「三丁目の夕日」の中の馬のストーリー
西岸 良平作「三丁目の夕陽」の中に秀逸な馬のストーリーがありますので紹介します。
「天高く」
夕日町の郊外で農業をやっている田所 松蔵さんは、一頭の馬を飼っており、農作業や作物の運搬に使っていた。名前をアオといった。
戦後間もない頃は、多くの人が馬や牛を作業の為に飼っていたが、自動車の普及により徐々にその姿を消していった。
松蔵さんの息子も馬を売って耕運機を買おうと松蔵さんに持ちかけるが、アオを大事にしていた松蔵は、「そんなことできるか!」と、とりつく島もなかった。
いつものようにアオと畑を耕していた松蔵さんだが、持病がある胸の痛みが出てきたので、アオが曳く荷車に横に寝たまま家に帰ることにした。
アオは松蔵さんが寝ていてもちゃんとひとりで家に帰ることができた。
松蔵さんは高く澄んだ秋の空を見上げながら、「アオはいつも働いて前ばかりを見ているから、こんな風に高い空を見上げたことも無いんだろうなぁ」としみじみと考えた。
やがてアオが帰ってきたことに気づいた息子嫁は、まだ眠ったままだと思っていた松蔵が、その時すでに息を引き取っていたことに気づいた。
松蔵さんが亡くなった翌月、アオは他人に売られ、田所家を去ることになった。
田所家の犬や猫はアオが食肉工場へ売られるという噂を聞きつけ、何も知らないアオのことを不憫に思った。
そして「自分たちは、犬や猫でよかったなぁ」と話し合った。
トラックに載せられたアオは、もう田所家には戻らないことを悟った。
そして初めて、高い秋の空をしみじみと見た。
しかしなぜかまた、松蔵さんと逢えるような気がしていた。
そして月日は流れ、アオは遊園地で「おとぎ馬車」を曳く、子ども達に大人気の馬車馬となっていた。
アオのおとなしい性格が幸いして、遊園地の仕事を任されたのだった。
漫画ではあるが、よく馬のことをとらえた名作と思います。