見出し画像

就活ガール#292 意外と使えるキャリアセンター

これはある日のこと、キャリアセンター前のカフェで同級生の美柑と雑談をしていた時のことだ。チラっとキャリアセンターの方を見ると、数人の学生が職員と面談している様子がぼんやりと目に入った。

「なぁ、俺たちってなんとなくいつもここに集まってるけど、キャリアセンターに入ったことほとんどないよな。」
「私はあるわよ。」
「えっそうなんだ。全然知らなかった。いつの間に……。」
「そりゃあ音彦と会う時以外でも来る時はあるもの。どうして役に立たないと思うの?」
「いや、正直うちの大学のキャリアセンターってレベル低そうだなって思うんだよ。」
「レベルが低いのは学生であってキャリアセンターじゃないでしょう。」
「そうなんだけど、レベル低い学生向けにやってるんじゃないのかなって思うんだよな。」

「なるほどね。まぁそれ自体は間違ってないわ。」
「キャリアセンターってその大学のマス層向けに作られてるよな。その学校の標準的な就活生と比べてレベルが低すぎる人にも高すぎる人にも向いてないと思う。」
「前半はその通り。でも、自分のレベルを過信しすぎない方がいいんじゃないかしら?」
「たしかに俺もレベル高くはないとは思うんだけど、正直この大学の中では頑張ってる方だと思うんだよな。そもそも3年生のうちから就活してる人がほとんどいないだろ。」
「ええ。この大学の中では上澄みだと思うわ。謙遜も過信もせずに、自分の立ち位置を冷静に判断しようとする姿勢はとても大切よ。」
「うん。でもまぁ他大学の就活生と比べたら全然ダメだとは自分でも思う。本来なら学歴がない分、他大学の学生以上に頑張らないといけないはずだけど、それができてるかっていうと微妙だな。」

「それに、キャリアセンターって必ずしも職員のサポートを受けるだけの場所ではないのよ。」
「そうなんだ?」
「ええ。面談以外にもいろいろとやっていて、例えばキャリアセンターが主催するセミナーに外部の講師や企業の人事担当者が来てくれることがあるわ。それから、内定者の選考口コミがデータベース化されてたりとか、外部の合同説明会のスケジュールが載ってたりとか、就活関連の書籍がおいてあったりとか、幅広く使えるわね。」

「セミナーってのはどういう人が来るんだ?」
「基本は、大学のレベルが高いほど良い講師や企業が来やすいわ。セミナーする側だってビジネスとしてやってるわけだから、わざわざ見込みの薄そうな学生が多い大学に行こうとは思いづらいわね。」
「だよな……。良い人の就職をあっせんしたいとか、採用したいとか、そういう思惑で大学まで学生に顔を売りに来てるんだろ。」

「ええ。でも、キャリアセンター側は偏差値が低い大学ほどやる気があるのよ。ある程度高学歴の場合は学校が何もしなくても学生が能動的に動いてよい内定を取って来るから。」
「ああ、そういうことだったのか。高学歴の人たちもよく『キャリアセンターはクソ』みたいなことを言ってたから、底辺大学なんてなおさらクソだと思ってたけど、逆だったんだな。」
「ええ。あとは私立大学の方が就活実績が受験料収入に直結するから、キャリアセンターに力を入れがちだわ。逆に国公立大学の場合は就職よりも学問っていう風潮が強いわね。」
「なるほど……。たしかに受験生の親とかは、大学の就職実績をよく見てるもんな。それに私立大学が国公立大学よりも利益に敏感というか、経営の維持が大変なのはわかる。」

「で、底辺大学のキャリアセンターはやる気があるから、大手企業への営業を結構頑張ってるのよね。」
「営業?」
「うちの大学にセミナーしに来てくださいっていう感じの売り込みよ。」
「そうなんだ。キャリアセンターの人はそんな仕事までやってたんだな。」
「ええ。学生に見えないところでも結構頑張ってるわ。キャリアセンターの職員が大学の偏差値を上げられるわけでもないのに自大学の売り込みをしないといけないって結構辛い仕事じゃないかしら。企業の担当者は無数の大学や人材会社から営業を受けてうんざりしてるわけで、雑にあしらわれることも多いでしょうしね。」
「ゴミ商品を売り続けないといけない営業職みたいな感じかな。訪問販売とかテレアポとか俺も迷惑だなぁと思ってあしらってるけど、やる側の苦労を想像すると……な。」
「そうね。まぁ法人営業が基本だから、個人営業よりはマシだと思うわ。あと、営業職は開発職に対して『良い商品を作れ』という不満を持っていて、開発職は営業職に対して『ちゃんと売れよ』と思っているっていうのはどんな会社でも少なからずあることじゃないかしら。」
「なるほど。」

