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Autumn of sun!
先日の体育祭は無事終わり、
後日リクは、障害物競争で1位の小さな盾と賞状をもらっていた。
月曜日は振替休日で、
ぼくはリクの部屋で盾を飾っていた。
「これでまたひとつ、思い出が増えたな」
そう笑うリクについ、ぼくの胸が高鳴る。
嬉しい。リクもそう思ってくれることが何よりも幸せだ。
秋はたしかに行事が多いけれど、そのぶん思い出も増える。
おじいちゃんになったときも、
『こんなことがあったね』って話し合えるのが夢なんて、
ぼくは贅沢かな。
もしかしたらリクは他の人を好きになるかもしれないのに。
女の子なら結婚するかもしれない。
「どした?つかれた?」
リクが顔を覗き込んできた。
暗い顔をしてたのかな?
「ううん。こんなに楽しいことがずっと続けばいいのにって思ってた」
するとリクは、ぼくのおでこに自分のおでこをコツンと当てた。
「嘘。だったらそんな不安そうな顔してない」
「…おじいちゃんになっても、今みたいに仲良くいられるかなって思ったけど…リクに好きな人ができたら無理だなって…ん!」
「はいはいストーップ!
ネガティブ妄想劇場はおしまい!」
リクが手でぼくの口を抑えている。
「命をかけてもいい。そんなことは地球がひっくり返ってもない」
そして、両手でぼくの頬に添えて、真剣な表情で言った。
「俺は全部引っくるめてソラという人間が好きなんだ。男か女か、なんて関係ない」
「リク…」
「この世界はいろいろしんどくてややこしいけど、
それでも俺は最愛の人を見つけることができた。
それだけで救われているんだ」
さらにリクは続ける。
「俺は未熟だし、ソラの持つ不安を全部拭いされないかもしれないけど、
ずっと側にいる。俺ができるのはこれしかない」
リクの思いが伝わってきて、途中から我慢していた涙がこぼれ落ちてきた。
「どっちの涙?まだ不安?」
リクは、やさしく指で涙をぬぐってくれた。
ぼくはうつむいたまま、ふるふるも横に首を振った。
「うれしい…涙。リク…好き」
「ソラ…俺も。心配しなくていいから」
どちらともなく顔を近づけた、
その時…。
2人のスマホの通知が同時に鳴った。
「もー!!いいところでなんなんだよ!毎回毎回!!」
リクのリアルな怒りをみて、ぼくは思わず笑ってしまった。
「2人同時に鳴るってことは、たっくん?」
「ご名答。花音さんのインスタライブの通知だ。見る?」
「うん。ひさびさに顔みたいよ。
なんだかんだとお世話になったしね。いい?」
「よっしゃ、パソコンで見ようか」
ぼくらはパソコンをテーブルに置き、ソファーの前で待機準備を始めた。
ぼくはぬいぐるみのジンベエザメのカイくんをだきしめている。
名前の由来は海の生き物なので、カイくんだ。
「…チンアナゴにしなくてよかったな。やっぱりソラにはそっちが似合う」
「チンアナゴ…名前が放送禁止用語になるよ」
「そうだな…思い付かん」
リクも納得したらしく、顎に手を当てて、首をかしげている。
「あ、ジュース取りに行こうか。
ジンジャーエールあるし」
「やった!いただきます」
ぼくらはキッチンからコップとジュースを持ってきた。ちなみに
サイダーやラムネがリクの好物だ。
小学生の時、近所のお祭りに2人で行ったときに美味しさに目覚めたらしい。
お菓子を机の上に並べたり
なんやかんやしてると、
もうインスタライブがはじまる時間だ。
ぼくらはソファの下に体育座りをして、パソコンを見つめた。
パソコンから流れる音楽。
~誰でも素敵になる魔法はある~
『Kanonの一手間メイクアップ講座』
「Hallo!今回もロスからおとどけしているので、
時差がきついかたはごめんなさい。ヘアメイクアップア―ティストの花音です。本日もよろしくお願いします」
笑顔の花音さんは、華やかで
嫌みのない美しさを放っていた。
「わ、花音さん、やっぱり画面越しでもキレイだね」
「ほんとだな、造りがいいだけでなく、写りかたやいろいろ研究してるんだろうなぁ」
コメントで「おひさしぶりです。お元気そうでよかった」
と、書き込むと、しばらくして花音さんが反応して、
「わあ、日本のお友だちからもコメントがきてる。みてくれているんだね。ありがとう。」
ぼくらはR&S(リク&ソラ)という名前で書き込みをしている。
どうやらわかってくれたようだ。
本日はお悩みの多いアイメイクについてだった。
男性も使えるほどナチュラルなメイクだった。
「今回は男性にモデルになってもらいます」
椅子に座ってあらわれたのは、
「「たっくん!!」」
髪を後ろに束ね、長身の男性がちょこんとすわっている姿は
なんだか面白い。
リクもぼくも、突然の登場に笑ってしまった。
「ついに裏方から出されてる…」
「あたらしく照明さんとか雇ったのかも」
「たっくんがんばれ―」
コメントをおくると、花音さんが気づき、
「いとこと彼女さんが応援してくれてるわよ」
「みてるのか、照れ臭いなぁ…」
たっくんは頭をかいていた。
「それでは、今日は簡単にできるアイメイクをやります!
