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Autumn happening!⑤
今日は体育祭日和だねぇ。
青空は雲一つなく、澄みきっている。
「んー、ほんとだ。見てて気持ちいいなぁ…」
リクも伸びをして、いつもの辺りに座った。
ぼくもそのとなりに座って、
早速包みを一つ渡す。
「足りる?」
ぼくの声にリクが反応する。
「ソラが作ったの?」
「もちろん。ちょっと失敗したけど、味はなんとかいけると思う」
「やった!いただきます!」
リクは包みをほどいて、さっそくお弁当をあけた。
「うわー!俺の好きなものばっかじゃん!」
リクは、卵焼きが好きで
あとはウィンナーが好物だ。
「このニンジンかわいいなぁ。リクが細工したの?」
「うちに型抜きがあって、それで作ったんだ」
さ、たべてたべて、とすすめると
リクは、写メをとっていた。
ぼくが黙っていると、リクは、こっちを向いて、
「だって、嬉しいから」
「こんなに喜んでくれるなんて思わなかった…」
「好きな人の弁当が嬉しくないやつなんていないよ。ありがとな」
リクは、頬の絆創膏に唇をよせた。
「わっ…」
ぼくが驚いている間に、
「いただきまーす!」
と美味しそうにお弁当を食べはじめた。
なんだか子供の時にもどったみたいで、ぼくは嬉しかった。
「ウインナー、タコもカニもある!豪華!!」
幼稚園の時も、リクは、ウィンナー好きだったな。
あの頃と変わっていない。
「あ、これも幼稚園のとき、よくかかってたなぁ」
「桜でんぶ?少し余ってたから入れてみた。甘すぎない?」
「平気平気。うまいよ」
喜んでくれてよかった。
つられてぼくも笑顔になる。
「ごはん足りる?購買でパン買ってきたんだけど食べる?」
「お、焼きそばパンゲットできたんだ。じゃ半分こするか?」
「うん!」
パンを二人で分けあい、お昼は緩やかに過ぎていった。
「ごちそうさま!ソラありがとうな」
パンもお弁当も完食したリクがにこにこしている。
「午後の競技もがんばろうね!」
「ああ、パワーチャージできた!」
予鈴がなり、いよいよ午後の競技がはじまる。
「ぼくは玉入れなんだよね…」
「俺はラストの借り物競争だな」
リクがうーんと伸びをする。
「ぼくの競技がおわったあと応援してるからね!」
「ありがと」
ぼくの頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「さあ!みなさま!お昼で英気は養えましたでしょうか!
午後は男女混合の玉入れ競技です!
今のところ、赤組、白組ともよい勝負をしております。
それでは玉入れ競技に出場選手は、入場門の前に整列してください!」
「篠原くんも玉入れにでるんだ」
ちょうど小早川さんとであった。
「うん。リレーは苦手だし、体育祭は早く終わって欲しい派なんだ。小早川さんは別の意味で早く競技を終えたいんだよね」
小早川さんは、ぼくの問いにそのとおり、とばかりに満面の笑みで頷いた。
「吉川くんと分担してすこしでもいい写真と取材ができたら、それが私の体育祭の醍醐味だから」
「二人の血と汗と涙の結晶の校内新聞、楽しみにしてるよ」
「ありがとう!」
選手入場の声がかかり、ぼくらは所定の位置についた。
とにかく邪魔にならないように投げよう…入ることはまれだから。
玉入れは一回勝負。
多くいれた方が勝ちだ。
「それでは始めます。よーい!」
小気味よいホイッスルの音が響き、一斉に生徒が床の玉を拾っては投げていく。
とにかくまぐれで1個でも入れなきゃ…。
しかし投げるのも玉が入るのも早い。
あっという間の三分間だった。
このあとは各組キャプテンが籠に入った玉を数えていく。
「ひとーつ、ふたーつ…」
宙に投げられていく赤と白の玉。
「68…69…あっとここで赤の玉がなくなりました。よって勝利は白組です!」
真田くんのアナウンスを聞くと、ぼくらはまた玉を籠のなかにいれて、担いで退場していった。
次が障害物競争で、八ードルなどをおかなきゃいけないからだ。
この競技は、なんでもこなせる小橋くんの独壇場だった。
あのウルトラ転校生は怪我を避けてか出場していない。
「お前らの仇は討ってくるぜ!」とばかりに意気込んでいた。
実際、競技がはじまったら、小橋くんはものすごかった。
スタートからとんでもない勢いで網をくぐり、
かっこよく高跳びをきめ、
タイヤを転がし、
ズタ袋をはいてジャンプで難なくすすみ、
最後はひとつもハードルを倒すことなくゴールイン!
