【ライブレポート】2020/11/26 『スピッツ コンサート 2020 "猫ちぐらの夕べ"』東京ガーデンシアター
一夜限りのスペシャルライブ「猫ちぐらの夕べ」に行ってきました。今回のライブはコロナ禍における感染症対策を施したもので、マスク着用必須、検温、COCOAアプリのインストール、座席間隔の確保、スタンディングおよび声出しNG、チケットによって集合時間も決められている、規制退場等々、いろいろな制約の中で行われました。
会場となったのは有明にある東京ガーデンシアター。収容人数は最大8000人という、できたてのデカ箱です。建物の構造上、アリーナが2階席となっており、さらにスタンド席として3階層が重なる、やや円形に広がった空間。でも思いのほかコンパクトでどのエリアからでも見やすくなっています。
両隣が空席に設定されており、前後もズレて席配置されているので視界を遮るものもない。これはこれでとても快適です。
19時開演予定でしたが、まさにジャスト19時、場内が暗転してメンバー4人とサポートのクージーがステージに登場しました。
帽子を被って爽やかなマサムネが歌いだしたのは「恋のはじまり」。アルバム『スーベニア』収録曲ですね。まったくもって予想外の選曲に驚きと興奮が沸き上がります。決して激しい曲ではないのに、かなりアグレッシブな動きでベースをプレイするたむの姿に思わずニヤニヤ。本人曰く、セットリストがおとなしめなので暴れられなくて戸惑う部分もあったようですが、普通のベースプレイヤーからすればあの姿はじゅうぶん暴れてます。
「ルキンフォー」「空も飛べるはず」とシングル曲を入れつつ、4曲目に奏でられたイントロでテンション爆上がり、「あじさい通り」です。まったくもって季節じゃないですけど、個人的にも大好きな曲のひとつ。今日はオール着席のライブということでゆったりめの曲ばかりが披露されることになっていました。普段のライブ(というほど頻繁にチケット当たりませんけど)ではなかなか聴けない曲もあるだろうなと期待していましたが、少なくともフェスやイベントではめったに味わえない一曲です。
序盤のMCでマサムネは、今回のオール着席、声出しNGという制約に触れて、具体的に「盛り上がる」ことを観客自身が表現しづらい中、首を左右に傾けてノっている観客を見つけ、「今日は君のために歌うと決めました」と発言。誰のことかは言いませんが、と付け足していましたが、多くの観客が自分ことでは!?とワクワクしたのではないでしょうか。さすがマサムネです。
「スカーレット」「小さな生き物」と、シングルやMV曲といった知名度抜群なナンバーも挟みつつ、EP&アルバム未収録曲を集めた『色色衣』収録の「魚」や、ライブでは10年、いや20年ぶり?と本人たちが言うレア曲「ハートが帰らない」を披露。
毎日スピッツを聴いて過ごしているわけではないのに、「魚」のAメロを聴くだけですぐ口ずさめてしまう。体にしみこんでいることにあらためて気づく瞬間です。「ハートが帰らない」での、マサムネの美しくもあり切なくもある伸びやかな歌声を全身で浴びる、その喜びをかみしめる。そしてサビはついつい、コーラスパートを口ずさんじゃう。これはスピッツファンならきっとわかってくれると思います。(もちろん口パクです)
スピッツの中で一番好きなアルバム『ハヤブサ』収録曲。ピックアップしてくれてめちゃくちゃ嬉しいです。
印象的なギターイントロから始まる「猫になりたい」。ファンにはおなじみの人気曲。ライブでも何度か聴いたしもちろんCDでもたくさん聴きましたが、まったく色褪せないし飽きもしないド名曲。歌も歌詞も、そしてサウンドもすべてが完璧に美しい。
「君だけを」は冒頭から初期スピッツ感たっぷり。サビも今の彼らが作るメロディと比べると明らかに違う。どこかこう、トゲトゲしさがあるというか、角ばっている感じ、と言ったらいいでしょうかね。特にこの10年のスピッツは曲に丸み、柔らかみを感じていて。年を重ねて丸くなった、ということとはまた別なんですが。最近の曲に触れる機会が多い中で、『Crispy!』時代の曲を真正面から受け止めた結果、爆発的にブレイクする前のちょっと鼻の奥がツンとするような感覚を味わいました。
次の曲は『さざなみCD』収録の「僕のギター」。このアルバムの頃から自分の音楽の幅が少し広がってパンクロックやメロコアに傾倒していったこともあり、スピッツを聴く頻度が少し減ったんですよね。ひとつひとつの曲にもそこまでなじみがない…と思っていたんですが、この曲をライブで聴いてみたら自然と体が反応して、首がゆらゆら。知らない間にしっかりと自分の中に入り込んでいたようです。意識せずともちゃんとそばにいたのがスピッツなんだなと実感しました。
