【小説】恋は心のどこにある⁉ 1-3 4月19日、大学生な彼の日常
恋を忘れた元ヤンクール天然ボケ男子大学生×初恋に全身全霊全力な元気いっぱい女子高生 が、ふたりで恋を探す、恋愛長編小説。
ハッシュタグ #恋心どこ でふたりの恋路を見守りませんか。
★マガジン&登場人物紹介
★1話
★ひとつ前のお話
俺が通う神奈川学院大学、通称『神学』は世にいうFランク大学だ。
沢塚駅から私鉄で一駅、徒歩でも二十分圏内に校舎を構えているくせに、高校生から不人気なことこの上ない。
大学の偏差値は底辺だけど、もちろん真面目な学生もいる。だけど、他の頭がいい大学よりは見た目が派手な奴が多いんじゃねぇの? まあ知らねぇけど、とあくびしつつ教室に入る。
教室にはいつもつるんでる友達がいて、俺の分の席もとってくれていた。
「穂、おはよ。眠そうだな、二限からのくせに」
「はよ。何限からだろうと眠ぃもんは眠ぃ」
席に近づくと、眞壁が話しかけてくる。長めの茶髪がよく似合うイケメンだ。頭がいいのに、なんでこの大学にいんだろう。性格が悪いからか?
「なー、スイー。合コンの人数足らねぇから出てくんね? 場所、横浜だけど」
「行くわけねぇだろ」
幹彦がアホな提案をする。名前は上品だけど、実際の幹彦は頭が悪くて、金髪で、女好きで、頭が悪い。
「空くんが横浜の合コンに行くわけないでしょ。『ハマの裏番』なんだから」
竜が俺のダサすぎる二つ名を茶化す。ピアスと首筋のタトゥーを無視すれば、俺たちの中では一番穏やかに見えるけど、ケンカがめちゃくちゃ強い……俺たちは四人揃ったときの圧がヤバいことで、同期から有名らしい。全然嬉しくねぇ。
「んなダサいあだ名、誰も覚えてねーって。ルイも来るんだしお前も来いよ、一文字違いだろ~?」
幹彦は手を合わせて俺を拝みながら、うだうだ言っている。確かに俺は『穂』で、眞壁は『類』だけど、そんなことは合コンに行く理由にならねぇだろ。席に着いて、講義の準備を始めながら幹彦に話しかける。
「その理屈、意味不明。つーか眞壁が行くのか? じゃあ幹彦負け確じゃねぇか」
「なー。それにさ幹彦、最近合コン負け続きなんだろ? アプリにしとけよ」
「いやいや、幹くんそっちのが無理でしょ。だってメッセから下心見え見えだもーん」
「そんなことねーし! スイー、来てくれよぉ。奢るからー」
しつけぇな。俺が反論する前に「あーそっかぁ」と竜が声を上げた。
「空くん、彼女とまだ続いてるの? なんだっけ、平藤南の女子高生だっけ?」
「ああ。だから横浜じゃなくても合コンには行かねぇ」
「……」
明確な憎しみを込めた眼差しが、幹彦から届く。そんなバカの肩をポンポン叩いて、眞壁が「へーすげぇじゃん」と笑う。
「平藤南みたいな頭いい学校のJKが、よくお前と続いてるよな。しかも彼女ちゃん、清楚系の美人なんだろ? そんなん男選び放題なのになー」
「清楚な美人JK……なぁスイ、彼女ちゃん中身最悪だったりしない?」
「しねぇよ」
「おいこら幹くん、そういうとこだぞー」
今度は竜に頭をポカリと叩かれた幹彦は、ますます俺への憎しみを深めたようだ。ギリギリと唇を噛み、更に千春の情報を要求する。
「性格はどんな感じなん!? やっぱおしとやかー、って感じ?」
そのイメージで語られんの、千春は嫌がりそうだな。
長い黒髪、白い肌、控えめな化粧。千春を見たら、大半の男は『清楚な美少女』『大人しそう』と思うだろう。だけど、俺が千春の性格を一言で説明するなら。
「そうだな……天から始まる四字熟語あるだろ?」
てん、てん……漢字四文字……ああ、思い出した。
「天下一品」
「それラーメン屋」
そうだった。眞壁はいつも的確に突っ込んでくれる。
「もしかして『天真爛漫』?」
「それ」
