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消えた魔法

長い巣篭り期も出口が見えはじめ、このところはすっかり活気づいた街も、そんなことあったっけ、といった様相だ。

それでも、もとに戻っていないものもある。

時折、自分に元気が足りなくなると、立ち寄る店があった。

ちいさなショーウィンドウのあるアクセサリーショップで、壁のようにピッタリ閉まった扉は通り過ぎただけでは開いているのか開いていないのかわからない。
行き交う若者は視線すら向けず、まるでその店のドアだけ見えない魔法でもかけられたかのようだった。

中に入ると、ガラスケースにこれでもかと詰めこまれたアクセサリーが出迎えてくれた。
重なり合うブレスレット。
段々畑のように連なる指輪。
ずっしりとした石がはめ込まれたネックレスがいくつも横たわる。
壁に沿って順に進むと、最後はショーケースでできたカウンターに辿り着く。

カウンター越しの店主は私の母親くらいの年齢に見えた。
あれこれと勧めることもなく、ただ私がひとつひとつに見入っている間、静かに待っていてくれる。
アクセサリーはどこか鈍色の気配を纏っていて、古いものですか、と聞いたことがあった。
私自身、ヴィンテージアクセサリーが昔から好きで収集していたせいか、そういう雰囲気には敏感だった。
ところが、店主の答えは意外にも、すべて新品だという。
彼女が若い頃好んで集めたものが、彼女と共に歳を重ね、どこか燻した表情になっていたらしい。
中には新しい作家の一点物なんかもあって、混沌とした宝探しに私はすっかり没頭していた。


もうあの店を訪れることはできないのだろうか。
彼女は元気なのだろうか。

近くを訪れるたび、いつもショーウィンドウが開いていないかと確かめてしまう。
シャッターが地面に根を下ろし、まるで一枚の壁のようになった店を横目に通り過ぎる。
なんともいえない心持ちになる。

こんな時こそ、彼女の店が必要だというのに。






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