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就活ガール#317  配属ガチャを気にしても仕方ない

これはある日のこと、キャリアセンター前のカフェで同級生の美柑に就活の相談をしていた時のことだ。

「なぁ。やっぱり配属って気になるよな。」
「そうね。物理的に僻地に飛ばされるのも嫌だし、仮に東京だとしても部署によって当たりとハズレがあると思うわ。」
「田舎でのんびり暮らすのってちょっと憧れるけどなぁ。」
「なに言ってんのよ。本物の否かっていうのは、音彦の想像する何倍も生活しづらい場所なのよ。それに、仕事しに行くのにのんびりできるわけがないでしょう。」
「まぁそうか……。」
「東京から出たくないから特定の企業を避けるっていう就活生だって少なくないわ。」
「企業からすると優秀な人の応募が減るのはデメリットだと思うんだけど。」
「そうね。ただ、これは大卒総合職の話だから。」
「なるほど。そうじゃない人の中には、地元から離れたくないっていう人もいるのか。」
「ええ。一昔前にはマイルドヤンキーなんて言葉も流行ったわよね。」
「地元から出たくない人たちに指揮命令する立場として、大卒総合職が本社から派遣されてくるってイメージかな。」
「そんな感じね。だから数年すれば本社に戻れることも多いわ。ただ、若いうちは遊びたいって人も多いから、そういう時に田舎で何年か過ごすのは嫌なんじゃないかしら。」
「たしかに20代の2,3年ってかなり貴重だもんな。」
「ええ。」

「それから、ハズレ部署っていうのは例えばどんな感じ?」
「典型的なもので言うと、落ち目のサービスの保守運用や撤退処理をする部署ね。っていうか基本的に開発よりも運用の方がハズレである可能性が高いわ。」
「どう違うのかよくわからんな。」
「例えば既にある製品をメンテナンスしたり、既にある制度に沿って業務を行ったり、既にある営業先との関係を守るみたいな仕事よ。」
「どれも大事そうに思うけど……。」
「大事なんだけど、難易度が低いと思われているのよね。ルールを作る側が偉くて、それに沿って実際に行うのは業務委託社員や派遣社員ってことも珍しくないわ。さっきの田舎の工場の例なんてまさにそうじゃない?」
「なるほどね。」

「で、落ち目の事業だとそもそも新たに何かが開発されるってことが減ってきて、保守運用業務がメインになってくるのよ。そうすると、その部署自体が落ち目みたいになってしまいやすいわ。」
「それは分かったけど、そういうところに配属する意味がよくわからないな。落ち目の部署なのに人数を増やす意味ってあるのかな?」
「増やすんじゃなくて、減らさないようにするって意味が大きいわね。もともとその部署にいた人が退職したとか、異動になったとかであいた人員を補充するの。落ち目部署だと転職したり異動希望をだしたりする人が多いしね。」
「それの補充に新卒が使われるのか……。」
「仕方ないわ。落ち目といっても派手に散るばかりではなくて、時間をかけて緩やかに死んでいくビジネスもあるでしょう? 急には終われないのよ。」
「新聞とかかな。」
「まぁそんな感じよ。」
「でも新聞社の人って会社全体が落ち目部署みたいなものなんだから、配属とか関係なくないか?」
「新聞に何の恨みがあるのよ。」
「例だよ、例。デジタル版の有料会員などでうまく立ち回ってる会社があるのは知ってる。」

「そう。で、新聞社自体は音彦の言う通りかもしれないけど、例えば広告代理店で新聞の折り込みチラシを担当している部署とかもあるじゃない?」
「あ、そっか。そういう人たちは徐々に広告主からの依頼が減っていく中で、なんとか折り込みチラシを売って行かないとダメってわけか。」
「ええ。電車の中吊り広告とかも似たようなものでしょうね。」
「広告以外でも色々ありそうだな。例えば印刷業とか、廃品回収とか。」
「そうね。一つのビジネスが消えると、そんな感じでいろんなところに普及していくわ。こういう撤退処理をする仕事は、正直落ち目部署と言えるんじゃないかしら。」

