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少女の日記としてではなく、一人の人格ある人間のものとして「アンネの日記 増補改訂版(文春文庫)」を読む ⑱ この先の将来に向けて、揺れる心

ニュースでは、連合軍の反攻を伝える日もあるが、まだまだ先は長そうだと感じている頃。
差し入れてもらう書物で勉強を続けてはいるが、この先の将来がどうなるか見通しが持てない不安に襲われ、心が揺れている様子が伺える。
ただでさえ不安定な思春期であるから、なおさらなのだろうが。

一九四四年四月五日、水曜日………….…………
だれよりも親愛なるキティーヘ
もう長いあいだ、わたしはなんのために勉強しているのか、目的を見失ったままでいます。
戦争が終わるのなんて、まだまだずっと先のこと、美しいおとぎ話のように、現実からかけはなれたことに思えます。戦争がもし九月までに終わらなければ、もうもとの学校へはもどらないつもりです。同級生から二年も遅れるのなんていやですから。
ここしばらく、明けても暮れてもペーターのことばかりでした。ペーター以外にはなにもないという感じ。土曜の夜までは、そんなふうに夢想にひたり、思案にふけることで終わってしまいましたが、夜になってから、なぜか急に落ちこんで、みじめな気分。じっさいやりきれない気持ちでした。ペーターといっしょにいるあいだは、じっと涙をこらえていたものの、 つぎ
にはいきなりはしゃぎだして、フアン・ダーンのおじさんと、 レモンパンチのことでばかみたいにげらげら笑いころげてみたり。ところが、ひとりになるやいなや、胸の張り裂けるほど泣きたい気持ちに襲われて、寝間着に着替えてから、床にひざまずき、はじめは長いこと敬虔にお祈りをささげたあと、今度はむきだしの床にすわりこんで、膝をかかえ、腕に頭をうずめて
泣きじゃくりました。自分の大きくしゃくりあげる声でわれにかえってからは、隣室のだれかに聞かれたくなかったので、なんとか涙をこらえて、自分を勇気づけるようなことを言おうとしましたが、かろうじて言葉になったのは、「いけない、いけない、 いけない……」というくりかえしだけ。そのうち、不自然な姿勢をつづけていたため、すっかり体がこわばってしまい、
.ベッドのふちでよろめいたあげくに、ようやく立ちなおって、ベッドによじのぼり、ふたたび横になったときには、もうはや十時半ちょっと前。やれやれ、これでやっと終わった!
というわけで、 いまはすっかり立ちなおり、気分を一新して勉強に励んでいるところ。ばかにならないように、将来ジャーナリストとしてちゃんとやってゆけるように。そうなんです、だってそれこそわたしのなりたいものなんですから!(後略)

アンネの日記増補新訂版 p431~432



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江島 達也/対州屋
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