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就活ガール#102 企業から見たOB訪問
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これはある日のこと、ゼミ室でアリス先輩と話していた時のことだ。
「アリス先輩ってOB訪問したことあるんですか?」
「もちろん、結構やってたわよ。」
俺の問いかけに対し、くるりと回転いすを回してこちらを向き、答えてくれる。今日も就活質疑応答タイムの始まりである。
「どうやってOB見つけたんです?」
「ああ、わかるわ。」
何がわかったのかよくわからないけれど、アリス先輩が大きく頷いている。俺が不思議そうに見つめていると、更に話を続けた。
「白雪学園のようなFラン大学だとまともな大手企業にOBがほとんどいないから、大学のキャリアセンター等を頼っても全然OB訪問先が見つからないって話でしょう?」
「あ、はい。そうです。まさにそれを思っていて聞きたかったんです。」
「最近はOBと学生をマッチさせてくれるアプリがあるわよ。それだと同じ大学以外の人でも誰とでもマッチできるから、わりと簡単にOB訪問先が見つかるの。もしくは、選考であった人にお願いして先輩などを紹介してもらうことね。」
「あ、そんなものがあるんですね。ありがとうございます。」
そう言いながら少し検索してみると、確かに複数のOB訪問マッチングアプリが見つかった。この辺も情報を知っているかいないかで大きな差が生まれるところだろう。また、選考中に知り合った人にお願いするというのは少し勇気がいる行為であるが、そんなことも言っていられないのが現実だ。どうせ相手は大して気にしていないのだから、やれる対策はすべてやった方がよいに決まっている。
「ただ、アプリはいろいろと注意する点もあるわ。一番は、あんまり優秀な社員がいなかったり、あるいは仲介業者が紛れ込んでいることね。」
「仲介業者はなんとなくわかります。SNSなどでも大学生だとプロフィールに書いているだけで、大量にメッセージ来ますから。」
「優秀な社員がいないってのは、優秀な社員は本業に忙しいっていう意味よ。もしくは、余裕があったとしてもわざわざ就活生の相手なんてしない。」
「たしかに、OB訪問ってされる側のメリットが全く分からない行為なんですよね。場合によっては軽食を奢ったりもしてくれるし、損しかないような気がします。」
「そうね。まぁ若い女の子と会えるとかはメリットかしら。それでトラブルになる事例も多いことも、企業側がOB訪問に消極的になりがちな理由の一つなんだけどね。」
「あ、なるほど。俺はそういう経験はないですが、たしかにニュースでたまにみますね。」
「あとは、学生に褒められたい社会人って意外といるのよ。はっきいえば、会社や社会からあまり評価されていなくて、他人に認められたいという承認欲求を持て余しているタイプね。」
アリス先輩がバッサリと切り捨てる。
「うーん。そう言われるとアプリは微妙な気がしてきました……。」
「大丈夫よ。そういう人たちが多いっていうだけで、実際はそうじゃない人もいる。特に新卒1、2年目の人は別に能力がないわけじゃなくて、単純に今時点では経験不足であり就活についてしか語れないから、就活についてで承認欲求を満たそうとしているだけというケースもあるわ。」
「なるほど。おっさんは注意ということですね。」
「はっきり言ってしまえばそうなるわね。あとは、複数人に会ってみて、いい人を探すっていうのも手だわ。どうせ空いてる時間なら、会って損することはほぼないんだから。」
「わかりました。ありがとうございます。」
アリス先輩に礼を言って、アプリをインストールして開いてみる。見ると、たくさんの怪しい業者と、やたらカッコいい写真の先輩社員たちが大量に載っていた。企業名を公開している人もいれば、「大手商社」など抽象化している人もいる。基本的に、学生よりも社会人の方が多いようだ。考えてみれば、学生はせいぜい4学年しかないのに対し、社会人はその10倍の40学年くらいあるのだから当然だけれど、それでもやっぱり、新卒と知り合いたい大人の多さに少し怖さを感じる。どの先輩社員と話せば良いのかは正直よくわからなかった。
「これでOB訪問しまくって、面接でアピールすると合格率あがったりするんですかねぇ。」
検索しながらつぶやくと、アリス先輩が即座に否定してきた。
