【ライブレポート】2023/11/13 板歯目 × SPACE ODD「呼びたいバンド呼んでみた庵原編」
板歯目の自主企画に行ってきた。「呼びたいバンド呼んでみた」と題し、板歯目のメンバーそれぞれが好きなバンドを呼んで組まれた3本のイベントのひとつ。今日はドラムの庵原大和が選んだ3組との対バンだ。
メンツは、Viewtrade、Hwyl、レトロマイガール!!。板歯目を入れたこの並び、私のインディーズの趣味を知る人なら(そりゃ行きますよね)と納得するであろうラインナップ。
いつもならつつがなく仕事を片付けて会社を出るのに、今日に限って出る直前にトラブル発生で、結果開演10分過ぎての会場着。
ちなみに入場受付時、代官山SPACE ODDの事務所(?)窓に、客から見えないよう黒い幕を貼っていたのだが、それが剥がれてしまい、「少しお待ちいただいてもいいですか?」とスタッフが急ぎ修繕作業。すぐに終えてから受付となったのだが、その際丁寧に「お待たせして申し訳ありませんでした」と謝罪の言葉を伝えてくれた。
細やかな心配りにちょっと感動しての入場。ライブハウスの受付スタッフは、そのハコの顔でもあるので、こうした対応は本当に素晴らしいなと思う。
Viewtrade
さて、ステージではもうViewtradeが絶賛ライブ中だ。すでに持ち時間の半分以上は経過していただろうか。2020年京都市下京区にて結成されたオルタナティブロック&ポップバンド、とのプロフィール。
もともと彼らは板歯目のファンで、ライブを観てグッズなども買っていたんだそう。そんな立場だったのが、今はこうして対バンとして呼ばれているのだから、ある意味ファン冥利に尽きるといったところだろうか。
ビジュアル面で紅一点、ピンク髪のぱんだ(Ba)が目を引く4ピース。池田凜哉(Vo/Gt)は曲前に短い口上を添えて歌へ漕ぎ出していく。
「路地裏にひとり佇むモーツァルトの話をしましょう」と語ってからの「路地裏のモーツァルト」や、「物好きなあなたにサプライズを用意しました!」と告げてからの「物好きなSurprise」。さらに「ラストは10日前リリースの僕らの大事な曲」という曲紹介とともに最新シングル「ナナメノ革命」を演奏。
言葉をぎゅっと詰め込んだ高速歌唱を、軽快なサウンドに乗せて繰り出したり、曲構成も緩急やアップダウンがあって変化に富んでいたりと、一筋縄ではいかないポップさが面白いな…と感じるバンド。
X(Twitter)のプロフには「ポップをナナメから視るバンド」と記されており、まさに納得のライブだった。
1.チェイサーの最終戦
2.遮二無二アイキャッチ
3.ひねくれディスコティック
4.路地裏のモーツァルト
5.物好きなSurprise
6.サマータイム・メランコリー
7.ナナメノ革命
Hwyl
続いて登場は、ここ最近グッと力を増してきている3ピース&サポートドラム編成のHwylだ。個人的には8月開催の『歌舞伎町 MUSIC CHRONICLE 2023』以来3ヵ月ぶりのライブ鑑賞となる。
1曲目は「i don't know」。なんの予告もなく、あきたりさ(Vo/Gt)のアカペラから始まる歌で、その構成からもライブのオープニングナンバーを担うことが多い。
《何十年か前に あと何十年後かに》
《やってくるテロリスト》
《この街にウイルスを持って》
