【論文要約】DeepLabCutを用いたコオロギの行動および姿勢解析
以下は、論文「DeepLabCut-based daily behavioural and posture analysis in a cricket」の要約です。
論文情報
タイトル: DeepLabCut-based daily behavioural and posture analysis in a cricket
(DeepLabCutを用いたコオロギの行動および姿勢解析)著者:
Shota Hayakawa
Kosuke Kataoka
Masanobu Yamamoto
Toru Asahi
Takeshi Suzuki
所属:
早稲田大学 高度科学・工学専攻
東京農工大学 生物システム科学専攻
発表年: 2024年
掲載誌: Biology Open
DOI: 10.1242/bio.060237
研究背景
1. 概日リズムとコオロギの重要性
概日リズム(circadian rhythm)は、動物の行動、生理、代謝に影響を及ぼす約24時間周期のリズム。
コオロギ(アマミオウサマコオロギ、Teleogryllus occipitalis)は、神経構造が簡便かつ特異的なニューロンを持つため、概日リズム研究のモデル生物として適している。
2. 技術の進展
DeepLabCut(ディープラーニングを用いた姿勢推定ツール)を利用することで、複数の体の部位を正確にラベリング可能。
従来の行動解析手法では難しかった同時解析が可能となり、より高精度な行動研究が進展。
研究目的
コオロギの複数の行動(移動、摂食、睡眠様状態:SLS)を24時間体制で解析する手法を構築。
従来の不動時間ベースのSLS指標に加え、後脚の角度を新しい指標として導入し、SLSを高精度に推定。
研究手法
1. 実験動物
種類: アマミオウサマコオロギ(Teleogryllus occipitalis)
特徴:
約3.5 cmの体長
活発で明暗周期に応じた行動リズムを持つ。
2. 飼育環境
ケースサイズ: 150×100×50 mm
温度: 30°C
湿度: 45±5%
光条件: 12時間の明暗周期(Light:Dark=12:12)
3. データ収集
撮影装置:
カメラ: Raspberry Pi NoIRカメラ
撮影条件: 1分ごとに静止画(1920×1080ピクセル)を取得し、14日間連続撮影。
撮影画像はDeepLabCutでラベル付けに使用。
4. 行動解析の準備
ラベリング対象部位:
頭部、胸部、腹部、腹端、左後脚、右後脚の6箇所。
DeepLabCutモデル:
ResNet-50ベースのニューラルネットワークを使用。
5回のトレーニングでモデル精度を向上。
5. 行動定義
移動:
1フレーム内で体長分以上の座標変化があれば「移動」と定義。
摂食:
頭部の座標が給餌エリア内にある場合。
睡眠様状態(SLS):
腹部の座標変化が5フレーム以上連続して3ピクセル未満の場合、不動状態として分類。
後脚の角度が一定以下の場合を「リラックス姿勢」と定義。
結果
1. DeepLabCutモデルの性能
平均ラベリングエラー:
トレーニングデータ: 1.61ピクセル
テストデータ: 1.58ピクセル
信頼度(>0.95)の高いラベリング成功率が90%以上。
2. 行動解析結果
移動
暗期(夜間)において移動活動が顕著に増加。
毎日の活動ピークは暗期開始直後に確認。
摂食
摂食は暗期終了から明期への移行時にピーク。
昼夜を問わず継続的に摂食活動が見られる。
SLS(睡眠様状態)
明期(昼間)においてSLSが顕著に増加。
後脚の角度が小さい(リラックス姿勢)ことがSLS中の特徴。
後脚角度と不動時間に負の相関(r=-0.72)が確認。
考察
1. 新たな知見
従来のSLS指標(不動時間)に後脚のリラックス姿勢を組み合わせることで、SLSの精度が向上。
短時間の「昼寝」に相当する暗期後半の短期SLSの増加を初めて発見。
2. 技術的意義
DeepLabCutを利用することで、動物行動の高精度かつ大規模な解析が可能。
本手法は、他の昆虫種や動物への適用可能性が高い。
結論と今後の展望
結論
本研究は、DeepLabCutを活用してコオロギの行動と姿勢を定量化する新しい解析手法を構築。
後脚の角度をSLS推定に組み込むことで、従来よりも精度が向上した。
今後の課題
長期的なデータ収集と解析。
神経生理学的測定を組み合わせたSLSの生理学的裏付け。
他昆虫種への適用と比較解析。
本研究の意義
この研究は、昆虫生態学において機械学習技術を利用した先駆的な試みであり、動物行動研究や神経科学における解析の新たな基盤となる成果を提供しています。