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Memories of love⑧

近くにベッドのところにおかれていた箱をだしてくると

『おどうぐばこ』とかかれている。その名のとおり、ぼくらが幼稚園でつかっていた、茶色い古びた箱だ。

無造作でゴムでとめてある。

リクは真剣に箱を見つめていたが、やがて意を決したようにいった。

「開けてみようかな」

「開けてみたら、もしやらしい写真でも、べつにひかないし」

「違うと思う!!でも万が一そうならスル―してくれ」

「はいはい」

黒いゴムをはずし、ゆっくりと箱のふたを開ける。

ぼくらは固唾を飲んで、箱の中身を覗き込んだ。


「これ…」

中身は、当時流行っていたので、一緒に作った緑色のねりけし。

秋の遠足で拾ったどんぐり。

授業で作った押し花のしおり。
これはぼくと交換したんだっけ。

サッカーの試合のためにお守りとして渡した、ぼくの作ったミサンガ。
夏用にわたしたラバーのブレスレット。

お揃いの十字架のネックレス。

お祭りでお互いにプレゼントしあった、おもちゃの指輪。

ぼくがピンクで、リクがブル―。
うちにもちゃんと保管されている。

修学旅行で買ったおそろいのキ―ホルダー。

そして、短冊がはいっていた。

そこには
『10ねんごも、そのさきも、ずっとずっとソラといっしょにいられますように』  かんざき りく
と書かれていた。

あとは一緒に遊びに行ったときの写真が数枚。

ぼくらの歩んできた歴史だ。

ずっととっておいてくれたんだ。

「うっ…」

涙が止まらない。

こんなに大切にしてくれていたんだ。

一方の
リクはこめかみを押さえ、しばらく動かない。

「リク、具合悪いの?横になる?」

リクは無言で首をふり、何かをかんがえているようだった。

「ソラ…思い出したよ。幼稚園でソラと出会ったとき、俺はすでに
ソラが好きだった」

「うそ…」

「ほんとうだよ。現に事故のあと、ソラにあったとき、存在自体すっかり忘れていたのに一目惚れしたよ。
でも、忘れている負い目もあって、距離感がつかめなくて…」

泣いているぼくの顔の両頬に手を当て、涙をぬぐってくれたあと、
リクは跪いた。

そして、ぼくの手をとり、
「ソラ、もういちど俺とつきあってください。お願いします」

「うん…うん…よろしくね」
ぼくは涙で視界がにじんで、それだけいうのが精一杯だった。

「こちらこそ、よろしくお願いします」
リクは手の甲にキスをしたあと、
ぼくの顔をしっかりとみて、
微笑んだ。

それ以上のスキンシップをしてこようとするリクに、
「傷がなおってからでないとだめ」

「もうなんともない」

の押し問答になったので、
ぼくはリクの唇に軽くふれる
キスをした。

「今日はこれで我慢して」

慣れないことをしたせいか、顔だけでなく、耳まで熱い。

「え―じゃ、もう一回だけ!」

リクは今度自分からぼくに唇を近づけてきた。

長いようで短い一瞬。

「さ―宿題やろか!」

リクはぼくをギュッと抱き締めて、頭を撫でてくれた。

リクのにおいがする。
とてもおちつく…。

結局ぼくらは悪戦苦闘しながら宿題にとりくみ、
そのあと息抜きに散歩したり、
楽しい1日をすごした。

数日後にきた登校日は、
まっさきに高木さんと屋上で待ち合わせて、
「高木さんのアドバイスがいちばん的確だった。ありがとう」

と素直にお礼を言った。

そして、目指す方向が外国とかなら、リクのいとこのたっくんが相談に乗ってくれると思うから、
話を通しておくよと伝えた。
高木さんは、明確にはきめてないかど、その可能性がでてきたときは甘えるかも…と頭を下げてくれた。

そのアドバイザーになるはずのたっくんは…なんか画策していたみたいだけど、
リクが記憶を取り戻したので、
なんだか元気がない。


けれど、これでやっとみんな傷つかずに笑顔になれた。

これもいつか、笑って話せる記憶になる。
ぼくはそう信じているんだ。

青空は今日も平等で、みんなにやさしい。

明日も晴れますように。

おしまい。

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