羽ばたけ人力飛行機 大空で実現する目標
2023/12/18発行 冬号(1057号)
本学の学生が鳥人間コンテストに挑んでいる。「現在の機体は、ゼロの状態から設計している」と航空工学研究会HoPE(以下HoPE)の阿部達哉氏は話す。HoPEでは、来年7月末に開催される予定の鳥人間コンテストに向けて、機体の製作に取り組んでいるのだ。
本学の小金井キャンパスに拠点を置くHoPEは、1968年4月1月発足の伝統あるサークルで現在34人が所属し、主に鳥人間コンテストに向けた活動を行う。これまでに21回の鳥人間コンテストへの出場歴があり、コンテストに参加する団体の中ではかなり長い歴史をもつ。そもそも鳥人間コンテストとは、読売テレビ放送主催による人力飛行機の飛行距離を競うコンテストである。開催場所は琵琶湖で、高さ10メートルのプラットフォームから人力で機体が押し出されて離陸し、琵琶湖の水面を飛ぶ。
HoPEは動力のない機体を飛ばす滑空機部門にて挑む。阿部氏は、「3桁は飛びたい。113メートルの過去最大記録があるからだ」と意気込みを語る。上手くいかなければ、機体は離陸した瞬間に水面に落下してしまう。逆に離陸さえ成功すれば100メートルは飛ぶとも言われている。実際のところは、半分ほどのチームが離陸に失敗するそうだ。今年の夏に開催された前回大会でHoPEの機体は25.7メートル飛行した後、琵琶湖の水面に突き刺さった。上手くいかなかった原因として、機体の水平尾翼の角度が1度ずれていたことが挙げられた。1度違うだけでも、飛んでいるうちにその角度が大きくなり早めの落下要因となってしまう。コロナ禍による開催中止のため、現在の部員にとっては前回大会が初出場であった。前回の機体は設計時期がコロナ禍前の2018年であり機体を設計した学生は前回大会時には既に引退していたため、現在の部員は誰も取り付け角が設計と違うことに気づけなかったのだ。コンテストのルール上、機体は最後に琵琶湖に着水しないと失格になることから、最終的に壊れる部位が発生するため、大会後には機体の作り直しが必要である。学年の代替わりごとにその代が製作したいという意欲や、同じ機体を何度も引き継いでいると製作の技術が断絶してしまうという背景があり、現在は白紙状態から機体製作を行なっている。
1つの機体を製作するには100万円以上かかる。資金を賄うためにHoPEはCAMPFIREというサイトにてクラウドファンディングを行なったが、目標額に辿り着かなかった。補助金は前年度の活動実態で額が決定するため頼ることはできず、クラウドファンディングは大学主催にできないため広報誌などに掲載されない。そのため部員が資金集めに奮闘している状態だ。部員が工夫を凝らすのは機体製作や資金集めだけではない。コンテストの事前審査の通過に向け、テレビ受けする面白さも用意する必要がある。4、5倍の倍率を突破するには独自のアピールポイントが活きるのだ。テレビ局の主催でコンテストも中継で放送されるため、見どころはたくさんあるだろう。
コンテストで特に重要な役割を担うのは機体に乗るパイロットである。パイロットは尾翼を操縦して進行方向を調整する。飛ぶ方向を間違えると失格になるため、操縦技術は肝心だ。パイロットは「皆が期待してくれているので、それを背負って頑張っていく」と語る。
HoPEが抱える懸念点は、部員数の少なさである。なんとHoPEでは本学の市ヶ谷キャンパスなどから通う文系の学生も歓迎している。文理も経験も関係なく機体製作に取り組めることは魅力的だ。阿部氏は「機体製作は面白く、また、その機体を皆で押し出しプラットフォームに上がる瞬間はやりがいを感じる。まずは機体を長く飛ばせるように壁を克服したい」と意欲を見せた。(長谷川桜子)