まずタレ目の人はク―ルにみせたいときは、目尻を上がっているように錯覚させます。アイラインも大げさなくらいでOK。」
手際よく花音さんがたっくんの顔に触れていく。
「そして、こちら半分でつり目の人のアイメイクをします。
今度は逆で、キツく見えがちな印象をを和らげたいんですよね。
まず、アイシャドウ自体もナチュラルな色味でいきましょう。今度はアイラインは控えめで」
「違いがわかるように、半分半分、別のメイクをしてみましたが、違いはわかりますか?」
たっくんはカメラに寄ってといわれ、ドアップになっている。
しばらくして花音さんがたっくんの顔半分をコットンで拭いた。
「あと、最後は目を大きく見せたいかた。
これは私はあなたのもっている素材をいかしたいので、盛らずに
アイラインを上の黒目あたりにひきます。下も引いてもいいですが、やりすぎ感が苦手な方は、まつげを上げてくださいね。
コンタクトでもありますが、黒目が大きく見えると案外、目の形って気にならなくなります」
花音さんの手さばきの早さで、もうたっくんの顔半分は目が大きくなっていた。
「特に日本の方はコンプレックスにおもっているさもしれませんが、魅力的な一重や奥二重の方もいます。
私はハ―フなので、いじめられたこともありました。
どうか自分のもって生まれた個性を認める手段にメイクを使ってほしいと思います。
Let's enjoy,everyday!
また配信しますね。お悩みもおくってください。それではまたね!」
音楽が流れ、笑顔の花音さんとたっくんが手を振り、画面は暗くなった。
「短いながらも充実した内容だったな…」
サイダ―を一口飲み終えたリクが
パソコンの電源を切る。
「うん。実力はもちろん、女子に支持される理由がわかる。自分のパ―ツを生かすことって自信がつくよね」
するとリクは、ぼくの方を向いて、
「ソラもだよ。可愛い顔してるし、優しいし、もっと自信持てよ」
「リク…」
「たくましく育ってほしかったって、親に選ばれなかった痛みもしっている。けれど俺は必要だと思っているから」
だめだ…我慢していたけれど涙が止まらない。
リクだって物心ついた頃には
お母さんはなかなか帰ってこないし、
お父さんは残業で遅くて、あの広い家に一人きり。
ぼくより辛いはずなのに、歯を食いしばって生きてきたはずだ。
「リク、ぼくはリクの素敵なところをよく知っているよ。
大げさかもしれないけど、リクがいてくれたから、
ここまでこれたんだ。ありがとう」
ぼくはリクに抱きついて、背中に手を回した。
リクが顔を寄せた首もとがあたたかい。
リクも泣いているのだろうか。
めったと泣かないリク。
心の中にたまった澱(おり)のようなものが涙と一緒に出てくれたらいいのにな。
ぼくはそう思いながら、リクの涙をうけとめた。
―――――――――――――――
今日からまた一週間がはじまる。
次は三週間後に文化祭だ。
作品は出来ているし、リクとあちこちの部を回れたらなと思っている。
「おはよう!神崎くんと篠原くん!」
いつものように登校すると、
下駄箱の前で待ち構えていたのは以外な人物だった。
「片桐さん…おはよう。どうしたの?」
「実は2人に話があって…ちょっとだけ、時間いいかな?」
「う、うん。リク、いいよね?」
「ああ。わさわざ待ってたなんてなんか急ぎかもしれないしな」
とりあえず片桐さんの後を追う。
片桐さんは、教室から離れた別の場所へと向かっている。
そこは各部室のあつまるクラブハウスだ。
ここの部室は運動系で、
文科系の部室は手芸部なら家庭科室など、各部屋になるからだ。
演劇部は小道具や衣裳があるため、1室与えられている。
そのクラブハウスの奥から走ってくる人物がいる。
「紹介するわ。演劇部の中山さん。実はわたしと中学が同じなの」
「中山紗代(なかやまさよ)です。
いきなり呼び出してごめんなさい」
申し訳なさそうにお辞儀をした彼女。
片桐さんよりすこし長いくらいのボブのサイドをきっちりピンでとめている。
「いや、それは平気だけど演劇部の人がどうしたのかなって…」
「あの…話だけでも聞いていただけますか?」
中山さんの必死の表情に
リクも無下にすることはできないらしく、