こんな歌詞で始まるりさの歌い出しから、一気に引き込まれてしまう。たった3ヵ月観ない間に、さらにボーカルに磨きがかかっているのか…と思わせる引力。その歌声で観客を惹きつけてから、一気にバンドサウンドを解放してあっという間にHwylの世界へと誘っていく手腕は見事。
「板歯目、呼んでくれてありがとうございます! Hwyl始めます!」
そんなりさの挨拶を挟んで、続く曲は「SIREN」。クマダノドカ(Gt)が手拍子を促せば観客もこれに応え、ステージとフロアのコミュニケーションもバッチリ。タイトルに合わせた、まるでサイレンのような音を奏でるギタープレイも飛び出すなど、楽しみながら音楽をしていることが伝わってくるような演奏だ。
3曲目は「わからないよな」。力強さと安定感を兼ね備えた、りさちの歌声の素晴らしさを再認識させてくれる一曲だったが、ノドカのギターソロの裏で鳴らされるタケマトモヤ(Ba)のベースも聴きどころ。
続く「オマエアレルギー」では、イントロでりさとノドカの対面ギタープレイが華やかさを演出する一方、リズム隊のふたりが顔を合わせながら演奏するシーンもまた彩りを添えてくれる。声を震わせ熱唱するりさの横で軽快なステップを刻むノドカとタケマの姿のコントラストも印象的。
「こんばんは、H・W・Y・Lで『Hwyl』というバンドです」「月曜夜から、仕事や学校、バイトを終えて遊びに来てくれてありがとう」と皆の日常を思わせる感謝の言葉から「暮らし」へと繋げる。
ギターといえばやはりソロプレイが一番の見せ場となるものだが、「暮らし」ではりさの歌声に重ねて演奏するノドカのギターがめちゃくちゃカッコいい。ふたりの生み出す音の相乗効果で、さらにその魅力を解き放っているようだった。
6曲目は「うまく生きられない人に、少しでも寄り添えたら」というりさの言葉とともに、最新リリース曲「安全地帯」を。イントロからA・Bメロまで、一定のリズムで刻まれるギターとベースが、まるで歌と、そして歌を聴くリスナーと伴走しているかのよう。歌の世界だけでなくこうしたアレンジの部分でも「寄り添う」ような仕掛けで豊かに楽曲を表現するHwyl。
今日呼んでくれた大和への感謝や、さらにこれから板歯目とも仲良くしていきたいと豊富を語った後、「現在地」へ。ギターを下ろし、ひとりマイクと対峙しながら歌うりさ。弦を押さえる左手がネックの先から根元までグイグイと移動するダイナミックなタケマのベース、そして情緒たっぷりなノドカのギター、さらにサポートドラムのハイハットが作り出す独特のぬくもりが心地よい。タケマは曲後半にムーディなベースソロも披露。耳が喜ぶような一曲だった。
ノドカによる、2024年ワンマン詳細解禁の告知を挟み、「さすらい」を演奏する。同曲はこれからリリースされる、Hwylにとっての最新曲となる。決して派手さがある楽曲ではないのに、熱のあるバンドサウンドとりさの歌声から放たれるパワーがスゴイ。そのせいか、リリース前にもかかわらずフロアからはたくさんの手が上がっていた。
Hwylは最後に勢いある演奏で「Treasure」を届けて、ライブを終える。数ヵ月観ない間にさらにスケールアップしていたように感じた。着実にファンを増やしなら歩み続けるHwyl。新曲リリースに初ワンマンと、これからもたくさんワクワクさせてくれそうだ。
1.i don't know
2.SIREN
3.わからないよな
4.オマエアレルギー
5.暮らし
6.安全地帯
7.現在地
8.さすらい
9.Treasure
レトロマイガール!!
