[怪談]ウオノメ誰の目
これは昭和初期ぐらいのお話。
場所は中国地方の宿場町。
当時はまだ交通網が発展途上で、旅をしたり行商人さんなどの移動は歩いて行う事が多かった。
足を酷使することが多いゆえ現代の人よりも健脚な者が多く。
一日に40km以上も歩き、軽い小山や峠を越える程度は日常茶飯事だった。
そんな彼らには脚はまさに商売道具で、
それゆえ脚の悩みはつきもの。
とりわけ多かったのはウオノメだ
魚の目を食べたからだとか、イボの中心が黒くて不吉だという事から地方によっては不吉なものとされ忌み嫌われていた。
中国地方のとある宿場町ではウオノメ取りなんていう仕事もあったくらいだ。
それを専門に生業にするというわけでなく、農家との兼業や按摩との兼業など。
さびれた宿場町だったので小遣い稼ぎ程度に行われていたそうだ。
そんな彼らにはきまって習わしとされていた事があったらしく。
・ウオノメ取りになっていいのは女だけ
・取ったウオノメは裏山の決められた場所に埋めて神様にお供えする
・取ったウオノメはけして太陽の下にさらしてはいけない
・・・とのこと
その地方ではウオノメは旅人のケガや不幸をそこの土地神様が肩代わりしてくれた名残だと考えられていたらしい。
なので土地神様にしっかりとお礼をし大地へ返すのが習わしだったそうだ
その村では目が見えない故、按摩や針仕事を生業とする者が少なくなかった。
そうした目の見えないものの多くは本業の傍らの小遣い稼ぎでウオノメ取りの仕事を行った。
そうした彼らのウオノメ取りの仕事は旅人にも好評で、痕残りなくキレイに魚の目を取っていたそうだ。
やがて鉄道網が発展し、足を使って移動する人が減るに従いウオノメ取りの仕事はその数を減らし、
比例するようにその村では目の見えない・・・いわゆるめくらの数が増え、程なくしてその村は廃村となったそうだ。
周囲の村の者から伝え聞くところによると、
その村ではウオノメを土地神様に捧げられなくなった代わりとして、生きた人間の目を土地神様に供えていたのだという。