「皐月と美月の夏」 <note版③>
3話 皐月の話 「小学校はわからないだらけ。」
私は小学校が好きじゃない。
わからないことばかりで、わからないことを、わかりたくて先生に聞き続けると、なぜかいつも怒られる。
この前も、国語の授業中に漢字の書き順を習っていた。私はなぜ書き順が重要なのか、わからなかった。
井戸という漢字の”井”の縦棒が先か、横棒が先かがなぜ大切なのか?なぜ縦棒を下から書いたらダメなのか?
漢字を絵として覚えたい私は、書き順を覚えたくなかった。
例えば、皐月の”月”は、「走ろうとして、よろけちゃった棒人間」にしか私には見えない。皐月の”皐”は「ろうそくが刺さったケーキを両手で持ち上げている」ように見える。
「なんでなんでなんでなんで・・・。」
そう聞き続ける私に先生は大きな声で「そういう決まりだからです!」と怒る。
私はまだ全然わからないのに、無理やり意見を押し付けられるともうダメだ。
書き順なんて覚える気が一気に0となり、私は鉛筆を筆箱にしまい、窓の外の世界に意識を集中させると、蝶々が2匹飛んでいた。
白い蝶々と黄色い蝶々がお互いにふざけ合いながら仲良く飛んでいる。
蝶々の”クスクス”という笑い声が聞こえてきそうだった。
”よし、確かめに行こう。”私は黒板の方を向き直し、背筋を伸ばし、腕をピンと真っ直ぐ上に挙げた。
先生はびっくりと同時に嫌な顔をして、「・・・今井さん、どうしましたか?」と聞いた。
「どうしても確かめたいことがあるので、外に行ってきます!」と大きな声で伝えた瞬間、私は立ち上がってダッシュで教室を出た。
後ろの方で先生の叫ぶような声とクラスメイトのざわざわ声が聞こえたけど、気にせず廊下を全力で走って、靴が置いてある昇降口を上履きのまま突破した。
外に出ると、風も匂いも音もみんなが”皐月〜!ゴール!おめでとう!”と私を褒めてくれた。「きっもちい〜!」と声に出して体で実感してから、私は校庭を走り回りながらさっきの2匹の蝶々を探した。
蝶々を探していたのに、気づくとタイヤの遊具に座りながら、古い校舎を工事中のおじさんたちを観察していた。
3人のおじさんは、みんな色んな道具を腰から下げて作業している。
あの道具ベルトの中には何がどれだけ入っているのだろう。
よ〜くみていると”ガチャガチャ”という金属の音が聞こえてきそうだった。
”もしかしたら、3人の中の1人の道具ベルトには、魔法の杖が入っているかもしれない。それで、2人がそっぽを向いた瞬間に魔法で校舎を作っていて、2人は”あれ?ここもうできてたっけ?”と不思議がるんだ。”
"魔法使いのおじさんは3人の中の誰にしよう・・・。"
そんな空想にふけっていると、突然、私の目の前に、にゅっと足が出現した。
見上げると、口をパクパクしてすごい怖い顔で私を睨んでいる先生だった。
その場で、1日が終わっちゃうんじゃないかと思うくらいたくさん怒られた。
「ごめんなさい。」というのがやっとだった。
本当は先生にも今のお話を聞かせてあげたかったのに、腕を掴まれて教室に連行された。”テレビのニュースでよくみる逮捕された人みたい。”と思った。
私は色んなところで、色んな場面で、色んなものが気になってしまう。
気になってしまうと、体が勝手に動いてしまう。
体が勝手に動いてしまうと、先生に怒られる。
そんな時が小学校ではたくさんあった。
そしてそれは、夏休みがはじまる1週間前にもあった。
そのお陰で、私は七島という外国のような不思議な島で、毎朝ヘンテコな歌を歌いながら起こしにきて私を海へと連れ出す魔女みたいな変な叔母さんの元で、夏休みを過ごすこととなってしまった。
前のお話 2話「私の姪は変な子。」
続きのお話 4話「人差し指が止まった、七島。」