見出し画像

Autumn happening!

秋は本当に行事が多い。
基本、スポーツも勉強も進学校なのにどうしてこんなにイベントが多いのだろう?

ぼくらの通う滝山高校はもともとは進学校ではなく、
戦後、学校教育を受けられない生徒を受け入れた
塾からはじまっているので、
生徒に勉強以外のことも学んで欲しいとおもっていたのかもしれない。

そんなわけで、今回は体育祭だ。

実はこのあとには学園祭(滝山高校のみで行われる)もひかえていて、

二年の秋までには各部活のキャプテンが引退しなければ受験に本腰をいれられないのもわかる気がする。

体育祭…かぁ。

ぼく、得意なものがないんだよね。
足も遅いし、棒高跳びとか、足が揃っちゃってだめなんだ。

球技もチビだからパス回ってこないし…。

バドミントンがなんとかできるくらいかなぁ、

でも、競技にないし、みんなに迷惑かけなそうな

玉入れにエントリーしようかな。

リクは忙しそうだ。
リレーはでるし、障害物競争もでる。借り物競争もか。
さすがお父さんが元陸上選手だけある。きっと遺伝もあるんだろうな。

なら、ぼくは応援に専念するか。

リクの好きな卵焼きをいれて、お弁当でも作ろう。

後ろの席を見ると、
同じく体育祭で活躍組の片桐さんが、浮かない顔をしている。

「片桐さんはリレー?」
「うん。でも実はこのあとに大会が控えてるから、怪我とかしたくないんだよね」

「たしかに、片桐さんはそっちがメインだもんね。騎馬戦と組体操がなくなったのは、救いだけど」

「うん。あれこそ落ちたら一貫の終わりだから」

幸い、数年前から騎馬戦と組体操は危険であると生徒の両親の署名活動によって、廃止になった。

高さがあるし、上でも下でも怖いもんね…。

ちなみに、たっくんいわく、アメリカにはないらしい。
やっぱり野球とかバスケの国だならかなぁ。
球技大会みたいな感じなのだろうか。

華厳学院との共同文化祭後、たっくんと花音さんはニュ―ヨ―クに戻ったけど、
なんとインスタグラムを開設してくれたんだ!

不定期ながら、インスタライブで美容全般のお悩みに答えている。
『一人でも笑顔にしたい。』
それが花音さんの原動力なんだって。

素敵なことだなと思う。
それでたっくんが撮影や環境を整えてくれて、発信できているらしい。

その中性的な美しさと、もともと飾り気のないさっぱりとした性格のせいか、
女子はすぐファンになってしまうみたいだ。

うちのクラスでもよく話題にあがっている。

女性雑誌にも着こなしコ―ナ―や、へアアレンジの企画にもたびたび登場しているとか。

そして、真田くんは、例によって体育祭の進行係だ。先日の文化祭でも絶賛されていた。

将来アナウンサーを目指しているらしく、たまに演劇部に混じって発声練習をしているほどの熱心さだ。

知識ではかなわないから、と
友人で新聞部の吉川(よしかわ)くんと意見交換をしているそうだ。

その吉川くんは棒倒しにでるそうだ。
午前の競技一番だし、おわれば新聞部の取材にいけるという、自身の適性無視のエントリーだ。

小早川さんは二人三脚。午後の競技一番なので、2人で相談して分配したのだろう。

高木さんは小早川さんにつきあわされて、二人三脚と午前の大玉転がし、
リクとおなじサッカー部の小橋くんは、
やはりリクとおなじ状態でほぼエントリーしていた。

ぼくは次の学園祭は出展しないといけないからなぁ…。
それもあって強く言われない。
文化部で発表や作品を出す生徒は
そこらへんは優しい対応をしてもらえている。

コ―ラス部やダンス部、演劇部に
日舞同好会…けっこうたくさんある。
化学部など、理系のほうも実験や
おもしろ体験コ―ナ―をつくったりと、趣向をこらしている。

去年は写真部のお化け屋敷の評判がよかったらしい。撮影技術を駆使した力作だったとか。

ぼくは美術部に所属している。
絵を描くのも好きだけど、
貼り絵がだいすきなんだ。

もともとは、家で新聞にはさまれて大量にでるチラシや紙をみて、なにかにできないかなと
思ったことがきっかけだ。

一つ一つはゴミでも、合わされば作品になる。
誰かのゴミでも、こうやって宝になることがある。

貼り絵ももちろんOKで、粘土で作品を作るのも、DIYに近い家具を作るのも、もちろん美術部の本家である絵画もOK。

顧問の意向で『とらわれない表現』を部の理念に掲げているので、反対されることもなく、居心地がいい。

作品はうちの近くの公園の紅葉スポットと、対比で新緑の季節の二枚を、出展予定だ。おなじ系統の色を見つけるのは案外難しい。
今回は小さいサイズがやっとだった。

本当は銀杏並木もいれたかったんだけど、そこまでどうしても時間がたりなくて、来年でもチャレンジしてみようかなとひそかに思っている。

季節が早足になり、
秋を感じることが難しくなってきたこの頃。

それでもぼくらには目を閉じれば風で木の葉が擦れる音、
舞い落ちる葉のしなやかさに心奪われる。そのときの気持ちも思い出せる。
それは幼き日の記憶の中に刻まれているからだ。

