冬森灯さん「うしろむき夕食店」料理おみくじの一言で明日も頑張れそう
冬森灯先生の「うしろむき夕食店」(ポプラ社)を拝読しました!
こちらはもともと、ここnoteで<キリンビール公式note×ポプラ社一般書通信×新人作家・冬森灯>の企画として始まった物語です。
KIRINさんとポプラ社さんとの「うしろむき夕食店」マガジンには、物語の本文はもとより、楽しい企画記事がたくさん!読み応えがあるので、ぜひ。
私は連載当時はnoteで追えず(すみません)書籍になってから拝読したのですが、とってもとってもおなかがすいて、あったかい気分になれて、まるで自分も「うしろむき夕食店」に行ったようになる、1冊で2度3度も美味しい物語でした。
そして、もちろん書籍で手元に置いてほしいこの本ですが、note版のいいところは、イナコさんのお料理のお皿のイラストがカラーで見られるところです!なので、KIRINさんのうしろむき夕食店マガジンからぜひ飛んでみてくださいね。
一の皿「願いととのうエビフライ」
この「願いととのうエビフライ」構成がほんとに見事でうなってしまいました。すごいなあと思う小説って、地点Aで出てきた伏線と、地点Bで出てきた伏線が、ラストの地点Cでハーモニーとして響き合う、みたいな構成なのですが、この連作短編のこの話も、まさにそうで。
彩羽さんの過去の思い出が、ああなってこうなるのか!あのときのトラブルがこう活かされるのか!っていう凄み。そして彼女は二回おみくじを引くのですが、一回目が「学業あせらず炊き込みごはん」二回目が「願いととのうエビフライ」言葉のまるさがすごくよいですよね。
二の皿「商いよろしマカロニグラタン」
自分の思い込みから、人はなかなか逃れることができない。そう実感した1話でした。〇〇だと思っていたことが、実は△△だった。そういうこと、誰にでもあると思うのですが、その仕組みが、きれいな物語としてパズルピースがはまっている。
ここでのおみくじの結果は「商いよろしマカロニグラタン」。店主の志満さんが語る「マカロニに穴がある理由」にはしびれました。
三の皿「縁談きながにビーフシチュー」
『これまでまるで違う人生を歩いてきたもの同士が、同じひとつの、家族という鍋に入る』(本文p171)この一文に「縁談きながにビーフシチュー」は集約されているのではないかなと思いました。
そして、ここ笑うところじゃないのかもしれないですけど、貴璃さんの家事の苦手っぷり、和可子さんの前での失敗っぷりがほんとうにダイナミックで、こんな面白いお嫁さん、逆に教え甲斐があるのでは、と思ってしまいましたよ。
四の皿「失せ物いずるメンチカツ」
夢を追うことと、収入の問題ってすごく誰しもが悩むことですよね。だから私も、自分の現状を思い浮かべつつも、透磨の問題を自分ごととして受け止めました。
透磨がイギリスで出会ったプロフェッサーの言葉「ウイスキーは、飲む詩だ」ってちょっと格好よすぎませんか? そして、すっぱいりんごのおいしくさせかた、とっても素敵だと思いました。
五の皿「待ちびと来たるハンバーグ」
「人生に失敗なんて、あるものですか」そう希乃香に告げる志満さんの言葉が胸に響いて、これは希乃香でなくても泣く、と思いました。そして、ずっと探していたあのひとの正体が、ぴんと一本の線でつながる感動。
どなたにも、ぜひ味わっていただきたいです。そして、志満さんとおじいちゃまが別れないといけなかった理由も、切ないけれど納得のいくもので、でも「また会えた」のですよね。大団円です。
小説で人間ドラマを読むのは、私の楽しみのひとつであるのですけど、それはやはり、作品の渦中で悩みもがく主人公たちが、問題を解決してまた明日のために前を向く、そういうシーンがとても好きだからです。
その意味で、この「うしろむき夕食店」はそんなシーンがふんだんに、ぴかぴかの白いお皿にたっぷり盛り付けられた、美味しい一択しかない作品でした。
素敵な物語を、冬森先生ありがとうございました。
最後に。
「あのう、デザートは何がありますか?」
1作目「縁結びカツサンド」もぜひ!