「そういうのってさっさと取り扱いを辞めたらいいと思うけど。どうせ滅びゆくビジネスにいつまでもしがみつくメリットがないだろ。」
「そんなことないわ。長期間、かなりの利益貢献をしてきたビジネスなのよ。既に社内にノウハウはたまってるし、最低限のリソースでダラダラお金を生み出してくれるんだからありがたいじゃない。」
「そんなものかな。」
「ええ。特に上場企業だと、四半期ごとの決算で前年同期比を下回ることは許されないわ。経営者は、従業員が想像できる何倍もの圧力を株主から受けるのよ。」
「どんな圧力なんだ……。」
「まぁ、少なくとも無能経営者の烙印を押されてしまうと経済界では生き残れないわね。」
「少し前からプロ経営者みたいな人がちょくちょく現れてるけど、あれの逆パターンかな。」
「まぁそんな感じかしら。とにかく、金や権力は一度握ると勝ち続けるしかないの。トランプの大富豪だって都落ちってルールがあるでしょう?」
「お、おう……。そうなのか……。」

「そうして既存ビジネスで時間を稼いでる間に、他の人達が新たな収益源を生み出すのよ。」
「で、そっちに優秀な人が配属されやすいんだな。」
「そういう会社が多いわね。あるいは、優秀でなくても評価されやすいのが新規事業開発系の部署よ。」
「優秀でなくても良いのか。」
「ええ。日本人って、なかなか挑戦しないって言われてるじゃない? だから、そうじゃない人が評価されやすいのよ。」
「でもそれって個人の資質じゃなくて、そういう仕事をする部署に配属されたってだけだろ。」
「ええ。だから配属はガチャなのよ。逆に落ち目部署だってそこで撤退線をするにはある程度の優秀さが必要だしね。」
「優秀だから花形部署に配属され、そうでないから落ち目部署に配属されるっていうわけでもないんだなぁ。」
「もちろんそう。全体のバランスが重要だから。」

「じゃあ落ち目部署に配属されないようにする方法は何かあるのか?」
「ないわ。」
「ないのか……。」
「ええ。運よ、運。よほど評価されている就活生であれば入社前に配属先を確約させてから内定受諾することもできると思うけど、そこまでできるのはごく一部の人でしょうね。」
「まぁそりゃあ、多くの人がそんなことをしだしたら、結局は落ち目部署に配属できる人間がいなくなるもんな。」
「そう。その辺は相対評価と運なのよ。」

「じゃあ運悪く落ち目部署に配属された場合はどうすればいいんだ?」
「うーん。まずは3年くらいは頑張って働くことね。」
「そうするともう20代後半だろ。留年、浪人、大学院進学などをしてる人は30歳近いこともあるんじゃないか。」
「ええ。でもまだ20代なら転職の目があるわ。」
「なんかやっぱり、配属ガチャにハズれないように頑張ったほうがいい気がしてきた。」
「確実にハズれないようにする方法なんてないけどね。方法としては、部署別や職種別に採用してるとかほとんどの人が東京に配属されるみたいなそもそもハズレ率の低い企業を選ぶか、社内異動が活発とか転職しやすいみたいなハズれてもリカバリーが効きやすい企業を選ぶかの二択じゃないかしら。」
「もしくは諦めるか、だな。」
「ええ。ハズれ部署でも頑張れば評価されることもあるし、意外と楽しいかもしれないわよ。」
「たしかにな。俺、昔野球部員だったんだけど、最初は嫌だった外野の守備も意外と楽しかったし。」
「そうね。まぁ落ち目部署とか目立たない部署であっても大手企業ならそれなりの給料はもらえることが多いと思うし、上司にもよるからね。」
「敏腕上司がやってきてうまく自部署に利益誘導してくれるとかか。」
「ええ、そんな感じ。いくらビジネス的にだんだん縮んでいくものだとしても、会社にとって必要だから残ってる部署なのよ。だからアピールの仕方によってはどうとでもなるって場合も多いわ。ただ、個人がアピールしても無駄だから、部課長レベルがさらに上のレイヤーを動かす必要があるけどね。」
「結局は運ゲーなんだな。」
「会社員なんてそんなものよ。それが嫌ならいつでも転職したり自立できるような人間になることね。」
「わかった。今日もありがとう。」

そこまで話して会話を終えた。今日は配属ガチャについて話を聞くことができた。何度か聞いているテーマだけれど、改めて運任せだということがわかった。

そもそもハズれにくい企業を選ぶか、外れてもリカバリーしやすい企業を選ぶか。大きく分けるとこのどちらかを選ぶことになるだろう。人生のリスクヘッジは常に考えておくべき重要なことだ。しかし、あまり気にしすぎても仕方ないだろう。学生がイメージできる就業後の姿というのはごく一部であり、やってみれば意外と楽しいということもある。それ以前に、まずは内定を取らなければ配属について悩んでも無駄なのだ。そんなことを思いながら、一日を終えるのだった。

※諸事情により就活ガールの定期更新は休刊します。何か特別なイベントやニュース、書きたいことがあった時は逐次更新します。

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