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Trust in love⑤

どれくらい時間が経ったのだろうか?
天界って不思議な場所だなとつくづく思う。

あれから、先ほどの衝撃を受けるような魂には会わず、
老衰で穏やかに天寿を全うされた方もいた。

リクのほうも淡々と進んでいるようで、受付へ投げかけられる熱い視線はとことんスルーしている。

あの割りきり方はすごい。

「あら、きれいなお姉ちゃんねぇ。
死ぬまではほんとうに苦しかったけど、
ここでは痛みもなくて、気分がいいわ」

現世で壮絶な病との戦いを終えた方は
とても穏やかな顔をしていた。

みんな、ここに来るまでいろいろあったんだろうな…。

そう思いつつ、名簿と名前を照らし合わせていく。

やっと落ち着いたな、と思ったとき、リベルテが
「少し休むか」

といって、ぼくの前にはジンジャーエール
リクの前にはサイダーが出てきた。

イメージするだけで出るんだもんなぁ…。すごいよね。

「ありがとう、いただきます」
「俺も、いただきます」

「おう。ゆっくり飲んでくれ」

ぼくはリクの隣にいき、リベルテは向かいで体育座りをしていた。

さすが天界。肉体がないので、疲れが感じられなかった。

「ねぇ、リベルテ、魂の色ってもともと何色なの?」

するとリベルテはホログラムから丸い珠をみせてきた。

「本来の魂の色は白だ。なぜかわかるか?」

ぼくは首を横に振った。

「照明でもすべての色が合わさると透明(白)になる。
天界では、現世に降り立つときに
すべてが白というスタート地点にもどる。
そして、現世でさまざまな経験や年齢を重ねるごとに色がつく」

「そうなんだ…」

「じゃ、俺らもかつては白い魂だったんだな」
リクがサイダーを飲んだあと、
リベルテのほうを見た。

「そういうこと。詳細は今はいえないけどな。
天界へ本当にくる時がきたら、俺らみたいな受付に説明を受けると思う」

「現世でいう企業秘密ってやつだね」

「そうそう」

リベルテはぼくの問いに、頷いた。

「なあ、リベルテ。お前が俺らと同じように生きてたときって、どんな人生だった?」

リクがサイダーを一口飲んだあと
じっとリベルテをみつめていた。

「そうだなぁ…一言でいうと濃かった。でもな、いい人生だった。楽しかった」

リベルテはふと、表情がゆるみ、
思い出しているのか、懐かしそうにぽつり、ぽつりと語った。

「俺、この身なりからわかるように、音楽の道をめざしてたんだ。
でも、その中で成功をつかむ奴なんて一握りなわけよ。

それでもそこそこは活動できてたんだけど、
応援してくれていた奴に裏切られて、
家も恋人も失って
俺はギター1つで町をさ迷うことになった。

そんなとき、手を差しのべてくれたのが、ホームレスの人たちでさ、
教会があるから、そこを頼ってみるといいって、誘ってくれたわけ。
で、俺はそこでギターをひきながら、
同じように教会に救いを求める人と話をしたり、
教会のシスターにはできない力仕事とかを手伝わせてもらった」

「へえ…」

ぼくはパンクロッカーとして、けっこう悪かったのかなと想像していた。

「ソラのいうとおりだ。そういう時期も確かにあった。自暴自棄になったし、世の中すべてが信じられなくて、絶望してた」

リベルテはこちらを見てニヤリと笑った。

そうだ、心の声も筒抜けなんだった…。

「少しくらいのお金を持てば、色んな人がやってきて、なくなれば蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
それでも音楽を続けたかった。
俺の願いを叶えてくれたのがホームレスの人、病める人、苦しむ人だった。
隣町の教会でも音楽を聞いてもらえたし、
音楽を続けられることが何よりも幸せだった。
たくさん回り道をしたけれど、

成り上がるだけが幸せなのか?
いま、側にいてくれる人こそ財産じゃないのか?
そう思えるようになった。
いい人生だったよ」

その言葉に
ぼくは思わず、涙ぐんでしまった。
「うぉい!何でいきなり泣いてるんだよ!」

「リベルテはたくさん苦労してきたんだなって…きっと時代も国も違うだろうけど、全部乗り越えてきたんだね」

リクがそっと近づき、ぼくの頭をポンポンする。
こぼれ落ちた涙を指でぬぐってくれる。
ぽんとハンカチが出てきて、
「これ使え」
とリベルテが言った。

「ありがとう」
ぼくは目頭をおさえるとリクはそっとぼくの肩を抱いた。

「ヴィダだって人間時代はなかなか過酷だったみたいだぜ。いまでこそ普通に天界の仕事をこなしてるけどな」

「そうなのか…もう2人は現世には降りないのか?」
リクの質問に、

「そうだな。よく、『生きてるうちは修行』とか聞いたことあると思うけど、
あれって本当でさ、生きてると魂の経験値は上がるわけ。
で、最高値になると、魂を分けて
現世に生まれ変わるか、
転生せず
天界の人として生きるか、決められるんだ。
天界の人といっても、
これからも上にいくには
さまざまな人をみる勉強や、
天界のルールを学ぶ必要があって、
『死んでからも勉強』なんだよな」

ハハハっと軽くリベルテは笑った。

「死んでも、逃げられないんだね」

「そうだな。ただ、時代背景によるけどな。たとえば…北魏(中国古代)では王の妃が世継ぎを産むと、母である妃は処刑されるんだ」

「えっ!なんで!?」

「理不尽すぎるな」
リクは眉をひそめている、

「北魏は多民族との結婚が多いために、その妃の一族が権力を持たないようにするためらしい」

「こういう場合は、お妃さん悪くないよね?」

「ああ、だから無理やり命を絶つよう言われても、本人は生きたいわけだから、考慮される。戦争中とかもそうだな」

「そうだよね。せっかく子供を産んで、育てたいお妃さんが多いだろうに…子供も寂しいよね」

「歴史は未来を繋ぎ、それぞれ繁栄するために、戦いは避けて通れないものだからな…」

リベルテもいつかの過去を思い出すかのような、すこし切なげな表情をしていた。

「じゃ、リベルテと同じように、
ヴィダも苦労したんだろうなぁ…」

「わたしがなんですって?」

ふりむけば、奴、でなく。
ヴィダだった。


つづく








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