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Autumn of sun!②
その日の昼休み。
ぼくらは中山さんに渡された資料と台本を持って、屋上にいた。
セリフ合わせもここでないとできないからね。
お話はとても簡単にいうと、傲慢な王子が冷たくあたった魔女に呪いをかけられ、
花びらが散るまでに、真実の愛を知らないと、
野獣の姿のまま死んでしまうことになってしまった。
そこにたまたま森へ迷い込んだ父を助けにベルがあらわれて、
父の代わりに屋敷に残ります。
そして色々な人?の助けを借りながら
二人はやがて仲良くなっていき、真実の愛を知り、
野獣も王子に戻る…というものだった。
「いいお話だね…中山さんが推したのわかる気がする」
「ああ。ベルは素敵な生き方をしているよな。親子で変わり者といわれても、
ガストンにしつこく求婚されても
無視しつづけて
自分の意志で全部決めていくんだな」
「うん。やろうと思っても、なかなかできることじゃないね」
資料の最後のページに、中山さんの連絡先が付箋で貼られていた。
「いちおう二人の体型的にあうドレスとタキシードだとおもうけど、
衣装合わせのとき連絡するので、よろしくお願いします。」
とメッセージが添えられていた。
「中山さん、すごいな。こういういうことから、小道具や簡単なセットもつくるんだろ?」
「そうだと思う。彼女と部員の思いがつまった劇、なんとしても成功したいね」
「ああ」
ぼくらは、また文化祭出場のためお互いに部活になかなか出られないことを伝えにいった。
「お前、なんだかんだでじつはお人好しだな?わかった。伝えとく。学園祭、俺も見に行くわ」
リクは、苦笑しながら小橋くんにいわれていた。
そう。本当はリクは優しいんだ。あまり表に出さないだけで。
「ぼくは…美術室いかないとね。同じクラスに美術部の子がいないし」
「なら放課後帰る前に言いにいくか?俺もついていくよ」
「ありがとう。そのあとまた中山さんに連絡いれとこうか。心配するし」
「そうだな」
放課後、ぼくらは美術部へむかう廊下を歩く。
美術室は、昔からの校舎をつかっているので、すこし遠い。
木造で、ぎしっ、ぎしっと歩くたびに床が音を立てる。
このすこしノスタルジックな建物がぼくは好きだ。
セピア色の写真が似合うような、古き、良き、懐かしき時代の雰囲気が
ほんのりと感じられる。
ノックをして入ると
数人の油絵を描いている部員が仕上げをしていた。
軽く会釈をして、ぼくらは入る。
部長は来てないみたいだし…誰に言おうか。
とりあえず一番奥の窓側の席にリクとぼくは座って、副部長を探していた。
「あれ、どうしたの?篠原くん」
ドアから入ってきた人物に声をかけられた。
病気で長期入院をしていたため、一年留年になり、
ぼくらと同じ学年になった。
園上柊真(そのがみとうま)くんだ。
すこし長めの髪。
手術の傷跡を隠すためだとも噂されている。
許可をもらっているのか、風紀委員も先生も咎めない。
学校指定のクル―ネックのシャツの上に、
ぼくらがブレザーの下にきているシャツをボタンを留めずカ―ディガンのように羽織っている。
そろそろ寒いんじゃないかと思うのは
ぼくだけだろうか?
