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私が対州馬を絶滅から救いたいと思う理由  その64

なぜ、逃げなかったの?と思ったこと

「なぜ、逃げなかったの?」と今もって思う。

生まれて以来、柵の外へ出たことがない、ひん太を「大捕り物」の末、トラックで移送し、見ず知らずの場所へ連れて来て、39日後のこと。

娘のバイオリンを新潮した後、娘と嫁さんとともに、ひん太の放牧地へ寄ると、なんとひん太が柵の外にいるではないか! 我が目を疑った。

ギョッとして、とにかくパニックになった。

あれだけの苦労して柵内に入れた馬が、外に出ているのである。とっさに「もうダメだ!捕まらない」という思いが頭をよぎった。

その時、餌やりに行ってたわけなので、リンゴかバナナを持っていたかもしれない。

覚えていないが、時々世話についてきていた娘に、「その食べ物でひきつけておいて!」と頼んで、自分は慌てて柵を開けに飛んでいった。

ふと娘たちの方を見ると、娘の後を、ひん太が文字通り「トコトコトコ・・・」という感じでついて歩いていた。

かくして、まったく難なく、ひん太は娘について柵の中に戻っていった。

わずか39日前、いきなり4,5人の人間に追い回され、無理やりホルターをつけさせられ、ロープで引っ張られトラックで遠くの知らない場所に連れてこられたというのに、なぜ「トコトコトコ・・・」なのか!?犬猫を含め、他の動物ならちょっと考えにくいことである。

柵外で出られたのなら、元の場所を目指して逃走したとしても、尤もな事だと言える。

事実、お隣りの馬場では、流鏑馬の練習中、騎乗者が落馬した途端、サラブレッドが山中に逃げ出し、後で亡骸となって発見されるという事故が起こっている。

それが、たった39日で、新しい放牧地を「自分の場所」として認識し、私たちが来るのを待っていたとは!

本当に今思い起こしても、「なぜ、逃げなかったの?」なのである。


その後も何度か、柵外に出ることがあったが、もちろん遠くへ行くことなく、人が入れてくれるのを待っていた。


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江島 達也/対州屋
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