宇宙大会議(SF)
・・・目が覚めると、真っ白い部屋にいた。
天井は円型のドーム状になっていて、部屋の中央に円卓が置かれている。
僕は円卓の一席に座っていた。
僕以外にも、円卓のそれぞれの席に人が座っていた。
いや、よく見ると彼らは人間じゃなかった。
恐竜のような見た目の鎧を着た生物、スライム状の有機生命体、テレビでよく見かける絵に描いたような宇宙人。
中には、かろうじて人型をした生物もいたけど、全身が真っ赤だった。
他にも奇妙な生物達がテーブルを囲んでいた。
・・・これは夢だろうか。記憶の最後は自分の部屋のベッドだから夢なんだろう。
「では、始めるとしよう」
恐竜が日本語でしゃべった。耳の真横でしゃべられているような感じだった。
僕の耳にはイヤホンみたいな装置がつけられていて、音声はそこから流れていた。通訳装置のようだ。
「まず、地球人のキミ、状況は理解できているかな」
部屋の視線が僕に集まった。
「・・・いえ。これは夢ですよね?」
恐竜が神妙な顔をした。
「残念ながら、夢ではない。キミは地球人代表として、この会議に招聘されたのだ」
「会議?」
「左様。この会議によって、地球を破壊するかが決定するのだ」
「破壊!?」
僕は思わず立ち上がりかけた。だけど、椅子から身体が上がらない。手首を椅子に固定されていたのだ。力を入れたり手首を捻ってみたけど拘束は外れない。
そして、この手首の痛み。
・・・夢なんかじゃない。
「会議が終わるまで拘束させてもらうよ」
「家に帰してください!」
「申し訳ないが辛抱してもらおう。状況は飲み込めたかな?地球の少年よ」
地球を破壊?僕が地球代表?あまりに話が突飛すぎて、飲み込むどころじゃなかった。
「なんで、僕が代表なんですか?僕は単なる高校生で、地球を代表するような人間なんかじゃない」
「システムがランダムにキミを選び出したのだ。私たちは標準的な地球人の意見を聞きたかったのだよ」
おもむろにスライムがしゃべり出した。
「先に言っておくと、我々は大方、地球を破壊することで合意している。キミが我々の考えを変えられなければ、この会議が終わり次第、地球は巨大ブラックホールに飲み込まれ塵一つ残らない」
「・・・なんで、地球を壊す必要があるんですか?」
なおもスライムが続ける。
「お前さんは家でゴキブリを見かけたら、殺さないのかね?」
「僕達がゴキブリだとでも言うんですか?」
「宇宙規模でいうなら、イエスだ。お前さんたち地球人を見ていると本能的に不快な気持ちが込み上げてくる。いわば、害虫だ」
いかにもな見た目の宇宙人が会話に加わる。
「ただあなた達、地球人はそれなりに独自の文明を発展させている。私達も、地球人を絶滅させていいものか迷っているのは事実。黙って、地球を破壊してもよかったのだけど、地球人の意見も聴いてみようとなって、あなたが呼ばれた」
・・・僕の両肩に地球の存亡がかかっている?政治家でも軍人でもないイチ高校生の僕に?
「お前さんに意見がないようなら、会議は終わりだ」スライムが席を立とうとするのを恐竜が制した。
「まあ、彼も突然、連れてこられて戸惑っているんだ。待ってあげよう」
「どうせ結論は変わらないがな。ゴキブリの意見を聴く必要がオレにはわからない」
スライムは渋々、席についた。
みんなが僕の発言を待っていた。
何か言わないと・・・。
「地球を壊すのは止めてください」
「どうして?」恐竜が言った。
「・・・それは、誰だって自分の家が壊されたら嫌じゃないですか。あなた達だって、嫌でしょう?」
スライムがブヨンと動いた。表情がないけど、鼻で笑われた気がした。
「それはそうだ。オレだって自分の星が壊されたら怒る。だけど、お前さんは大事なことを見落としている。地球の生物なんぞ、オレ達にとってはアリみたいなもの。巨象がアリの家を踏み潰すのを気にかけるかね」
「家を壊されたくないというのは説得力としては弱いね」恐竜がスライムに賛同した。「我々が知りたいのは、人類を存続させる意味だよ」
どうやら、この中では、まだ、恐竜は穏健派のような気がした。説得するなら恐竜だと僕は思った。
「どうして地球の人間を毛嫌いするんですか?」
恐竜に問いかけた。
「学者は本能的な嫌悪感だと分析している。キミたち人類のことを勉強させてもらったんだが、キミたちが本能的に蛇を恐れるのと似ているそうだ」
「そんな、蛇は毒だってあるし見た目もウネウネしていて気味が悪いからわかりますけど、見た目でいうなら、あの人と僕達は大差ないじゃないですか」
僕は、身体が赤い人型の宇宙人を指して言った。
「一緒にしないで!」
赤い宇宙人の怒号が飛んだ。
「なんて失礼なヤツだ!地球人と似ているだなんて」スライムが怒ってブヨンと膨らんだ。
恐竜も首を振って、残念そうにしている。
「今のはまずいね。彼女達アルマ人はプライドが高く礼儀にうるさいのだよ」
僕の不用意な発言のせいで全員を敵に回してしまった。
「地球を壊せ!」「地球人は皆殺しだ!」
怒りの声が方々から上がった。
・・・僕はどうやら地球を守れなかったらしい。文字通りの万事休すだ。
申し訳ない気持ちだった。けど、一体、僕に何ができたというのか。
その時、おもむろに恐竜が立ち上がった。
「いいことを思いついた。みんな、この少年に最後のチャンスをあげようじゃないか」
みんなが恐竜に注目した。
「この少年の命と地球人の命とを天秤にかけて、彼に選ばせるのはどうだろう。大いなる犠牲は、私達みんなが愛してやまない精神だ」
恐竜が僕に向き直った。
「キミの命を差し出せば、地球人の命は助けよう」
・・・僕の命と人類の命運。恐竜はとんでもない天秤を用意した。
「もし、僕が断ったら?」
「地球はプラン通り破壊する」
「僕はその後、どうなるんですか?」
「キミは我々が保護しよう」
「・・・なら、地球を壊してください」
僕は迷わず自分の命を選んだ。人類の命運をどうして僕が背負わなければいけないのか。地球のみんなは恨むかもしれないが、僕が命を差し出す義理なんてない。地球で生きていたって、つまらない学校生活が待っているだけだ。それなら、宇宙での明るい未来に賭けた方がいいのではないか、僕はそう思ったのだ。
恐竜は僕の返答にうなずいた。
大型スクリーンに地球が映し出された。
突如、巨大なブラックホールが地球のすぐ近くに出現し、
あっという間に、地球はブラックホールに飲み込まれた。
わずか数秒で人類は滅び、僕は地球最後の人間となった。
「これで会議は終わりだ」
恐竜の一声で部屋の宇宙人達が一斉に立ち上がり部屋を出ていった。
恐竜が僕の方にやってきた。
「つらい決断をさせてしまったね」
「・・・僕は保護してもらえるんですよね?」
恐竜が注射器を僕の首に打ち込んだ。
・・・え?
身体が麻痺して動かなくなった。
「・・・そんな、約束が違う!」
朦朧とする意識の中、恐竜の声がした。
「キミは地球人最後の貴重な1人だ。丁重に保護させてもらうよ・・・博物館で」