」を歌い、街に対する愛憎を表現していく。
何かと物騒になってきた世の中を踏まえ、電車内で音楽を聴くことをやめ、さらには電車に乗ること自体避けているというEMILYは、何かあればすぐ別の車両に逃げてほしい、交差点での待ち合わせ等では道路ギリギリではなく、後ろに下がって待ってほしいと安全優先を説く。
これは単に一般的な自衛論の話でなく、自分の友人・知人や今目の前にいる観客たちに、無事でいてほしいと願う気持ちから出たスピーチのように感じた。
「最高級に嫌な奴だったとき、こんな人間のまま死にたくないと思って作った曲」という紹介から演奏した「冷たい人間」では
“なりたかった人間になれなかった人間は”
“諦めるか開き直るかそれとも逆らうか”
とヒリつく歌詞がグサグサと胸をえぐる。
自らを情緒不安定と称するEMILYは、心が疲れてしまって消えてしまいたいと思ったとき、スタッフや相方が気づいて外に連れ出してくれて、そうやって人は助けられてるんだな、と感じたという。
さらに続けて「自分の歌で誰かを助けたいなんて、おこがましくて思ってない。だけどこの空間に来て、初めて出会って、バカな人がいるって笑ってくれたらそれでいい。泣いてスッキリするならそれでいい。生理的に無理って嫌いになってくれればそれでいい」と話す。
そして「次の曲歌うときはいつも、しんどいときがあったら思い出してくださいね、って歌うんですけど、疲れてる人と、最近疲れていた自分に向けて歌いたい」と語り、「生きるの疲れた」という歌を紡ぐ。
ド直球なタイトル通り、生きることに疲れた、生きることが辛いとネガティブな歌詞が並び、“死ぬのは怖いから生きてるわけです”と後ろ向きに生きる理由を歌っている。
しかし曲の最後を
“ふとした時もしかして”
“「生きてて良かった」”
“とか言っちゃったりして”
“生きるの疲れても”
“生きてみようか”
という結末で〆て、重い足取りで歩む日々に小さな光を差し込んでくれる、そんな印象を与えてくれる一曲だ。
歌が終わると、フロアに向かって「お客さん泣いている?」などとイジリはじめるEMILY。KAWAGUCHIもこれに乗っかり、ちょっとした悪乗り展開へと繋がっていくのだが、詳細は伏せておこう。
最後の一曲となったタイミングで、一寸先闇バンドのおーたけ@じぇーむずへの思いも語りながら、近日リリースの新しいアルバムの中でいちばんカッコいい曲で一寸先闇バンドにバトンを渡したいと話すEMILY。さらに「ミュージシャンだからうちらも負けたくない。最後カッコいいところ見せて終わろう」と意気込む。
「気合入っているところアレだけど巻きで」とKAWAGUCHIから釘を刺されながら、本日ラストナンバーを告げる。
「バカとはしゃべりたくない」
歌い始めて早々に「ごめん、ひとつだけ言わせて」とEMILYは曲を中断させ、こう告げた。
「(タイトル)出オチだった。笑ってほしかった」
リハーサルもしたが、笑いが起きないケースも想定はしていたとKAWAGUCHIは言う。狙った通りにいかないのもまた、ライブの醍醐味だ。
仕切り直して再び歌い始めたHONEBONEのふたりにフロアからは手拍子が発生。「飲み込み早いお客さんで良かった~!」と安堵の表情を浮かべたEMILYは、軽快なメロディに乗せてキレ味鋭い歌詞を歌い、大いにフロアを盛り上げていった。
終盤には即興で歌詞を並べてパフォーマンスする高難度なパートへと移り、ピタっとハマることもあればグダグダになる場面もありつつ、HONEBONEのライブは終幕を迎えた。
EMILYの確かな歌唱力と表現力をKAWAGUCHIのギターが支えている。トークではオフェンシブなEMILYとディフェンシブなKAWAGUCHIの漫談コンビネーションも冴えていた。それはまるで“高円寺のハンバートハンバート”。
自分自身をさらけ出すパフォーマンスは喜怒哀楽に溢れ、ひとつの人生を味わうかのような不思議で面白い体験だった。
地元・高円寺にこんなに楽しくて魅力的なアーティストがいるということがわかったのは大収穫だ。
一寸先闇バンド
続いては本日の主催である一寸先闇バンド。おそらく転換時間は10分もしくはそれ以下だったのではないだろうか。HONEBONEが終わってからあっという間に彼女たちのライブが始まる。