MCブロックにて、緊張するときは深呼吸するといい、と言うけど今までやり方を間違えていた、とマサムネ。最初に思い切り吸い込んでいたけれど本当は息を吐ききってから吸い込む方式が正しいと。そして《あれから~~♪》と「ハートが帰らない」の一節を弾き語りで歌いきって、つまり息を吐ききって「緊張しそうなときはあの曲を使って」と身をもって提示。リアクションを求められたたむが思わず「いい声だなあ」と漏らす一幕もありました。
ここから早くも後半戦。最新曲「猫ちぐら」です。スピッツにとってはストリーミングではありますが今年唯一のリリース曲。ということはライブでは初披露になるのかな?この会場の構造(円形で包まれているような仕組み)に触れ「猫ちぐらみたい」と話していたマサムネ。猫ちぐらの中で味わう「猫ちぐら」、とても贅沢な時間でした。
《斜め方向の道がまさか》
《待ち構えていようとは》
《続いた雨も小降りになってた》
《お日様の位置もなんとなくわかる》
《寂しいけれどさよならじゃない》
《望み叶うパラレルな世界へ》
《明日はちょこっと違う景色描き加えていこう》
2020年だからこそ生まれたであろうこの歌詞をかみしめて。心弾ませる良いメロディを届けてくれてありがとう。
ここから「フェイクファー」「楓」とアルバム『フェイクファー』収録曲が続きます。「フェイクファー」を聴くたびに思う。どうしてこんなに切ないメロディが思い浮かぶだろうかと。頭のアルペジオから心奪われてしまう…。
そしてさらに秋が深まり冬も間近な今にピッタリな「楓」。
《さよなら 君の声を抱いて歩いていく》
という有名なフレーズは、皆それぞれが人生のどこかで味わったであろう、胸の奥にしまっている大切な別れを思い出させてくれます。
ライブも終盤となったところで上からミラーボールが下りてきて「みなと」へ。まるで灯台を思わせるような灯りは、コロナで道を見失ってしまった我々にとって帰るべき港への道しるべとなる光、なのかもしれません。震災や死と紐づけて解釈されることの多い曲ですが、今の状況とも重なって余計にしみるものがありました。
最後は「魔法のコトバ」「正夢」と2000年代中盤期のシングル2曲で本編は終幕となります。
《また会えるよ 約束しなくても》
《どうか正夢 君に会えたら》
2020年はアーティストやファンにとってライブができない、ライブに行けない一年でした。そういう意味でも「会えるよ」「会えたら」というフレーズがより強く印象に残る、そんなラストの2曲。
2021年は延期となっていたツアーも必ず…やれるといいなとテツヤも言っていました。多くのスピッツファンが、再びスピッツと会える日が来るといいなと思います。
アンコールに触れる前に、ライブ中に展開していたMCをいくつか。
ライブをするのも久しぶりで、今年1月以来なんだそうです。ライブがどういうものか、その感覚を忘れてしまっていたと戸惑うメンバーたち。ライブの終盤になってようやくライブ感が戻ってきたと語るたむ。これから始まる、くらいの感じだよねとマサムネも続けば会場からは大きな拍手が沸き起こりました。
ステイホーム期間にはバンドマンとしての揺らぎがあったと語るマサムネでしたが、今日のライブで、バンドマンとしてのアイデンティティをよみがえらせてくれたと感謝の言葉も。
また、今日のこのスタイルはデビュー当時にやったシアターコンサートに近いとも。でも今日のほうが盛り上がっているとマサムネ。心が通じている感じがするという話から、デビュー当時は俺らも閉ざしてたからね、とテツヤが返します。観に来てくれた人に悪かった…と30年近く前のことを謝罪するスピッツでした。
セットリスト的に抜きがなくてバカになれないと嘆くたむにとって、こういった緩いMCの時間がむしろありがたいという話も。MCのときに暴れればいいじゃん!とまた適当なことを言うテツヤです。
また、マサムネとテツヤのふたりは帽子を被っていたのですが、帽子外したら鳩が出るとか?とテツヤがジョークを飛ばす場面がありました。これにマサムネは(帽子から)カラスと雀が飛び出す…と語り、鈍い反応をしたテツヤに「わかんなかった?」と問いかけ、これが鬼滅ネタであることを匂わせていました。
