【論文要約】深層学習を用いた鋼構造物の素地調整時の除錆度判定システム
基本情報
論文タイトル: 深層学習を用いた鋼構造物の素地調整時の除錆度判定システム
著者情報:
大屋 誠: 松江工業高等専門学校教授(環境・建設工学科)
E-mail: ohya@matsue-ct.jp(責任著者)
諏訪 太紀: 金沢大学理工学域地球社会基盤学類 学生
河原 達哉: 松江工業高等専門学校 生産・建設システム工学専攻 学生
武邊 勝道: 松江工業高等専門学校
広瀬 望: 松江工業高等専門学校
論文受理: 2021年6月30日
採択日: 2021年8月31日
URL: 論文全文
背景と目的
鋼構造物の維持管理において、塗膜の劣化や異常さびが確認された場合、塗替えや補修塗装が求められる。その際、塗膜寿命を延ばすためには適切な素地調整が重要となる。
従来の課題:
素地調整後の除錆度判定は目視による定性的評価に依存し、判断に個人差が生じていた。
→ 必要性: 定量的かつ高精度な判定支援システムの構築。研究の目的:
腐食した耐候性鋼材の素地調整後の除錆度を、深層学習を活用してISO規格(Sa1, Sa2, Sa2 1/2, Sa3)に基づき定量的に分類するシステムを開発。
手法
使用データ:
対象: 腐食した耐候性鋼材(さび度D)のブラスト処理後の鋼材表面画像
分類基準: ISO 8501-1に基づく4クラス(Sa1, Sa2, Sa2 1/2, Sa3)
データ補強:
画像拡張(回転やトリミング)を利用し、元画像の10倍以上に拡張。
明度調整などの前処理は実施しない。
深層学習モデル:
CNN(畳み込みニューラルネットワーク): 画像認識に特化。
学習済みモデル: ResNet50を採用し、特徴抽出に利用。
損失関数: 交差エントロピー誤差を使用。
評価手法:
K分割交差検証法(K=10)
精度指標: Accuracy, Recall, Precision, F値
データセット構築:
各クラスの画像数: Sa1(150)、Sa2(210)、Sa2 1/2(250)、Sa3(1050)
トレーニングデータと検証データの比率: 8:2
分類プロセス:
画像から特徴を抽出(畳み込み層とプーリング層)。
学習モデルを構築し、未知画像の分類結果を出力。
主な結果
精度評価結果:
正解率 (Accuracy): 98.2%
再現率 (Recall): 97.7%
適合率 (Precision): 99.3%
F値: 98.5% → 高精度で除錆度のグレードを分類可能。
学習モデルの特徴:
学習データでは10回のエポックで100%の正答率に収束。
検証データでは30回程度で95%以上の正答率に達し、損失関数は0付近に収束。
誤判定の原因分析:
一部の画像では、表面の凹凸や黒ずみの分布が要因で誤分類が発生。
例:
Sa2がSa1に分類されたケース(黒ずみが多い部分)。
Sa3がSa2 1/2に分類されたケース(均一な凹凸が不足)。
結果の意義:
画像内の除錆度分布を定量的に検出可能であり、実務への応用可能性を示唆。
結論
限られたデータ数でも高精度で除錆度を4種類に分類可能なシステムを構築。
実務での適用可能性を示し、除錆度分布の解析に応用できる可能性を提案。
今後の課題
データセットの拡充:
より多様なさびの種類やデータ数を増加。
システムの汎化性能向上:
特定条件下での誤分類を減らすための改善。