3組目に登場したのは、大阪・北摂から来たレトロマイガール!!。
ステージに登場し、SEが消えてから一瞬の静寂を経て、花菜(Vo/Gt)がおもむろに
《でぃーだっだらだっだらだらだら》
《鐘を鳴らしてディンドンディンドン》
と、板歯目の「dingdong jungle」を豪快な巻き舌を駆使しながら歌い始めた。千乂(Vo/Gt)のボーカルではそこまで巻き舌感はない印象だが、それはもしかしたら、千乂特有の喉を激震させる歌唱が巻き舌の存在感を薄めているのかもしれない。逆に、花菜のピュアでストレートな歌声ゆえ、巻き舌がより際立っていたのだろう。
この「dingdong jungle」コピーは、9月27日に下北沢MOSAiCで開催されたレトマイ自主企画の「あの子の居場所」リリースイベント東京編でも、レトマイが披露している。
続いて2曲目は、板歯目の大和が好きな曲だという「カトレア」。あやき(Ba)、ひらおか(Dr)のリズム隊が作るグルーヴに、花菜のキュートな声が乗る。ラブソングではありつつも、そのベースラインや途中挟み込まれるセリフパートなどどこか不穏な空気をまとった曲。その不穏、あるいは不安さを帯びたまま次の曲「逃避行」へ。こちらもまた、愛、それもすれ違いやその終わりが見えてしまった悲しい愛を歌う、不穏な曲。
ただし「逃避行」は四つ打ちのおかげでリズムに身を委ねられる、そんな安心感も伴っている。展開豊かでパワフルでもあり、また花菜の表現力も感じられるボーカルが味わい深い。
MCでは、板歯目と出会って一年ほどだが、すでに忘年会の約束を取り付けるほど仲を深めていると語っていた。
あっという間にライブも後半戦。「ここからはポップな曲」という花菜の言葉から、「君と夕焼け」へ。宣言通りのポップさで心なしかステージ上には華やかな空気も。たくさんの手が上がったフロアに、あやきも笑顔を浮かべていた。
5曲目は、昨日行われた福岡のライブで解禁した「クリスマス」という、ド直球タイトルな一曲。確かに街はハロウィンも終わり、徐々にクリスマスな装いになってきてはいる。しかし自分の中にはまだ影すらもなく、突然突き付けられたクリスマスに(もうそんな季節か…!)と焦りを感じてしまった笑。
そんな(どんな?)「クリスマス」だが、ベースの単音がゆっくり響くイントロが印象的。ポップとは言いながら、どこか哀愁も漂うメロディが、素通りを許さない曲の強さを示していた気がする。花菜とあやきによる「目を覚まして!」というフレーズも強烈。アウトロでひらおかが鈴を鳴らし、クリスマス感を演出していた。
ここからラストスパート、ということで、ゴールに向けた盛り上がりにふさわしい「never」を披露。転調も入れながら熱量を加速させていく。
そして最後の演奏曲は、音源化されていない新曲「バンジー」。ポップなツービートによる疾走感、そして途中刹那に放り込まれるスカのリズムが最高に楽しく、これは初見の人でも一発で盛り上がれる曲だ。フェスでの武器にもなりそうで、今から音源リリースが楽しみ。
コピー、クリスマスソング、ラブソングにパンキッシュな曲とバラエティ豊かなセットリストで冬の代官山を彩ったレトマイ。花菜の陽なキャラもあって、実に楽しい30分だった。
1.dingdong jungle
2.カトレア
3.逃避行
4.君と夕焼け
5.クリスマス
6.never
7.バンジー
板歯目
トリを飾るのはもちろんこの3人。板歯目だ。音合わせの時点でゆーへー(Ba)の爆音が凄まじすぎて、思わず笑ってしまった。
ライブ本番も、その轟音が象徴するような爆発力たっぷりのオープニング。まるでマグマの咆哮かというくらいの沸騰感。
1曲目は「人生はサーキットレース」。3人が個々に暴れまくっているようでいて、不思議と調和が取れているという謎の現象に驚愕してしまう。唸るゆーへーのベース、叫ぶ大和、轟く千乂の激唱。
「ラブソングはいらない」では、ベースをまっすぐ立てたウッドベーススタイルで演奏するゆーへーを筆頭に、モンスター3人のド迫力パフォーマンスが止まらない。ハンパない熱量、混沌と秩序の往復に圧倒される。千乂の歌声はまるでマグナム弾のように強く重い。
何度もライブを観て、そのたびにあ然とするレベルの壮絶なアクトを見せつける板歯目だが、今日も今日とて、序盤2曲で食らってしまった。
MCでは、これまでの様相とは打って変わって、素朴でおとなしい千乂の顔が出る。
