僕が銭湯に住むまで
つい一年前まで、僕は全くと言っていいほど銭湯に興味がなかった。
最寄駅から大学までの通学路には2つも銭湯があるが、もちろん入ったことはなくただの景色にすぎなかった。そんな僕が銭湯に住むことになるまでの話-前回は僕が殿上湯に住み込みを始める直前の話を書いたので今回は正確にはその序章ということで-を書きました。
はじめましての方はもちろん、お会いしたことがある方にも、友達にもここまで詳しい話はしたことがなかったので、ここに納めておきます。
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始まりは去年の11月、蒲田温泉(*1)で行われた、とあるライブだった。
この日まで、僕は全くと言っていいほど銭湯に興味がなかった。家でも湯船に浸かることはほとんどなく、シャワーだけでいいじゃん派だったくらい。
ライブ後、通っている大学の最寄り駅というだけで親近感が沸いてしまい、つい銭湯の店主さんに話しかけてしまった。
「蒲田にこんな銭湯があるなんて知らなかったです。近くの大学に通っているのでまた友達と来ますね!」
「もしかして、○○大学の学生さん?」
「はい!」
「ということは医学生?」
「あ、そうです!」
「あら、うちの息子も医学部を卒業して今はここのとなりでクリニックをやっているのよ」
これを聞いたときに、
この銭湯とクリニックの組み合わせで"なにか"できそうだな
という考えが浮かんだが、そのアイデアを深めることなく、そして特に何も起きることなく、ふやふやと過ごしていたら12月になっていた。
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そんな12月の初め、Twitterでこんなツイートが流れてきた。
「銭湯×コミュニティ×まちづくり」
この単語の並びを見て、
"蒲田温泉に行ったときに思い浮かんだ'なにか' のヒントが得られるかもしれない”
そう思いすぐにチケットを購入した。
そしてどうせ行くなら、
となんとなくトークイベント前日もう一度蒲田温泉に行き、9年ぶりに銭湯に入った。
久しぶりの銭湯は懐かしいというよりかはすごく新鮮だった。
このとき、蒲田に通ってはいるものの、
蒲田に住んでいる人のことをほとんど意識したことがなかったことに気がついた。
一緒に湯につかった友達はクリスマスの楽しい予定のことを話してくれたが、湯気のせいか、のぼせていたせいか、何も耳に入ってこない。
それより僕は、
“明日どんな話が聞けるんだろう”とか
“銭湯にくる人たちはどんな生活を送っているんだろう”とか
“クリスマスどうしよう”とか
そんなことばかり考えていた。
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迎えたトークイベント当日、ー前の用事が伸びてしまいー開始時刻の19時に僕は高円寺を走っていた。
駅前の商店街を抜け、電気屋さんの角を曲がり看板を見つける。
焦る気持ちで小杉湯の戸を開けると
「いらっしゃい!そんなに慌てて何事?」
番台のお姉さんが苦笑いで言う。
「あの、、トークイベント、、」
「それ会場日本橋だよ(笑)」
「え?!」
なんと慌てて場所を間違えてしまった。
冷静に考えて銭湯の中で100人規模のトークイベントができる訳ない。
そんな冷静さも欠くくらいに焦っていたーもうおっちょこちょいなんて可愛い言葉を使っていい年齢ではないーのだと思う。
“もう今日は諦めて小杉湯に入って帰ろうか”
と考えていると番台のお姉さんが声をかけてくれた。
「ここから日本橋まで30分、今からでも間に合うよ!いきな!」
「えっ、でも」
「今日は話を聞きにきたんでしょ!銭湯ならいつでも入れるんだからイベントに行きなさい!ほら早く!」
「そうですね!行きます!」
すぐに小杉湯を出て走って駅に向かった。
このときイベントに行くように促してもらわなかったら、今の-銭湯に住み込みをする-ようなことになってないのでお姉さんには感謝してもしきれない。
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そんなこんなで日本橋につくと会場はほぼ満席。一番後ろの空席を見つけ、隣の人に確認の声をかけて座った。
トークイベントは、登壇者が2人喋る、隣の人とその内容についてお喋りする、の繰り返しという形式だった。着いたときには既に始まっていたので、落ち着いている暇もなく登壇者の話に耳を傾ける。
「都市空間の中でオフライン化して裸になってお湯に浸かるというアクションは面白い」「自分でタイミング、関わり方を選べるというのが現代的な感覚にマッチしている」
など、今まで自分が考えたことのない文脈で銭湯について話していて、まったく知らない文化に触れている気分で話を聞いた。
まとめると
「テクノロジーの発達によって生活様式はどんどん変化している。それに伴って銭湯は衰退していったが、今後はむしろ様々な価値を持ち、もっと暮らしに紐付いたものになり得る。ていうかおれらがやるぞ。」
という感じ。
(*2 僕個人の感想なので、より詳しく知りたい方向けに2つ記事を貼っておきます。)
とにかく、
"こんなことが銭湯でできるのか"
"銭湯はすごい可能性を持っているな"
と感動しっぱなしで、僕の目には全ての登壇者の方がひどくかっこよく映った。
このように感じていたのは、僕だけじゃなかった。
登壇者の喋る間のお喋りタイム、そこで話した隣の人も同じように感じていた。
