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白い帽子 と 都合のよい記憶。

「これはレモンのにおいですか?」
「いいえ、夏みかんです。」

そのフレーズがずっと忘れられなかった。
そしてそのフレーズを思い出すたび、脳裏に浮かぶのが
菜の花畑と、モンシロチョウと、
いわさきちひろさんのちょこん座る女の子の絵。
レモンだか、夏みかんだか曖昧な黄色のイメージ。

小学校の国語の教科書に載っていたお話。
お話のタイトルも内容も抜け落ちている。

大人になってから、そのお話の全部が知りたくて
本屋さんに行っては、それらしい話が載っていそうな本を探したが
どうしても見つからなかった。

今は成人した息子ですが、幼少の頃は毎日読み聞かせをしていた。
そのおかげか、大の本好きに育った。

当時、毎日のように本を買い求めているある日、
「あまんきみこ」さんの本が目に入り
ぱらぱらと見ていたら
「これはレモンのにおいですか?」
この一文が目に飛び込んできた。

「あった!」

ちょっと心臓がバクバクして
菜の花畑の向こう側に、私の通っている小学校が見え、
ひらひら舞うモンシロチョウが、私のまわりを取り囲んだような気がした。

「白い帽子」これがこのお話のちゃんとしたタイトル。
菜の花横町という単語は出てくるけど、
シロとキイロのタンポポが出てくるけれど、
お話のどこにも、菜の花畑は出てこない。
人間の記憶って自分の都合良く置き換えちゃうもんですね。

見つけた本では、北田卓史氏の挿絵。
申し分けないが、北田氏の絵では困るのだ。
いわさきちひろさんの挿絵でないと。
そう、白い帽子をもった
ちょこんと座る女の子の絵が一緒でないと
私の中では、このお話はちゃんとおさまらない。

木造校舎、細い木枠の正方形に近い窓から日が差し込む教室。
教壇の横の先生の机には、私が持ってきたお花が花瓶にさしてある。
スドウ先生が「じゃあ、みんなで一緒に読もうか」と言う。
教室中のみんなで音読する。
お話のその最後のフレーズは、

「よかったね。」

      「よかったよ。」

「よかったね。」

              「よかったよ。」


桜散り、菜の花はまだ咲いている。

昭和だったし、子供だった頃の事を思い出した3月最終日。

明日も気持ち穏やかに仕事しよう。

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