トーク中に(声出しNGのため)観客からの声の反応がないことでとてもやりづらそうでしたが、後で「マスクが揺れてるのがわかるから」と声ナシでも大丈夫であることを伝えて観客を安心させるテツヤ、めちゃくちゃ優しい人です。
さて、ここからはアンコールです。何の曲をやるんだろうとドキドキしていると、始まったのは「初恋クレイジー」!なんて嬉しい選曲。テンポは速くはないけれど、タイトル含めて全体的にとてもポップな曲。本編での基本ゆったりしっとり染み入る曲たちと比べても明らかに違う。
《見慣れたはずの街並みも》
《ド派手に映す愚か者》
《君のせいで大きくなった未来》
という、これ以上ないくらい恋のワクワク感を表現する冒頭の歌詞はまるで、アンコールではスイッチちょっと変えるからね、という合図のようでした。
曲を終えるとメンバー紹介コーナー。ひとりずつ丁寧にコメントを紡いでいきます。まずはたむ。コロナで世界が変わってしまった中、今日のライブで「一歩踏み出せた気がする」という力強い言葉がありました。そして「楽しかったというより、嬉しかったです」というコメントが個人的にはいちばん印象に残っています。
クージーは「魔法のコトバ」の歌詞を引用し「また会えるよ、約束しなくても」とキレイに決めてくる。
「緊張したけど、心を燃やせ!と自分に言い聞かせて」と話したのは崎ちゃん。これに「煉獄さんだろ?」と反応したのはテツヤでした。そのテツヤは「声援もいいけど心のこもった拍手は伝わるんだ」という、自分含めて会場にいたみんなにとってめちゃくちゃ嬉しいコメントを残してくれました。
メンバー紹介も終わり、演奏再開。アンコール2曲目は「ウサギのバイク」です。疾走感のあるオープニングからもう興奮が止まりません。
《脈拍のおかしなリズム》
《喜びにあふれながらほら》
と、陽のサウンドが“猫ちぐら”を駆け巡っていきます。ちょっと涙が出るほど嬉しくて楽しくて。
最後の曲として披露されたのは「ハネモノ」。制作時、ある事件による人々の不安を和らげるために作ったと言われている曲です。まさしく、曲自体がキラキラしていて優しさと希望を携えている、そんな一曲。個人的にこの曲が収録されているアルバム『三日月ロック』への強い思い入れのせいなのか、曲のパワーのせいなのかわかりませんが、とにかく涙が溢れて止まりませんでした。大げさでなく。おかげでマスクが濡れまくってしまいました…。曲に合わせて自然発生的に響いた会場中の手拍子も最高でした。
着席スタイル、視界良好という環境でひとつひとつの曲をじっくりと味わうことができ、とても貴重な時間を楽しめたと思います。アンコールでの3曲は希望に満ちていて、本編との違いも含めて見事な構成でした。
随所に散りばめられたテツヤのアルペジオ。数々の美メロに変態的で複雑なベースラインを乗せてくるたむ。アクリル板に囲われて、最後方からバンドの屋台骨を支える崎ちゃん。曲に彩を与える、スピッツの音楽に欠かせないクージーのキーボード。そしてもちろん、最初から最後まで美しい歌声を届けてくれたマサムネ。最高の5人が完璧なライブを披露して、奇跡のような夜は終わりを迎えたのでした。
こんな状況下でなければ実現できなかったコンサート。2021年にはまた、隣の人と触れ合う距離でみんなが声をあげ、何を気にすることなく盛り上がりながら音楽を楽しめることを願いつつ、今だからできる意義のある時間をスピッツと共に過ごせたことを心から喜びたいと思います。
会場に来れなかった方はぜひ、オンライン上映があるようなのでそちらをチェックしてみてください。素晴らしい曲の数々をぜひ味わってほしいです。
https://spitz-web.com/concert2020/movie/
セットリストはこちらから各ストリーミングでも聴くことができます!
01.恋のはじまり(スーベニア)
02.ルキンフォー(さざなみCD)
03.空も飛べるはず(空の飛び方)
04.あじさい通り(ハチミツ)
05.スカーレット(フェイクファー)
06.小さな生き物(小さな生き物)
07.魚(色色衣)
08.ハートが帰らない(ハヤブサ)
09.猫になりたい(花鳥風月)
10.君だけを(Crispy!)
11.僕のギター(さざなみCD)
12.猫ちぐら
13.フェイクファー(フェイクファー)
14.楓(フェイクファー)
15.みなと(醒めない)
16.魔法のコトバ(さざなみCD)
17.正夢(スーベニア)
EN.
18.初恋クレイジー(インディゴ地平線)
19.ウサギのバイク(名前をつけてやる)
20.ハネモノ(三日月ロック)