オープニングを飾ったのは「一寸先闇」という曲。どっしりしたギターに軽やかなシンセが重なって始まる曲で、パワフルかつ空気を揺らすおーたけ@じぇーむず(Vo/Gt)の歌声がWWWに響き渡った。
タイトルからして不穏な一曲だが、おーたけはとても楽しそうに歌っており、ライブができる喜びを全身で表現しているようにも思えた。
続く「テキーラ」は軽快なリズムで“おまえの心を喜ばす明日に繋げるための酒”と歌うポップチューン。おーたけ特有のクセのある歌い方で、まるでここが酒場かのように気持ちも陽気になってくる。
3曲目に披露したのは、一筋縄ではいかない、大山拓哉(Dr)によるドラミングも印象的な「知らんがな」。一寸先闇バンドには4弦ベースは存在せず、その代わりに山口竜生がシンセサイザーベースとして大山とともにリズムを担っている。おーたけの変幻自在ともいえる表情豊かなボーカルを支えるこのリズム隊も、聴いていて楽しい存在だ。
ここでおーたけによるメンバー紹介が差し込まれる。観客から見て左手真ん中分け・大山From高円寺。観客から見て真ん中メガネのベース・山口From新宿。右手のお面・かくれみの(Piano)From夢の国。
高円寺在住をひとつの看板として掲げるおーたけによる、在住地情報込みのちょっと不思議なメンバー紹介で笑いも起こったところで、次の曲へ。
「悪そな奴はだいたい避けて歩いてる」
「ライブハウスに来るような奴はだいたいみんな友達」
メロディに乗せて紡いだこんなリリックから「フレンドゾーン」へ。これまでとは打って変わって、囁くように歌う“ただの友達 ただの友達”という歌詞がスッと心の隙間に入り込んでくるようだ。そして後半、ギアチェンジで激しく歌い、喉を震わせる。この緩急がおーたけマジックのひとつかもしれない。彼女の手のひらの上でコロコロと踊らされるように、その術中にハマっていく。
「リズム」ではかくれみのによる鍵盤ハーモニカ演奏も披露され、一寸先闇バンドとしての音色の豊かさが味わえる。ちなみにこんなハプニングがあったらしい。
MCブロックでは、おーたけの興奮が止まらない。
「ライブハウスで企画ができるようになって、しかもWWWだぜ、やば!」
「高円寺飛び出して渋谷だぜ、やば!」
HONEBONEのライブが素晴らしすぎて、「私たち帰ってもいいよね」といった発言も飛び出した。
また、本日のライブタイトルである『閃閃』の由来についてかくれみのが問うと、おーたけは丁寧に説明する。
もともと、一寸先闇バンドの闇はもんがまえに音という字であることから、もんがまえの漢字を使ってタイトルを付けたかったと。そして門に人、閃き(ひらめき)という字のワクワクな感じがいいなと思ったが、「閃」は門が開いていて中に人が通ったり動いたりしている様子だということを知り、これはライブハウスに入場するときの感じやん、ワクワク!となって「閃閃」に決めたとのこと。
「これからライブハウスに人が集まることがよくないとされてしまったら嫌なんですけど、私がこうしてゲストを招いて、お客さんとまた会える機会ができるときには、また『閃閃』というタイトルでやりたい」と語るおーたけ。
「閃」のエピソードもそうだが、おーたけがどれほど音楽やライブハウスを愛しているかが、まさにダダ漏れように観客の心に伝わってくる。ひとつひとつの言葉やリアクションが、すべて音楽への愛に満ちているようだった。
MCがグダってしまった際にも、この日のためにshibuya HOMEで喋りの練習をしていたことを明かし、結局うまくいっていないことをshibuya HOMEのスタッフに向けて謝罪する場面も。
「ライブハウスに行けない、自粛しなさい、と言われてしまったときに、もうやだ、我慢とか腹立つ、と思って書いた曲です」「今年も何回でも遊べたらいいな、と思っていますよ。という曲!」
そんなMCから「あそぼう」を演奏する。タイトルから想像するようなキラキラポップソングではなく、どこか重苦しさもあり、無条件にHAPPYとはいかない。それでもなにくその反骨精神がにじむ。まだまだコロナ禍の終わりが見えない今、心にぶっ刺さる一曲だ。
ラストに歌われるこの歌詞は、ライブ好きならきっとだれもが共感するのではないだろうか。
“あってもなくてもおんなじ?”