静かな声で「こんにちは、板歯目です、よろしくお願いします」とポツリ。さらに「呼びたいバンド呼んでみた、2日目。大和の日です」と続け、大和に感想を促すと、「こんな幸せになっていいんかって」と大和から心の声が漏れる。
大和の日、と言いつつ3人が好きなバンドを呼んでいると語った千乂は、Viewtradeについて、以前からライブを観に来てくれていたが、いざ彼らのライブを観たら自分たちよりカッコいい…と話す。Hwylは、今日含めて何本もライブ一緒にやることになるということで仲良くなりたいと話す。そして最後に「レトマイはもう、まあ、って感じで…笑」と言葉を端折る。板歯目とレトマイの関係の深さが垣間見られた瞬間でもあった。
そして「ここしかMCないので、あとは曲やって終わりたいと思います。ありがとうございました」と早くも喋りを〆て演奏再開。
もはやSNSでバズった、などという紹介も不要な「地獄と地獄」。その破壊力と、ここではマシンガンな千乂の高速ボーカルも鮮烈な一曲だ。
続く「オルゴール」は最新アルバム『遺伝子レベルのNO!!!』1曲目に収録された曲。展開の読めない曲が多い板歯目の中でも、キャッチーでポップな部類に入るだろう。それでもベースラインのエグさ、圧巻のドラムプレイなど板歯目印は健在だ。また、ギタリスト千乂が楽しめる間奏も聴きどころのひとつ。
板歯目は、音源とは異なる(セッションに近い)間奏を放り込むことがあるのだが、このクオリティがとんでもなくて、ひとつのインスト曲として聴きごたえがあり、たまにどちらがメインかわからなくなるほど。
ゆーへー怒涛のスラップで始まったのは「SPANKY ALIEN」。こちらも「オルゴール」のようにキャッチーなサビによってコアファン以外にも広がる可能性を感じさせる曲。このサビは四つ打ちなのだが、大和の四つ打ちは軽やかというよりも、パワフルだ。ゆーへーのベースソロもあり、華のある一曲。
間髪入れずに次の曲「オリジナルスクープ」へ。音源リリース時、初めて聴いた瞬間、耳に残るリフに惚れて個人的2024年ベスト曲のひとつにランクインした曲。スポットに照らされ、なかなかの尺でドラムソロを展開する大和の時間はめちゃくちゃ贅沢だ。ライブで浴びて、やはりこの曲は自分にとってドストライクだと再確認。荒々しいなかにも洗練されたものを感じる最近の板歯目の楽曲やメロディに、さらなるレベルアップを感じずにはいられない。
しかし毎曲規格外の熱量で投じられるので、それを受け止める、聴く側の体力がガシガシと削られていくような感覚に襲われた。おそるべし板歯目。
曲が終わるとそのままバスドラを鳴らし続け、「dingdong jungle」へとなだれ込む。喉と空気を震わすのが千乂スタイルで、豪快に歌う。
最後にひと言「ありがとうございました」と告げてから、本編最後を「まず疑ってかかれ」で〆る。髪を振り乱しながら、まるで顔で叩くかのような形相でプレイする大和の圧倒的なドラミングが光っている。そしてここでも聴かせるインストならぬ間奏アクト。どこを切り取っても必聴な板歯目の演奏に、終始興奮しっぱなしだった。
アンコールでは、「ちっちゃいカマキリ」を披露。タイトルからは想像もつかない超絶エネルギッシュな曲で、後半には何度も転調を重ねてキーを上げていくボーカル泣かせな構成も入れ込まれている(千乂はものともせず歌いきるが)。ゆーへーがステージ上手の千乂サイドに移動して演奏したり、リズム隊によるソロプレイが差し込まれたり、アンコールらしいお祭り感が楽しい。
ラストでどう〆るか、呼吸を合わせながら続ける3人だったが、「楽しくなっちゃったんで…ごめんなさい!」という千乂の言葉で、もう1回「ちっちゃいカマキリ」を演奏することに。
アンコールで同じ曲を繰り返すという、次に何が飛び出すかわからない、板歯目らしいスタイルで今日のライブは幕を閉じた。
メンバー3人の、心から楽しみながらライブをやっている姿は、観ている者の心をワクワクさせてくれる。これからも規格の枠からはみ出しながら、板歯目らしさを突き詰めて進んでいってほしい!
1.人生はサーキットレース
2.ラブソングはいらない
3.地獄と地獄
4.オルゴール
5.SPANKY ALIEN
6.オリジナルスクープ
7.dingdong jungle
8.まず疑ってかかれ
9.ちっちゃいカマキリ
10.ちっちゃいカマキリ(2回目)
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