道行く人に踏みしめられた落ち葉
の音。
どこかの家から香るキンモクセイ。
下をみて気がつけば見つかるどんぐり。

少しずつ遅くなる夜明けと、早くなる夕暮れ。

そのどれもが愛おしく思えるんだ。

その季節を残しておきたくて、今回は初夏と晩秋を題材に選んだ。


どんな季節も愛おしい。
そう思わせてくれたのはリクがいたから。
リクがぼくを外の世界に連れ出してくれた。

「どした?ソラ。なんかぼ―っとしてるけど、でも顔ニヤニヤしてるし」

お昼に屋上でご飯を食べていると
心配そうな表情のリクに顔をのぞきこまれる。

「ごめん。気持ち悪かったよね。
昔のこと、思い出してたんだ。
リクがいたから、ぼくは外の世界を知って、楽しむことができた。
ありがとう」

するとリクはふるふる、と首をふり、

「俺んちさ、帰っても会話もなにもなくて、いるのが辛くて、
飛び出していけるのが幼稚園だったんだ。

そこで、かわいい天使みたいな子がいた。

それがソラ、お前だった。
それからはもうソラに会いたくて
一緒に遊びたくて、
笑顔がみたくて、
ともだちになってくれて、
俺に希望を与えてくれた。

俺も救われてるんだ、ソラに」

「リク…」

「そして、いまも側にいてくれる。大切な人。これからも変わらない」

ぼくは思わず、手が震えて箸を落とし、あふれでる涙をとめられなかった。

「ぼくも…ぼくもおなじ気持ち…」

リクはお箸を拾ってから、ぼくをゆっくり抱き締めた。

「人生ではじめてすきになった人がソラでよかった」

「ぼくもそうだよ。リクだけが女の子みたいっていわれるありのままのぼくを受け入れてくれた」

「ソラ…」

リクの指がぼくの顎にふれ、わずかに顔を上向かせる。
リクの顔が近づいてくる。
ぼくはそっと目を閉じた。

そのときだった。

「キャ―!!」
「亜音さま!!」
「華厳学院のバス!すごい!」

校庭にはいつの間にやら女子生徒だらけ。

華厳学院のロイヤル感満載の白いバスが止まっていて、
二階建てのバスから手をふっている。
横には黒沢がぴったりくっついており、
下手をすると選挙活動かと勘違いしそうだ。

「またあいつらか…いいとこだったのに」

リクがため息をつき、
ぼくは気が抜けてしまった。

「今日は何の用なんだろう?」

よくみるとその白バスのよこに張りついているのは吉川くん。

反対側に小早川さんがスタンバイ。

「先日はお世話になりました。
新聞部の吉川ともうします。インタビューよろしいでしょうか?」

「ああ、かまわないよ」

「亜音さま!そんな約束もないいきなりな質問に答えなくともよろしいのでは」

すかさず黒沢が牽制する。

「そんな大げさな。で、何かな?」

「とても立派なバスでお越しですが、これからみなさまどこかへお出掛けでしょうか?」

亜音はその質問をまっていました、といったばかりの表情で答える。

「実は俺たちは年に一度短期の語学留学にいくんだ。今日は空港にいくまでここを通るので、寄らせていただいたんだよ」

要するに庶民の兄弟校にはない
セレブ校の特権だと暗に言っている。

「同じく新聞部の小早川です!
質問お願いします」

「はい、レディのご要望は断らないよ」

「亜音さんご一行は今年はどちらへ語学留学されるのでしょうか?」

「今回はね、北欧、スウェーデンだよ。寒いけどね」

「ああ、それで理解しました。井丹田(いたんだ)空港ならこちらを通らなくていけるのに、逢阪(あうさか)空港なら国際線ですもんね」

満足そうに頷く。
「そう。井丹田だと国内線のみだからね」

女子からは気をつけていってらっしゃいなど、優しい言葉をかけられて、手を振りながら

「ありがとう。帰ってきたときにはまた寄らせてもらうよ」
終始笑顔で、亜音は手を振っていたが
黒沢に「そろそろ時間です」と
いわれたのか
「では、みなさんも体調にはお気をつけて、また会いましょう!」

亜音は深々と礼をして、
黒沢に手をとられながら、階下へと降りていった。

「いってらっしゃ―い!」
「風邪ひかないように気を付けてくださいね」

女子の黄色い声に見送られながら、やたら派手なバスはゆっくりと発進していった。

「わざわざ自慢しにきただけか…」

リクは少し昼寝したかったとぶつぶつ言っている。

「あ―、ほんとだね。もう予鈴五分前、いこうか」

ぼくらはいそいで屋上を降り、教室へと走った。


つづく。











いいなと思ったら応援しよう!