「で、たまに売り込みに成功して、大手企業がFラン大学に企業説明会をしに来てくれるのよね。」
「凄腕のキャリアセンター職員がいるってことかな。」
「あとは、大学との昔からのつながりみたいなのもあるわね。例えば地元の企業だと何年もかけて卒業者が多数その企業に就職していて、企業内で権限を持つくらいまで出世してる場合もあるわ。起業して成功してる人だって、どの大学のOBにも何人かはいるしね。」
「なるほどな。あとはFラン大学でも教授や職員はそこそこ高学歴ってことが結構あるから、そういうところからのコネっていうパターンもありそうだ。」
「元同級生とか、転職前の同僚とかね。たしかにそれもあるわ。」

「セミナーや会社説明会以外にもキャリアセンターに行くメリットあるんだっけ?」
「ええ。たいていの場合、内定者の情報がデータベースになってるわ。」
「うちの大学の内定者の情報見てもなぁ……。」
「なに言ってるのよ。昔から各学年にまともな人は何人かいたはずよ。そういう人たちがキッチリ大手企業に受かってるわ。」
「それもそうか。」
「あと、昔は今より大学進学率が低く、社会全体で見た時の大卒の価値が今より高かったのよ。だから私たちの世代よりもレベルの高い学生が集まっていた可能性が高いわ。」
「あ、そっか。数年前の先輩くらいだとあまりかわらないかもしれないけど、10年20年っていう単位でみると、大学の雰囲気とかも結構変わってくるよな。」
「そうね。20年前に卒業した人はちょうど今ごろ管理職になってたりする頃じゃないかしら。」
「そういう大昔の人たちの情報もデータベースになってるのは強いな。」
「学校によってはデータの電子化が完了してなくて、紙のまま保存されてたりすることもあるけど、目次くらいはパソコンで検索できるはずよ。ちなみにうちの大学もそのパターンだわ。」
「意外とFランのOBも捨てたものじゃないんだなぁ……。」

「ええ。ちなみに、自分が就活に成功したら、当然OB訪問を受ける側になることもあるわよ。」
「なるほど、その可能性もあるか。」
「ええ。別に大学に内定先の情報を伝えるかとかOB訪問やセミナー登壇の依頼を受けるかは個人の自由だけどね。」
「やるなら会社に断ってからやるんだよな?」
「ええ、もちろん。業務上知りえたことを社外で明かすのはNGだから、厳密に言うと個人で大学を介さずにやってるOB訪問とかも許可を受けないとアウトという就業規則になってる会社がほとんどだと思うわ。実際に許可を受けてるかは別としてね。」
「わかった。あとは報酬を受け取っての登壇となると副業関係の規定とか税金関連の処理という意味でも、会社に知らせておいた方が良さそうだ。」
「ええ。逆に言うと、わざわざ後輩の世話をしてくれてる会社員は、そういう手間をかけてまでやってくれてるのよ。」
「そう考えると感謝しないといけない気になってくるし、せっかく学費や設備費を払ってキャリアセンターの人が仲介してくれる権利を買ってるわけだから、利用しないともったいない気がしてきた。」
「ええ。その通り。まぁキャリアセンター以外にも頼りになる人はいくらでもいるからキャリアセンターにべったりになる必要はないけど、せっかくだから気軽に立ち寄ってみるといいと思うわ。」
「おう。今日もありがとう。」

そこまで話したところで会話を終えた。そして、そのまま目の前のキャリアセンターのドアをくぐると、面談を受けている人たちの横に、パソコンが大量に並んでいた。さらに奥に目をやると、紙のファイルがずらっと並んでいる。これが美柑の言っていたデータベースなのだろうか。

キャリアセンターの職員は人材会社の職員と異なり、初めから就職支援をするために学校法人に就職したわけではない人も多い。したがって、場合によってはあまりやる気がない、いわゆるハズレ担当者にあたることも珍しくないだろう。しかし、しっかりと学生のことを考えて仕事をしてくれている担当者がいるのも事実なのだ。そんなことを振り返りながら、一日を終えるのだった。

いいなと思ったら応援しよう!