双方から大きな拍手がおこった。
女子の声援もすごい。
有言実行の小橋くんに、クラスのみんなが大絶賛している。
小橋くんも爽やかな笑みをうかべ、拍手をくれた敵方にも
しっかりと頭を下げ、
味方側には両手をあげた。
すごい、しか言葉がでなかった。
このあとがリクの出る障害物競争で体育祭ラストだ。
「素晴らしい活躍を見せてくれた小橋くん、そして健闘された選手のみなさま!本当に、お疲れ様でした。
さて、つぎはいよいよ最後の競技となりました。障害物競争です!」
ぼくはポンポンをギュッと握りしめる。
借り物競争は本当に運勝負だ。
リクの引いたものが無事見つかりますように…。
ぼくは必死に祈っていた。
しかも紙には『はずれ』も入っているので油断できない。
本当に一発神頼み的な競技だと思う。
でも、きっとリクは、持ってる男だから…大丈夫!
やがてリクが入場してきた。
この中ではおそらく一番足は早いかもしれない。
「それではみなさんの幸運を祈ります!グッドラック!それではスタート!」
乾いた音がなり、リクが走ってくる。
そして、ためらわず真ん中の紙を取った。
ぼくはどきどきして見守る。
はたしてお目当てのものはあるのか?
すると、なんだかリクがこっちに向かってくるような気がする。
気のせい?
「ソラ!」
いや呼ばれてるよね。ぼく。
「ソラ来い!」
えええええ!?
リクは、手を伸ばし、ぼくを座席から引き離した。
そして、ぼくを担ぎ上げると
一気にゴールを目指した。
でも、ここで借り物が適切と認められなければまたやり直しになる。
ちなみに片桐さんが審判員だ。
リクが紙を渡すと、
片桐さんは
「合ってます。1位おめでとう!」
「おおっ!すごい。神崎選手、見事一番でゴールです」
わーっと歓声があがる。
リクに抱えられたままゴールした
ぼく。
なにがなんだかさっぱりわからない。
「ねぇ、紙に書いてあったの、なんだったの?」
「これよ」
「『一番大切なもの(人でもOK)』」
片桐さんが紙を見せてくれた。
見た途端ぼくは顔が赤くなってしまい、リクの顔をみられなくなってしまった。
リクが「聞いといて照れてるの?」と苦笑している。
「いや、だって…まさか…」
顔も耳も熱い。
最後の選手がゴールしたところで、
もう一度パンパンと合図があり、
「以上で借り物競争および、体育祭の全種目は終了いたしました。
これから終了式を行いますので、全生徒、校庭に整列願います」
真田くんもマイクを離れ、ぼくらのもとに帰ってくる。
そして、お決まりの校長先生の挨拶だ。
そして、優勝は僅差で赤組となり、
賞状とトロフィーが渡された。
こうして、長いようで短かったぼくらの体育祭が終わった。
片付けが一通り終わると、
「今日はゆっくり休めよー」
と、担任のHRも短めで、ぼくらは
帰宅することになった。
「リクすごいね、よくわかりやすそうなものを引き当てたね」
帰宅時もそれが不思議でならなかった。
「毎年あの項目入ってるらしくて、必ず引く人がいるってことは目立つ場所にあるのかなっていう、全くの勘なんだよね」
「そうだったんだ…」
「俺とソラの運命なんだよ。お互いに大切な存在ってこと」
「運命…でもぼく男だよ?」
不意に通っていた公園の木に引っ張られ、押し付けられる。
「男でも女でも、犬でも、猫でも、とかげでも、おれはソラが好きだ」
後頭部を捕まれ、いつもより強く
唇を押し付けられる。
「く、くるし…」
「ソラはもっと、自分に自信持て、俺が一目惚れしたやつなんだから」
リクは、真剣な目でぼくを見つめていた。
「うん、わかった」
耳の赤さを気にしながらも、答えると、リクは、いつもの穏やかな眼差しで、さっきつかんで乱れたぼくの頭をなでた。
「家帰ってから、もうちょっと続きしていい?」
「へぇっ!?」
リクの提案にぼくが変な声を出すと、
「傷の手当てがあるからさあ…そのお礼…」
「むー、たしかに手当てのお陰で痛くないし、わかったよ」
二人の足跡をまた落ち葉が隠してゆく。
二人の秋はまだまだ続きそうだ。
おしまい。