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Autumn of sun!⑥

それからの一週間は怒涛の勢いで過ぎていった。

愛のムチはなかなかだったが、それでも中山さんはフォローも忘れていない。

「中山さんは、どうやって役を演じているの?」
ぼくはおもいきって尋ねてみた。

この間の片桐さんの言葉で、彼女のすごいことはよくわかったからだ。

「私、もともと本が好きで、すぐその世界に入り込んじゃうんだ。

お芝居も、にているところがあるから、原作があるものは原作をよく読む。

そして、自分との共通点を書き出す。
自分ならどうするか?どこがにていて、どこがちがうか?とかね。

リアルの友人になったつもりで考えてみる。
そして、役にあてて手紙を書いているうちに、自然と役が自分の中に浸透していく気がするの
そして違和感なくとその役の仕草や、アドリブが浮かんでくるの」

「すごい…」
影でそんな努力をしていたなんて。
「ほんとうにすごい、としかいえないな」
ぼくの横でリクも驚いた表情を浮かべていた。

「好きなものには全力でぶつかりたいんだ」

中山さんがぼくらに見せた笑顔は眩しくて。

秋でもまだまだ太陽は暖かいよと教えてくれるような、満面の笑みだった。

ぼくらは恵まれている。
周りはそれぞれの夢に向かって頑張っている、尊敬できる人ばかりだ。

ぼくらも頑張ろう。
舞台で何度も練習を繰り返し、
数日後にせまった学園祭に悔いなくできるように。

すっかり暗くなった頃、
「こんな遅くまで練習?精がでるねぇ」

背後からの声は、トウマさんだ。

「そっちこそ早く帰らないと冷えて風邪ひくぞ」

リクが半歩前にでて、ぼくをまもってくれる。

「デッサンがなかなかうまくいかなくてね…モデルがイメージちがうというか…」

ああ、あのモデルの件かと、ぼくとリクは目を合わせた。

「ソラに固執せず、女性に頼んだらどうだ?小柄とはいえ、ソラは男だぞ?」

リクの率直な意見に、トウマはため息をつく。

「女性だと、後になって何かされたとか、
いろいろめんどくさくなるじゃないか。そういう奴もいる。
イメージも女性って固定しているわけじゃないし」


なかなかしぶといな…。
「今はちょっと、学園祭に集中したいから、ごめんね」

「そのあとならいい?」
ソラになおもくいさがるトウマ。

「しつこい男は嫌われるぞ」
リクがトドメの一撃をさして、ぼくの手を引っ張った。

トウマさんがどんな表情をしていたか…わからない。

リクが女性に厳しいのは、家庭環境もあるが、男性に厳しいことはあまりない。

リクの家につき、手洗いうがいを済ませて、座ろうかというときに、背後からリクに抱き締められた。

「えっ…リ、リク?」

「ソラは狙われやすいんだよ。あいつの思惑、わかってるか?」

「あいつって、トウマくん?」

「モデルを口実に、あわよくば…って狙っているんだ、見てわからない?あの上から下まで舐めまわすような視線」

リクの言葉に、ぼくは戸惑う。
「よく顔をみてるなぁとは思うけど…」

話しているうちに
じりじりとベッド側に追いやられる。

「たとえばこういう個室で…」

ぼくはベッドに倒され、リクの片手で両手首を押さえつけられる。

同じくベッドに乗ったリクがぼくを見つめる。

いつもよりリクが怖く感じて、ぼくはぎゅっと目をつむった。

落とされたのは触れるか触れないかの唇。

ほっとしたのもつかの間、
リクはなんども繰り返してきた。
しかも時間が長い!

「リク、く、苦しい…」

するとリクは唇をはなし、今度はぼくのシャツのボタンに手をかけた。

「リク!急にどうしたの?やめてよ」

すると首筋にキスをして、
手を離してから、
リクはゆっくりとぼくを起こしてくれた。

「こんなことされたらどうするんだ?あいつはお前をそういう目で見ている」

「え?彼氏の欲目じゃないの?」

ぼくは男だし、通っている学校は共学。ミスコンをするくらいなんだから、かわいい女の子もいる。

「鈍感すぎる…」

リクはため息をつき、自分の胸元にぼくを引き寄せた。

「いいか、なんの関係もないやつが、いきなりしつこく誘ってくるわけないだろう?なにか思惑があって、ソラに近づいてきてるんだ。アイツはあぶない。警戒しろ」

ぼくの後頭部をそっと撫でている
リクはとても不安そうな表情だった。

ぼくが不安にさせてしまった…。
「心配かけてごめん」

頬に軽く唇を寄せると、
「まだ消えない」
リクはぼくの上顎に指をそえて、唇を重ねた。

いろいろな人の思いをのせて、
学園祭へと進んでいく。

「あ、ねぇリク、満月だ。きれいだね」

「ああ。柔らかくて、穏やかな光だな…」

ぼくらはしばらく月を見上げて、
「「学園祭が無事に済みますように」」

と願いをかけた。

雲のかからない月は、どこまでも
澄んだ光を放っていた。


つづく



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