「わかった。一応、聞かせてもらう」
と返していた。
演劇部は文化祭では花形となる。
ここ、滝山高校でも毎年劇を披露していて
彼女は中学から演劇部に所属していたそうだ。片桐さんも彼女のお芝居を観たことがあるらしい。
今回の劇は『美女と野獣』
アニメや物語でもおなじみの有名作品だ。
しかし、この配役をめぐって、
出演する役に対しても
部員の人数が足らない挙げ句、
ポット夫人とか嫌だと言われているらしい。
急遽、ロミオとジュリエットに変えようとしたが、
今度は配役が少なすぎる上に、ハッピ―エンドではない。
そこで、来月の他校も出場する
演劇コンクールに
ほぼ全員配役をまわして、
一年生数人と、『美女と野獣』をやることに決めたらしい。
なんだか、雲行きがあやしくなってきたな…。
ぼくはリクを見つめる。
リクもなんとなく事情が飲み込めてきたようだ。
「そこで、ベル役を篠原くん、王子を神崎くん、やってもらえないかな?」
あまりのことにおどろいて声がでない。
「女子男子で組ませると、部員からあれこれいわれるので、説得も大変なんだ。
華厳学院と合同開催の学園祭でコンテスト1位ペアならだれも文句言わないと思って」
そっか…。共学校故の悩みか。
「彼女、実は私に頼みに来たの。けれど相方にベストな人材がみつからなくて…」
片桐さんがその後を引き取るように話す。
「中山さんは?」
「私はナレ―ションと、配役を減らしたポット夫人とかの声を裏から出しているの。だから表に出られないの」
「そうか、一年だけじゃそうなるよね…」
とぼくがいうと、
「うん。一年でも出たい子にはださせてあげたいし、
楽しいお芝居をしたくて
この演目を選んだから…どうしても諦めたくなくて」
「そうか…もし俺らがOKすれば、他の配役は手配できるのか?」
リクが尋ねると
「うん。王子のライバルにはうってつけの人に頼み込んできたから大丈夫。あと肝心の主役2人だけなんだ」
片桐さんは思い当たることがあるらしく、
「紗代、それってもしかして…神田川くん?」
「うん。いざとなったら歌えるし、ガストン役にはうってつけかなと」
神田川勝(かんだがわまさる)くんは合唱部で活躍している。
彼も片桐さんと中山さんと中学が同じだったらしい。
将来、歌手兼声優志望の
彼なら二つ返事で引き受けてくれたという。
合唱コンクールはうちの学園祭にないため、支障がないからだ。
「それは配役としてはこの上ない適任だわ」
「でしょ?」
片桐さんが納得するとは…どんな人なんだろう。
「お二人とも、どうか同学年のよしみで中山さんを助けてくれないか?」
「わっ!びっくりした」
ぼくの言葉と同時に、
「「真田くん!」」
中山さんと片桐さんがハモっていた。
「どっから出てきたんだ…」
リクも半分呆れながら驚いている。
「盟友の吉川からのタレコミです。それに、あなた方が固まってたら、嫌でも目立ちますよ」
真田くんは今回は学級委員長として、
ぜひ演劇部に協力してあげてほしいと頼んできた。
「できるだけ二人がやりやすいように大筋に変化がないところは台本も変えるから、お願いします」
中山さんが頭を下げた。
それをみて真田くんも頭を下げている。
「私からもお願いするわ。このままでは紗代の舞台が二度とみられなくなってしまうの、辛いから」
片桐さんも頭を下げる。
こうなっては、断るのは非道ってやつかもしれない。
ぼくとリクは顔を見合わせ、軽く頷いた。
「ぼくに…できるかどうかわかんないけど、やってみるよ」
「こんなに頭を下げられて、受けないってことはさすがの俺にもできん。中山さん、わかったよ」
中山さんの顔がみるみる明るくなる。
「ありがとう…ありがとうございます!精一杯サポートするので、お願いします」
「引き受けてくれるとはあっぱれ!ナレ―ションでピンチのときは私もお手伝いします」
「紗代、よかったわね」
「うん!」
片桐さんと中山さんはハイタッチをして喜んでいた。
そして、中山さんから『3分でわかる美女と野獣』と台本を渡された。
いいにくいセリフとかはその都度改変していくので、安心してほしいとのことだった。
こうしてぼくらは、学園祭もいろいろ巻き込まれていくことになった。
つづく