「そんなわけないでしょう。」
「え、ちがうんですか。」
「企業ってOB訪問を必ずしも良いものととらえていないのよ。」
「さっき言ってた就活セクハラみたいなやつですか? でもそれって圧倒的に少数派だと思います。そんなに嫌がるほどのことですかね?」
「それだけじゃないわ。」
「え、まだあるんですか。 学生が興味を持っているからこそわざわざOB訪問をすると思うんですが。」
アリス先輩の発言に、もう一度食い下がる。
「就活セクハラもそうだけど、一番のリスクは情報漏洩ね。よく考えたら、広報や人事と違って普段から社外の人と会うわけでもない、内勤の社員たちが勝手に社外の人と会って、勝手に質問に答えてるのよ。何を言われるかわかったものじゃないでしょう?」
「た、たしかに。言われてみるとその通りですね。人事とか広報の人は、ちゃんと対応をあらかじめ勉強してるでしょうけど、エンジニアとか経理とかの人はあまり社外の人と会わないと思うし。」
「そうよね。だから、言っちゃいけないことを言ってしまうことが往々にしてあるのよ。そしてインターネットの時代だから、それがすぐに全世界に広まってしまうリスクもある。」
「なるほど。」
「そうすると、OB訪問をしない方がいい場合もあるってことですか。」
「いいえ、そんな場合はないわよ。OB訪問をして損をすることは基本的にない。よっぽどやらかした場合は別だけど、そうじゃない場合はいちいち人事に報告されないし、されたとしても人事も気にしてないわ。だってOBの人は面接官でもなんでもなく、人を見極める目を持っていないんだもの。参考資料の一つとして利用するかもしれないし、しないかもしれない。その程度の認識でしょうね。」
「え、話が違くないですか? リスク高いから辞めろってことかと思ったんですが。」
「いいえ。ちゃんと人の話を聞きなさい。」
「すみません。」
そう言って改めて考えるけれど、よくわからない。しばらく黙っていると、アリス先輩がいつもより少しだけ優しい声で教えてくれた。
「あのね。OB訪問で情報を仕入れること自体は悪くないの。でも、それを意気揚々と面接で述べる必要はないってことよ。」
「すみません、まだよくわからないです……。」
「例えばOB訪問で、その企業がどういう人材を欲しがっているかということがわかるでしょう? で、面接のときに自分がそういう人材だとアピールするの。」
「企業がどういう人材を欲しがっているかに合わせて、自分がどういう人材化をアピールするっていう順番なんですね。」
「そう。相手が欲しがっているものを提供するのが面接だからね。企業が積極的な人を欲しがっているのであれば、自己PRは積極性を中心にするといいと思うわ。」
「なるほど。それはそうですね。」
「その時、できれば普通とはちょっと違う感じのアピールがいいでしょうね。」
「違う感じってどういうことですか?」
「積極性は皆がアピールすることでしょう。だからOB訪問をした甲斐がないのよ。その点、例えばOB訪問を通して『最近コンサル業界内でDXが流行っていて、それに強い人材を欲しがっている』ということがわかれば、それを面接でアピールするといいと思うわね。積極性っていう抽象的な概念よりも志望度が高く見えるでしょう?」
「なるほど。そういうのはOB訪問した人だけが知ってる情報だから、周りの人と差をつけられそうです。」
「そんな感じで、OB訪問で聞いた内容を回答に盛り込んでいくの。あらかじめOB訪問をして答えを知っているわけだから、正解を見たうえでテストを受けるようなものよ。簡単でしょう?」
「はい。わかりました。ありがとうございます。」
そういって席を立つ。今日はOB訪問についていろいろと教わることができた。特に、企業側はOB訪問を必ずしも歓迎しているわけではないということが衝撃的だった。OB訪問は、それを実施したこと自体をアピールするわけではなく、それによって企業に対しどのようなアピールをすればよいのかという下準備を行うための場所だということがわかった。たしかに、OB訪問をたくさんしたからといって直ちにやる気があると考えるのは短絡的すぎる気がする。せっかくOB訪問をした以上はしたということをアピールしたくなる気持ちはわかるけれど、それをぐっとこらえてあえて言わないというのも作戦だろう。以前教えてもらった、300パーセントの準備をして100パーセントだけ喋るということを思い出しながら、ゼミ室を後にするのだった。