しかもその方はなんと
家業が銭湯でそれ継ぐか継がないかで迷っている
という方だった。
初めに "家業が銭湯" と聞いたときは
"まじ!" と思ったが、お話を聞いてみると
現在は大手企業でエンジニアとして働いていて、
「銭湯は家業なので潰したくないという思いが強いが、家族のことを考えると銭湯一本というのはまだ考えづらい」
とのこと。
なるほど、大変そうだ…。
それでも「絶対に潰したくない」と言っていたので
"なんだ、隣の人までかっこいいじゃないか…" と思った。
ちなみにその隣に座っていた方というのは大崎・金春湯(*3)の角屋さん。
今でも、銭湯関連の場でお会いするときはいつも優しく話しかけてくれる。
(いつもお世話になっております!笑)
もし、僕がイベントの会場を間違えていなければ隣に座ることはなかったので、今考えるとすごい偶然だったなと思う。
少し逸れたので話を戻します。
実はトークイベント前日に蒲田温泉に行ったとき、フロントの隣にアルバイト募集の張り紙-前日にそれを見たときは、 "ふーんアルバイト募集してるんだ〜"程度のものだった-が貼ってあるのを見つけていた。
お察しの通り、
そのバイト募集の印象はトークイベントが終わる頃には、
"これだ!銭湯でバイトすればなにかきっかけを掴めるかもしれない"
に変わっていた。
それだけ登壇者の方々は説得力があったし、自分もものすごく共感するものがあった。
トークイベント翌日、
昼休み前の一コマが空いていたので、その時間を使って蒲田温泉まで行き、11月のライブのときにお会いした店主さんと話した。
「先日ライブ後にここで話した者です。」
「あら、この前の」
もちろん話はすぐにつき、バイトをすることが決まった。内容は2階の宴会場のお手伝いだった。
こうして去年の12月から蒲田温泉でバイトを始めたことをきっかけに銭湯に関わり始めた。
これが『僕が銭湯に住むまで』の序章だ。
(この写真は初めて蒲田温泉でバイトをした12月23日に撮ったもの。"-田温-" しか写っていませんが僕にとっては印象深い写真です。)
それから6ヶ月ほど蒲田温泉でときどきバイトしていたが、なにかできるかもしれないというアイデアについては、そこまで考えることがなく、特になにか行動に移すこともなかった。
そこで、1つ前のnoteにあるように、殿上湯住み込み募集を見て、現在の銭湯住み込み生活に辿りついた。
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これを読んで先が気になった方は、
を合わせて読んでみてくださいね。
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なんだか長々と書いてしまったが、
ぎゅっとすると、
「銭湯ぐらしのトークイベントに行って話をきいたら、ライブで行った蒲田温泉で何かできるのではと思い立って、ほんでバイトしてみたはいいものの、あんまり行動に移せなかったから、銭湯に住み込みさせてもらっていろいろ考えているよ」
ということです。
今は殿上湯で日々、掃除をして、殿上湯のご家族と一緒に生活させてもらっている。
銭湯を営業する家族と一緒に過ごすというどんな時間にも代えがたい日々です。
先日のイベントにて photo by @seiyafujii
そんな環境で過ごしているので、蒲田温泉でバイトしていたときよりも、やりたいこと、できると思っていた "なにか" について考えられていると実感している。
最近、感じるのは、
・やはり銭湯はものすごく地域との親和性が高い
ということ。
しかし、
・地域との親和性が高いもののかつてあったと言われる公衆浴場以外のコミュニティとしての役割を失いつつあるのかもしれない
ということ。
「だからどうした」という言葉に答える記事はまた今度にさせてください。
偉そうに語る立場ではないが、自分の気づきを共有することに微々たる意味があればそれでもいいと思っています。
鼻につくかもしれないけれど優しく見守っていただければ嬉しいです。
photo by @r_bun_83
最後は今の住み込みしている3人の写真で終わります。
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Twitterでは住み込みの日々や銭湯について発信しています。みてね。
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*1
蒲田温泉について
蒲田温泉は大田区蒲田にある銭湯で、1階が銭湯、2階が宴会場になっている。宴会場は通常は休憩所として飲食店のように営業していますが、30~100人規模でライブを行うこともできます。
詳細はホームページへ。
12/20のトークイベントの内容をスライドと共に細かくわかりやすく振り返っている記事になります。
https://ztokyo.net/articles/sauna_kosugiyu/
銭湯ぐらしの拠点となった湯パートのことから、塩谷歩波さんと小杉湯三代目 平松佑介さんが主導する銭湯再興プロジェクトのことまで書いてあります。
小杉湯の取り組みがまとまった記事になるので初めてみる方はこちらがおすすめ。
*3
金春湯(大崎)について
エンジニアということで自作だというHP(専門ではないらしいです!)は、デザインが優しい雰囲気ではじめての方でも抵抗を感じないようとても工夫されています。
Twitterもやってます(面白いです)。