仲原遺跡。
沖縄の伊計島にある仲原(なかばる)遺跡。
私はここの存在を知らなかった。
同行者が遺跡などに関心がないので、
遺跡があったとしても寄れないだろうと思い、
沖縄のあちこちにあることは知りつつも調べていなかったのだ。
なので仲原遺跡にたどり着くまで、
「伊計島に行こう」と言った彼の真意に気がついていなかった。
伊計島に着き、車がぐんぐん奥に進んでいって、
畑のなかの細い道を走っていく。
「目的地、この辺?」と助手席から訊いたけれど、
「うーん、まぁ……」となんとも曖昧な返答しかない。
さらに進んで、小さな案内板が見えてきた。
そこには「仲原遺跡」と書かれている。
え、遺跡!?と驚き、興奮する私。
遺跡の入り口で車が停まった。
シートベルトを外している彼を見て、
ようやく、ここが目的地であることを理解した。
見渡しても駐車場がないので、
車が来ないうちに見なくてはと思い、慌てて降りた。
ここまでは連れてきてくれたけど、
やはり遺跡に関心がない彼は「車で待っているから」と、
早々に来た道を戻ってしまった。
一人になった私は、遺跡の中心におずおずと足を進めた。
緑が生い茂り影の濃くなった入り口を進めば、
いきなり視界がひらけてくる。
瞳に飛びこんできたのは、思ったよりも数の多い住居と、
頭上に広がる空の青さだ。
この空間を守るように、遺跡のまわりは緑で囲われていて、
隙間から吹き抜ける海風がとても心地よい。
自然と深呼吸をしていた。
いい場所だな、と思った。
薄暗くて、ちょっと怖いところもあるけれど、
それ以外を少しだけ探索させてもらう。
一つの大型住居をのぞき、
ここの住居はやや小さめだなという印象を受けた。
説明を読めば、小さめの住居内には「炉がない」とされている。
火は別のところで使用していたのだろうか、
と、戸惑うも、
住居の向きは「南東」だったり「南西」だったり
主に南を向くように建てられているので、
私の知っている関東の遺跡と同じなのだな……と思い、
不思議な気持ちになった。
場所が違くても、時代が違くても、
お日様の光を家に取り入れるのはとても重要なことだったのだ。
住居の壁には琉球石灰岩が積まれていて、
これは沖縄の遺跡ならではだなぁ……と思って嬉しくなった。
関東で見る、木と土の住居にいつも感動していた私だけど、
この石壁も素敵で、惹かれてしまう。
遺跡からは骨製品や土器片、石斧、
人骨などが出土しているらしく、
当時の暮らしの様子を知ることができるとても貴重な場所だ。
土地や素材の性質を理解して活用すること。
それは自然と共存していく上では欠かすことができなくて、
こういう文化を目の当たりにすると、
人も自然のサイクルのひとつなのだ……と思える。
車に戻ると、彼はスマホのゲームをしているところだった。
「ありがとう。連れてきてくれて」
私の言葉に「うん」と短い返事をして、車を動かす。
嬉しいサプライズだった。
・補足
沖縄県うるま市の伊計島にある仲原遺跡は、縄文時代晩期の遺跡。
遺跡にある説明によれば、複数の住居跡が見つかっており、
復元された住居を無料で見学することができます。
遺跡からは甕、壺、土器片や石斧、人骨、骨製品などが出土したそうです。
「ハブに注意」の看板あり。
訪問時期、2022年2月。