正解を答えた竜と、地頭がいい眞壁は千春の性格を察したようだが、幹彦はダメだな。ポカンとしてやがる。とはいえ、俺も『天真爛漫』の意味を理解しているかは怪しく、スマホで検索して幹彦に見せてやった。
「飾り気がなく無邪気で明るいぃ? うへー、スイと合わなそう! どっちから告った?」
「向こう……?」
「なんで疑問形……まあ、スイから告るとかねーわな。でも、彼女ちゃんはなんでお前を好きになったん?」
「穂は黙ってりゃ、クールで強面なイケメンだ。顔がタイプだったんじゃねぇの?」
俺は相当キツい顔立ちをしてるが、千春から見ると『宇宙一カッコいい』らしい。こういう顔がタイプなのか? 話したことねぇからわかんねぇな。
「それはよくわかんねぇけど、とりあえず俺のことが大好きっぽい」
眞壁は表現し難い顔で黙りこむ。俺は教卓をチラッと確認するが、教授はまだ来ていない。そのとき、幹彦が急に声を小さくして言った。
「で? ヤったの?」
「ヤってねぇよ。彼女の親に、お互いの家に入んの禁止されてる」
俺も声を低くして答えると、竜も眞壁も小声で話に入ってくる。
「空くんはちゃんとそれを守ってんだ。偉いじゃーん」
「なぁ穂、そもそも彼女ちゃんいくつよ?」
「もうすぐ十七」
「……下手に手ぇ出したら逮捕されんな。気をつけろよ?」
「えっ、逮捕? スイ逮捕されんの!?」
「幹彦、うるせぇ。別に彼女の両親に禁止されなくたって、手ぇ出すつもりはなかった。ちゃんと大切にしてぇから」
とたんに、三人は顔を見合わせた。全員、変な表情をしている。
「穂、彼女ちゃんのこと、『好き』なのか?」
眞壁がなにを聞きたいのか、わかってる。
こいつら三人は、俺の感情が鈍いことを知っている。
「まだわかんねぇ。でも、俺は彼女を大切にしたいし、『好き』になりたい。おかしいか?」
「おかしくはねぇんだけど……」
三人はまた顔を見合わせて、それから俺を見て、くしゃみをこらえてるみたいな顔をする。どういう感情の顔だ?
「なんだよ」
「スイって、こういうときむずむずしない?」
「花粉か?」
「違くて……あー、うん、いいや。へへ、合コンなんて誘っちまって悪かったな」
『へへ』じゃねぇんだよ幹彦。なんで今度はちょっとすっきりした顔してんだ。
「穂って惚気るときも無表情なんだなぁ。いやぁ、動画撮っときゃよかった」
「だね。脅しに使えたかも」
眞壁と竜もいい笑顔だ……つーか、惚気? 今の惚気か? と、そのタイミングでチャイムが鳴った。俺、眞壁、竜は即座に口を閉じるが、幹彦はバカなのでデカい声で宣言する。
「スイの話で勇気を貰えたな! オレも、合コン頑張るぜ!」
静まり始めた教室に、幹彦の声はよく響いた。
ちょうど入室した教授の耳にも届いたのか、教授は悲しそうに首を振る。
「柏幹彦」
「あ、はい!!」
「なにを頑張るのかね?」
「ああっと、そう、っすね……勉強、勉強です! 今日も頑張って講義を聞くぞ!!」
「そうか。ならば、課題のレポートはやってきたな?」
「課題っすか?」
幹彦が俺を見る。教授も俺を見る。
俺も「課題?」と首を傾げながら、眞壁と竜を見る。
二人ともいい笑顔で、きちんと文字で埋まったレポート用紙を見せつけてきやがる。教授のため息が聞こえた。
「柏、空峰、他にも課題を忘れた者がいたら、今日の五時までに必ず、研究室に提出しにきなさい。それでは、講義を始めるぞ」
俺と幹彦は頭も要領もいい二人を睨むが、二人は涼しい顔だ。レポートあんなら教えろよ。
こんな俺を見たら、さすがの千春も『穂さん素敵!』とはならねぇだろうけど……彼女は大学での俺の話を聞きたがるから、今度話してみるか。
バカな俺の、日常の話を。
次の話→JK彼女、千春ちゃんの学校生活
☆穂さんが今日のお話をしたところ、千春ちゃんから「フレンズと一緒の穂さんもたいへん素敵」とのコメントをいただきました。