“そっとして触れないで”
“ぼーっとしてるように見えてる?”
“うんと辛抱してるだけなのさ”
おーたけは本編ラスト前にMCで、自身の想いをぶつける。
「今日に向けて27年生きてきた」
「エネルギーを全部ここに置いてくるつもりでいたんですけど」
「そんなことをしちゃだめだ」
「明日からも私はソロとバンドで5本連続ライブ」
「2月6日にはお世話になってるshibuya HOMEで室田夏海ちゃんの企画に出るんや」
「ここですべてを燃焼してしもたらあかんのや」
「ただ、ここに向かってくるまで結構頑張った」
「来てくださっているお客さんも結構頑張って仕事片づけてから来てくれたかもしれない」
「早い時間からここに来てくださって本当にありがとうございます」
たぶん彼女は不器用なのかもしれない。もちろん歌の表現力やギターの超絶テクニックは素晴らしく、それらを指して「器用」と呼ぶことはできるかもしれないが、ひとりの人間として、うまく立ちまわったり、手を抜くところは抜いて…という生き方ができないのではないかと感じた。
ライブ開催にあたり協力してくれたshibuya HOMEや、レコ発間近のタイミングで出演してくれたHONEBONEへの感謝も丁寧に伝えていく、そんな彼女の姿がとても印象的だった。
山口とかくれみのがポジションチェンジして「身の丈」を演奏し、本編終了。HONEBONEがライブ時間を気にしていたように、一寸先闇バンドもタイテに敏感なのか、アンコールの手拍子が鳴って早々にステージ再登場。
「祐天寺は確かにいい街です。オムニマッの前を散歩でよく通っています」とHONEBONEの曲に触れながら、「次は高円寺かもしれないし、もし機会があればまたWWWに出さしてもらえるかもしれないし。次はどこに行くかわからないけど、またみなさんと元気にライブハウスで会えるのが一番嬉しいなと思っています」
「今日は本当にここに来てくれて、居てくれてありがとうございました」
おーたけが心を込めて、感謝の言葉を届けてくれる。「居てくれて」というフレーズがなんとも胸を打つ。「見に来た」では終わらない、ともにライブを作るために「ここに居る」、そんな気持ちにさせてくれるような言葉。
アンコール曲は「高円寺、純情」
“心配ないよ、元気でね”と、寂しさと切なさが詰まっていながら、そっと背中を押してくれるような歌詞が沁みて沁みてたまらない。
確かな技術に裏打ちされた見事なパフォーマンスに加え、一寸先闇バンドとおーたけ@じぇーむずの、歌、バンド、ライブハウス、そしてそれらを好きな人々への愛に溢れたライブだった。
涙で瞳を潤ませながら「みんな、無事にお家に帰るまでが『閃閃』です。また会いましょうね」と優しく語りかけて去っていく。
一寸先闇バンドはその名前からなんだか暗くて怖いバンドなのか?と誤解を生みそうだ。そしてそれは決して間違っているとは言えず、ポジティブなエネルギーを発する明るい曲よりも、切なさや悲しさを帯びていたり、怒りを抑えながらも牙を研ぐような曲が多いかもしれない。
しかし、一寸先は闇でも、一寸先闇バンドとともにいるその場所、その時間だけは闇ではなく光りを感じられる。そんな気がした『閃閃』だった。