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【非情怪談/本の選択】

本の選択


主人公がその本を見つけたのは、ひどくうらぶれた古本屋の片隅だった。

かび臭い空気の中、黄ばんだ背表紙が彼の目に留まり、まるで導かれるように手に取った。その本のタイトルはすでに文字がかすれて読めず、表紙も擦り切れて何色だったのかすらわからない。

しかし、何か不思議な引力に引かれ、彼はその本をレジに持って行った。

店主は無愛想に一瞥しただけで、無言で本の代金を告げた。

主人公は、その場の妙な雰囲気に圧されながらも、お金を払い、店を後にした。外に出ると、どんよりとした雲が空を覆い、湿気のある風が彼の頬を撫でた。

その日の天気はまさに本が醸し出す不気味な雰囲気にぴったりだった。

家に戻ると、彼はすぐにその本を手に取り、ソファに腰を下ろした。古びた本からは、ページをめくるたびに独特のカビ臭さが漂ってくる。

しかし、彼はその不快さを気にせずに、物語の世界に没頭していった。ページをめくるたびに、物語はますます彼を引き込んでいく。

古い言葉遣いや、時折見られる文字のかすれ具合にもかかわらず、彼はその本の魅力に完全に取り込まれていた。

しかし、物語のクライマックスに差し掛かったとき、彼は突然、ページが破られていることに気づいた。

物語の結末を迎える前の一番肝心な部分が、まるで誰かに無理やり引き剥がされたかのように、欠落していたのだ。

主人公は、肩すかしを食らったような気分でしばらくその場に座り込んだ。

結末を知りたいという思いが募り、彼はその本を手に取って再び古本屋に向かった。

古本屋に到着すると、彼は店主に尋ねた。

「この本の最後のページが破り取られているんですが、同じ本を他にも持っていますか?」

店主は無表情のまま、首を振った。

「その本は他にはないよ」その言葉に主人公は戸惑い、何かがおかしいと感じたが、それ以上の問いを口にすることはできなかった。

再び家に戻ると、主人公は部屋の中をうろうろと歩き回りながら、どうすれば結末を知ることができるのかを考えていた。

彼はインターネットで同じ本を探し、情報を得ようと試みたが、どこにもその本の存在が見当たらない。

タイトルも、著者も、まるで存在しなかったかのように、何も情報が出てこない。

その夜、彼は寝床についたが、頭の中は破られたページのことでいっぱいだった。何が書かれていたのか、なぜそのページだけが失われたのか、考えれば考えるほど不安が膨らんでいった。

彼は夢の中でもその本を手に取り、無限に続く白いページをめくり続けた。

目が覚めた時には、まだ疲れが取れておらず、胸に重い不安が残っていた。

次の日、仕事から帰宅した彼は、いつものように鍵を開けて家に入った。

だが、違和感があった。何かが違うのだ。

部屋の中が少しだけ異質に感じた。まるで誰かがここにいたかのような、奇妙な感覚。彼はすぐに部屋中を確認したが、誰もいない。

ただ、テーブルの上に一枚の紙が置かれていた。

震える手でその紙を手に取ると、彼は驚愕した。

それは、彼があれほど探していた本の最後のページだった。そこには、まるで誰かが細かく観察して書き記したかのように、彼が家に帰ってきて、そのページを発見するまでの一部始終が描かれていた。

彼の息遣い、ドアを開ける時の心の動き、そして最後にこのページを発見するまでが、まるで映画のワンシーンのように細かく記されていた。

最後の行には、こう書かれていた。


「今、背後に何かがいる」

彼はその文を読み終えるや否や、背筋が凍りつくのを感じた。

動けない、振り向けない。
呼吸が浅くなり、心臓の鼓動が耳元で鳴り響く。

まさにその瞬間、彼の背後からかすかな音が聞こえた。それは、ゆっくりと近づいてくる足音だった。

彼はその場で固まり、まるで時間が止まったかのように感じた。

目を閉じたまま、彼は自分自身に振り向かないよう強く念じた。

しかし、その足音は徐々に近づいてくる。彼は恐怖に耐えきれず、ついに振り向くことを決心した。

だが、その瞬間、彼の意識は突然途切れ、気がつくと床に倒れていた。彼が目を覚ました時、部屋には誰もいなかった。

ただ、机の上には開かれた本が置かれており、その最後のページが再び彼の目の前に現れていた。しかし、今回は違う内容が書かれていた。


「お前はすでに選ばれた」


彼はその言葉を見つめ、理解することができなかった。彼がそのページを手にした瞬間から、彼の運命は決まっていたのだ。

彼はその事実を知ると、再び背後に何かがいることを感じた。だが、今度は振り向くことはできなかった。彼は自分の運命を受け入れ、ただ静かにその場に立ち尽くした。

そして、その夜から彼は消えてしまった。

彼の部屋には、ただ一冊の古びた本が残されているだけだった。

その本の最後のページには、次の持ち主が書き記されるのを待っているかのように、空白が広がっていた。


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