「あ、園上さん。今日は部長も副部長も来られてないですかね?見当たらなくて」
「ん―、二人いないとしたら、たぶんみんなの作品展示のスペースの下見とかじゃないかな?どちらかは普段部室にいるしね」
「そうですか…」
「あ、俺のことはトウマでいいよ。篠原くんのこと、ソラくんってよんでいいかな?敬語でなくてもかまわないし」
「は、はい、トウマさん」
いきなり言われて、戸惑いが全面にでてしまったぼくを
トウマさんはクスクス笑う。
「2人に用事ってことは、なにか大事なこと?」
「はい…実は学園祭、演劇部のヘルプを頼まれました。それで、
なかなかこちらへ来られないんです」
トウマさんは「へえ…」
と目を見開いて驚きの声をあげた。
「大道具の運搬とかのお手伝い?」
「いえ、部員が足りなくて、出演することになってしまって…」
「え!劇に出るってこと!?」
トウマさんもさすがに驚きを隠せないようだった。
「はい…それで急遽練習をしなくちゃいけなくて、こちらのお手伝いができないことを言いにきたんです」
トウマさんは驚きながらもうなづいてくれた。
「そっか…そりゃ断れないよな。ん?そういや今年の演目ってなんだったっけ?」
「『美女と野獣』です」
「お―いいね、素敵なお話だ。メインの二人は誰?」
「ぼくとリクです」
トウマさんは、はじめてそこで奥にいるリクの存在に気づいたかのように、リクに目を向けた。
「え!?脇役とかじゃなくて?」
さすがにトウマさんも驚いている。
「もともと部員が足りなくて、さらに続けて演劇コンクールもあるので、学園祭は一年が総出演になったそうです」
「へえ…ソラくん、ベル役?」
「はい」
トウマさんが一歩ぼくに近づいてきた。
「きれいだろうなぁ。楽しみにしているよ。部長にも伝えておくよ」
「ありがとうございます。がんばります」
頭を下げようとした瞬間、
不意に頬に手を添えられた。
「お礼に俺との約束も叶えてくれる?」
「えっと、あの…」
その時、リクがスマホを取り出し
「ソラ、中山さんが部室に来てほしいみたいだ」
「え、あ、そう?じゃ、すいませんトウマさん失礼します」
リクは、軽く会釈をしたあと振り返らずにぼくの手を引っ張って、部室を出ていく。
「痛い…リク」
リクは力をすこしゆるめてくれたものの、足を止める様子はない。
階段を上がると、美術室の上は物置場で、屋上は封鎖されている。
そこまできて、ようやくリクは、手を離してくれた。
けれど再び壁に縫い止められたような状態のぼくは
動くことができない。
「ソラ、あいつとの約束ってなんだ?」
いつになく険しい表情で、ぼくを見つめてくる。
「トウマさん、水彩画を描くんだ。そこで一度絵のモデルになってほしいって、この間言われたんだ」
ぼくの言葉を聞いて、リクがぼくのあごを持って、顔を上げさせた。
「…つっ」
いつも優しいキスより激しい。唇を噛まれたのかな?
錆びのような臭いが口内に広がる。
苦しくて、リクの胸をどんどんたたくと、
やっと離してくれた。
「ソラは行くつもりなの?」
リクはさっきとは逆に、
今度は不安そうな表情をを浮かべている。
「行きたくない…本音は。だって部屋で知らない人と2人って、リク以外なったことないんだよ」
ぼくのわずかな震えを感じ取ったのか、
リクはしっかりとぼくを抱きしめてくれた。
「行くな」
リクの唇が耳の近くにあって、くすぐったい。
「ただの焼きもちだけで言ってるんじゃない。
あいつは…お前に興味を持っている。それも良からぬ方のな」
固まるぼくの頭を片手で抱え、包み込むようにまわった手にも力がこもっていた。
「リク…行かないよ」
ぼくより、リクが苦しむのを見たくない。
それに、考えなしでこんなことをいうやつじゃないことは、ぼくが一番わかっている。
「断りにくいなら、俺が一緒にいってやるから」
「うん…うん。行かないよ、リク」
ぼくの足の震えがとまるまで、しばらくそのままでリクが支えてくれた。
「あ…中山さんが呼んでるんじゃ?」
ふと、美術室を出てきた目的を思い出した。
「ウソだよ。彼氏の前で堂々とソラを誘いやがる
あいつが気に入らなかった。
しかも、知っててわざと俺の存在無視してたからな」
それって、トウマさんはリクをライバル視してるってことでいいのかな?
「ありがとう…もう落ち着いた。今日も帰ったら台本読み合わせしようか?」
「ああ。学園祭終わるまでは誰にも手出しさせねぇ、もちろんそのあともだけどな」
一瞬手をぎゅっと握り、
そのあとぼくらは帰宅することにした。
少しずつ陽が落ちるのが早くなっている。
茜色に染まる空。
秋を満喫できるのも、この学園祭が終わりかなぁ…なんてことを思った。
「どうした?」
「ううん。なんでもない、かえろっか」
帰路を急ぐ2人の影は寄り添い、長く伸びていた。
つづく