【意味が分かると怖い話/タイトルは文末に】

怪談師黒マントQ君/意味が分かると●▲◾︎

2024年12月10日 20:28

引っ越しの始まり

寒い冬の朝。古びたマンションのエントランスから見上げると、灰色の壁に囲まれた5階建ての建物が空へとそびえていた。

「静かで平和そうな場所だな……」

主人公は心の中でそう思い、鍵を握りしめる手を少しだけ強くした。

引っ越しを終え、少しずつ部屋に慣れ始めた頃、隣人の女性（Aさん）が訪ねてきた。

「こんにちは、隣に住んでいるAと申します。引っ越し祝いにどうぞ」
小さな焼き菓子の包みを受け取ると、彼女の柔らかい笑顔に安心した。

「いい人たちが住んでいるんだな」

胸の奥に静かに温かいものが広がるのに、手足はもうすぐ夏というのに氷のように冷たい。

最初の異変

引っ越して一週間後、隣人のAさんの姿がぱったりと見えなくなる。
「何かあったのかな？」と気になり、共用廊下で別の住人に尋ねると、軽く笑われた。

「Aさん？ああ、引っ越したみたいですよ」

しかし、その数日後、Aさんの部屋を通りかかると、まだ彼女の靴や郵便物が残されているのに気づいた。

「引っ越し……？どうして荷物を置いたままなんだろう」

奇妙な違和感を抱えたまま、その日はそのまま過ぎていった。

その夜、仕事から帰るとエレベーターの液晶画面が暗転し、文字が浮かび上がった。

「次の更新はあなたです」

画面を凝視し、背筋に冷たいものが走る。

「なんだこれ……？」

誰かのイタズラだと思い込もうとしたが、エレベーターを降りる瞬間、背後で誰かがつぶやくような声が聞こえた気がした。

それは低くかすれた声で、はっきりとは聞き取れない。

振り返っても、誰もいない。廊下はシンと静まり返っている。

2人目の住人が消える

数日後、今度は向かいの住人（Bさん）の姿が見えなくなる。

「最近、Bさんを見かけませんね……」
また別の住人にそう言うと、同じように笑いながらこう言われた。

「Bさん？ああ、もう出て行きましたよ」

しかし、Bさんの部屋の窓にはまだ明かりが灯っている。

気になった主人公が部屋の外を覗くと、窓の隙間から人影が見えた気がする――だが、それは一瞬で消えた。

「いる……いや、いない？」

確かめたくても、部屋の鍵はかかっており、開けることはできない。

ノートの発見

その夜、自分の部屋の押し入れを整理していると、一冊の古びたノートが出てきた。
「前の住人の忘れ物か？」

中を開くと、そこにはページごとに名前と日付が書かれている。
不思議に思いながらページをめくると、最後の方にこう書かれていた。

「すべてが繰り返されている」

手が震え、ノートを床に落としてしまった。
その瞬間、部屋の天井から「コツ、コツ」と何かが叩くような音が響く。

消える自分の記憶

次の日、仕事の帰り道、主人公は自分の記憶が曖昧になっていることに気づく。

「前に住んでいた場所って、どこだったっけ？」
「このマンションに引っ越してきたのは、いつだ？」

頭を抱えながらマンションの前に立つと、エントランスの自動ドアが開く気配がした。

けれど、そこに誰もいない。

中に入ると、住人たちがいつも通り談笑している――だが、その笑顔がどこか不自然で、まるで仮面をかぶったように見える。

エレベーターの異常

エレベーターの液晶画面に浮かぶ文字。

「次はあなた」

その瞬間、エレベーターが急に揺れ始めた。
「えっ……？」
降りるボタンを何度も押すが、エレベーターは停止しないまま、上昇し続ける。

緊張した息遣いの中、天井から不気味な低音が響いてくる。

それは言葉にならない「ざわめき」のようで、誰かが真上で息をしているような音だった。

やがて、エレベーターは「6階」に止まった。
「このマンション、5階建てのはずだよな……？」

ゆっくりと開く扉の先には、真っ暗な廊下が伸びている。
奥に見えるのは、自分が住む部屋のドアだった。

部屋の目覚め

自分の部屋に戻ると、床には例の古びたノートが落ちていた。
拾い上げて開くと、最後のページに新しい文字が加わっていることに気づく。

「終わりは始まり」

その瞬間、部屋の壁が微かに軋み始め、耳をつんざくようなノイズが聞こえた。

音の正体を探そうとキッチンへ向かうと、電気が瞬いて冷蔵庫のドアが勝手に開いた。

中には、腐敗した生肉のような物体が詰め込まれており、異臭が部屋中に広がる。

住人たちの正体

動揺しながら部屋を飛び出し、廊下を駆け抜ける。
だが、マンションの住人たちが次々と扉を開け、無表情で主人公を見つめてくる。

彼らの顔はどれも少しずつ歪んでおり、まるで溶けかかった人形のようだ。

「次の住人は君なんだよ」
一人の住人がそう言った瞬間、主人公の中で何かが崩れるような感覚が広がる。

恐怖に駆られて階段を駆け下りようとするが、どれだけ走っても同じ階に戻ってきてしまう。

「どうして……？」

その時、頭の中に映像がフラッシュのように蘇る。
それは自分がこのマンションの前で笑顔を浮かべながら「ようこそ」と新しい住人を迎え入れる姿だった。

「これは……俺？いや、違う！」
頭を抱え、叫び声を上げるが、その声は廊下の壁に吸い込まれるように消えていく。

影の追跡

息を切らしながら振り返ると、廊下の奥に「影」が一つ現れる。

その影は、徐々に主人公の形に似てくる。

そして影が近づくたび、主人公は自分の記憶が薄れていく感覚に襲われた。

「ここに引っ越してくる前、俺はどこにいたんだ……？」
「自分の名前は、なんだった……？」

記憶が一つ消えるたびに、影がより鮮明に、自分の顔と同じ形に変わっていく。

ノートの謎

部屋に戻った主人公は、再びノートを開く。
そこには無数の名前と日付が記されており、最後のページには、自分の名前が新たに加えられていた。

その横にはこう書かれている。

「更新完了」

その瞬間、部屋の窓からマンションの外を見ると、また新しい住人が荷物を持ってマンションに入ってくるのが見える。

「ようこそ……」
不意に、主人公の口からその言葉がこぼれ落ちる。

翌朝、主人公の部屋は空っぽになっている。

新しい住人がそこに荷物を運び込み、住人たちが「こんにちは」と挨拶する姿が見える。

ノートの最後のページには、新しい名前が書き加えられている。

タイトル:釈迦になれない末路

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