綱渡りの人生
「この人と出会ってなかったら…」
20年ちょっとの人生を振り返って、そう思う方が何人もいる。
どの方も僕の人生に大きな影響を与えてくれた。
価値観を大きく変えてもらったり、「世界は意外と悪くないところだぞ」と教えてくれたり、「君と同じ考えの人間もいるんだよ」と安心させてもらったことは、今でもかけがえのない僕の財産になっている。
一つ一つの出会いはまさに神様の気まぐれで、サイコロを振るような不安定な運によりもたらされた。
目の前に現れたときはその出会いの大切さに中々気づけない。
時間を共にするにつれ、その尊さを肌で感じる。
ちょっぴりの変化が積み重なり、いつの間にか自分の中で大きな進歩になる。
そして勇気や自信が湧いてくる。
その時、やっと事の重大さに気づくのだ。
ある程度の地点で後ろを振り返る。
そこには過去の冴えなかったモノクロの自分がいる。
あの頃の自分が、今の自分だったかもしれない。
背筋に冷たいものが走り、夢でも見ているのかと頬をつねっている。
ふと足元に目を遣ると、空中にある一本の綱が風にあおられ揺れている。
たった数cmの幅をギリギリの中で渡ってきたのだと気づく。
足元に意識を遣る発想すら無く、ただ前を向いていた。
それを何回も繰り返し、「今」があるのだ。
人生はそういった妖しさ、危うさを秘めている。
「あのときあなたに出会ってなかったら今の僕はここにはいないよ」
自信満々に言える日がいつか来るかもしれない。
「そんな大層なこと、しましたっけ?」
首を傾げ、困り顔をするあなた。
照れなのか、ほんとに忘れたのかは分からない。
でも、それでいい気もする。
いつか自分も、そんな人に。
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