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市民の創意や熱意がまったく反映されていないから、箱モノ行政は、ことごとく失敗する
約10年前のこと。
ようやく自転車を楽しめるようになった娘と息子3人でサイクリングを楽しめる場所を探していた際、目に留まったのが、長崎市土井首から野母崎半島に至る約20kmのサイクリング・ロード。
土井首中学校横から3人でスタートすると、ルートは山岳地帯を上っていき、「林間コース」と言った感じ。
小2と小6でも何とか行ける感じで、8kmあまり走ったところで、開けた場所で出て、小さな神社わきでおにぎりを食べて引き返しました。
帰りには野生の鹿に出会ったりして、それなりに楽しかったのですが、やはり「もう一度走りたい」という感じではなく、それ以来二度と行くことはありませんでした。
その後は、自転車に乗る機会があってもここに来ることはなく、時津の海岸沿いや諫早の干拓地周辺を走りました。
18歳になった娘も長崎を離れることになり、つまりここを自転車で入る事は二度となさそうです。
しかし、このサイクリングロードは、まだ12kmほどがあります。
このまま一度も走らないのは心残りなので、一度単独で全行程を走破してみることにしました。
結果から言うと、前回10年前から先のゴールまでのコースは、サイクリングロードと言うよりは、「サイクル登山道」とでも言うようなハード極まりないものでした。
7kmあまり、だらだらとした登りが続きます。私はまだ自転車に関してはサイクリングロードなどでへたるような体力では無いと自負していましたが、ボロボロでした。
まず第一に眺望がまったくきかず、うっそうとした薄暗い森の中がほとんどであり、気分が晴れません。
この日は快晴でしたが、走っている途中はただ苦しく暗い気分でした。
到着したゴールも登山のような眺望もなく、休憩すらろくにできないような場所でした。
利用者がほとんどいないことを表すがごとく、走路には枯葉がたまり、苔がびっしりとついている所が多くありました。
サイクリングロードは「箱もの」とは違うかもしれませんが、このサイクリングロードは完全に失敗ですね。
このサイクリングロードの為に莫大な税金が浪費され、自然環境が破壊されたのですが、その犠牲は、まったく一般市民やツーリストに還元されることなく朽ちていっています。
サイクリングロードで例を示しましたが、残念ながらこれだけではありません。
「あぐりの丘」という広大な敷地を持つ施設も、破綻し廃墟化しています。
建て替わった県庁舎も人けが無く、同じく新長崎駅も不評です。
こういうものを造ろうとする時、行政は著名な設計士に高額な税金を支払ってプロジェクトを組んで行うと思います。
いつまで経ってもそれの繰り返しで、結局「廃墟化」「少子高齢化」「自治会の衰退」に歯止めをかけられていません。
そこに住人である市民の創意や熱意がまったく関わっていないからです。
あらためて先哲である故民俗学者、宮本 常一さんの言葉を思い出します。
『
・・・現在の人々は何を残してゆけばよいのであろうか。
いま次々に建てられつつあるコンクリートの建物は、はたして人の心をひく文化財たりうるだろうか。
もうぼつぼつ島の文化を知る手がかりになるような博物館、それも歴史や民俗ばかりでなく、陸や海の自然や動植物などの生態を知り得るような公園なども作られてよいのではなかろうか。
それもケチなものでなく、壱岐の人達の夢やエネルギーのあふれ出たようなものであってほしいと思う。
その気になれば、そういうものは年数をかけさえすれば実現もむずかしくない。
日本ではそういうものを多くは観光客のために作られる。
そういう施設を訪れるものはたいてい観光客である。
しかし家族で訪れることのできるようなものを作りたい。
外国では博物館や植物園、動物園は親子や家族が多くそこを訪れている。そして親と子をつなぐ大切な絆の役割をはたしている。
日本のそうした施設は親子をつなぐに足るほどの充実した内容をもったものが少ない。
むしろ無いところが多い。
近頃歩いていてもしきりに思うのは、今の人達は後世の人達に対して誇り得るものとして何を残せばよいのだろうかということである。
今日の観光というのは、先祖の残した文化、あるいは自然美などの居食のようなもので、現代の人々の作り出したものはきわめて少ない。
これでよいのだろうかと思う・・・・・
』
著書「私の日本地図⑮ 壱岐・対馬紀行」より
前述のサイクリングロードもおそらく、その道の専門家を招いて入念に検討し建設されたものでしょう。
しかし、『親と子をつなぐ大切な絆の役割』という観点で建設されたものとは考えられません。
その結果、このような廃墟化を招いてしまっているのだと思うのです。
これを計画する時に「親子やファミリーでゆったりとサイクリングを楽しみたい!」といった市民達の観点で進められたら、随分違ったものになったでしょう。
また、その後の保守点検などのボランティアの広がりも大いに期待できます。
結果、暮らしやすい魅力的な街づくりとなり活性化に寄与するだけでなく、付随する店舗施設への発展の可能性も出来てくるはずです。
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