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※注意※お初の方も、常連様も、見てくださるすべての方々、
いつも本当にありがとうございます。

こちらは、前々作、『Autumn scramble!』で気を失っていたときのリクとソラのお話です。

スピンオフ作品に近いので、よろしければ前々作の⑤~⑥あたりを読んできただけると理解しやすくなるかと思います。

それではどうぞ!


ー天界ー

「このごろなんか忙しいなぁ」

そうつぶやいたのは、緑の髪色でアシンメトリーなボブスタイル
の天界案内人。
現世の様子を写し出す鏡をのぞいている。

「いまはなぁ…まず世界規模で流行り病が起きているのが要因だろうな」

答えた同僚はそこから生活苦とかいろいろ…きびしいよなと言葉を紡いだ。

あ、申し遅れました、私、見習い天界案内人、ヴィダと申します。

人間の方は充分理解されていると思いますが、各自寿命があります。

しかし何らかの原因で天寿を全うできなかった人、

なんらかのイレギュラーで天界に来てしまった方々を本来の場所へお戻しする。

そういった業務を行っております。

また、天寿を全うされたかたは、行くべき階層を決める
受付にご案内いたします。

「あれ?あそこに魂抜けかかっているのがいるぞ?」

「ああ、じゃ私がいきますよ」

リストを手に、私は光のほうへと歩き出した。

ー天界のソラとリクー

「ん…」
なんだろう、ここは。
眩しい光が目を閉じていても
まぶたに残像としてやきつきそうだ。

「もしもーし」

誰かが呼んでいる。
答えたいけど口が思うように開かない。

「もう一人の方も起きてください」

「う、うう…」

どうやら僕の他にも同じような状態の人がいそうだ。

「2人ともやや身体と魂の繋がりが不安定かな…ちょっと失礼」

ファサっという衣擦れの音がして、
声の主が座った気配がする。

目覚められないぼくに何かをしてくれているのか、
徐々に身体が軽くなる。

そしてほんのり暖かい光に包まれているようだった。

ぼくはゆっくり、まぶたを開けた。

視界に入ってきたのは、雲ひとつない空と、静謐とよべるような空間。
そして、芝生が綺麗に生え揃い、綺麗な花が咲いている。

「…ん…どこ?ここは?」

「目覚められましたか。もうお一方も目覚められると思います」

声の主を見ると、ぼくに背をむけていた。
緑色の髪に、白いワンピースのような服装。

もしや、天使さん?

「うー、あ…いててて、あれ?痛くねぇ」

リクが目覚めた。

寝起きの悪いリクには珍しい。

「いま魂だけの状態ですからね、痛さや苦しみがないのは当然なんですよ」

緑色の髪の男性が真ん中に向き直り、
「私、自己紹介させていただきますと、天界の案内人ヴィダと申します。ヴィダとお呼びください」

条件反射でお辞儀をしてから
「こちらこそ、ぼくは篠原空です」

「俺は神崎陸といいます。あの、すいませんけど、早速質問いいですか?」

「はい、なんでしょう」

緑色の髪にかくれていた、綺麗な瞳が見えた。

グレーのような、ブルーのような…角度によって色味が変わって見えるような、不思議な色だ。
どう見ても人間ではない。

「何で俺たちここにいるんですか?」

ヴィダを見たあと、リクは僕の方をみる。

なんだろう。ぼく、この人?でいいのかな、知っている気がする。

「率直にいうと、今、下の世界であなた方の命の灯火が弱くなりつつあります」

「えっ!」
驚きでぼくとリクは固まってしまった。

「念のため確認しましょうか…。篠原空さんと神崎陸さんですよね」

「「はい」」

ヴィダは自分の足元に置いていた分厚い本らしきものを取り出して、目を通していた。

「あっ!」

この光景、ぼくは見たことがある。

「思い出した!綺麗なお姉さんだ!全然かわってませんね」

「ソラ、知り合いなのか?この人と」

リクが驚いたように声をあげた。

ヴィダも驚いたらしく、ソラを見つめる。

「リク、覚えてない?
ぼくが小学1年の時にジャングルジムから落ちたとき。
そのときもここへ来たと思う」

間違いない。あの時も静かで、ここみたいな場所だった。

「ああ!あのときの
可愛らしいお嬢ちゃん…
ではなくお坊ちゃんでしたか。
大きくなられましたね。

私は中性なので女性ではないのですけど、あの時はそう見えたんですね」

ヴィダが優しく微笑んだ。

二人の会話中、混乱して自分の頭をさわっていたリクが思い出したようだった。

「確かにあった。頭を強打していて、全身も打撲。
さらに出血がひどいから、一週間入院したんだよな」

それだけ覚えてくれているということは、
リクの中でも強烈な出来事だったらしい。

「あの時は…ソラを返してって毎日祈ってたな、俺からソラをうばわないでって」

そして「あのときに、神様はいるのかもしれないと、初めて信じることができた」

と昔を懐かしむ表情を浮かべていた。

「一生懸命祈ってくれてありがとう」
ぼくが頭を下げると、リクは優しく頭を撫でてくれた。

「あのー、それでしたら、お二人とも本来まだここに戻ってこられる時期でないんですが…」

ヴイダが名簿をパタンとしめた。

「やはりお二人様の名前は名簿に載っておりませんでした。

そして気になるのがあなたがたの魂の色です。

だいたい、どういう亡くなり方や仮死状態なのか、色で判別できるんですが、

お二人、ここに来るまでの間の出来事を覚えていらっしゃいます?」

「ここに来る前か…」

「ええとね、たしか文化祭があったときで、
その文化祭は兄弟校と
合同でやるんだ。
そこの人にお茶に誘われて…」

「飲んでからの記憶がない」

ぼくのあとに、リクが続けた。

最後まで神妙に話をきいてくれたヴイダは、納得したように軽く頷いた。

「わかりました。
おそらく飲み物に何らかの薬を
盛られたということですね」

「そうだと思う。
まったく眠気がなかったのに、
あんなにいきなり意識がなくなるわけない」

リクの言葉に、ヴイダは深く頷いた。

「お話くださってありがとうございます。
この質問をしたのは、
お二人の魂が薬物に触れた形跡があったので
確認させてもらいました。
これは他人の行動が原因ですね」

「そうなの?そんなことまでわかるの?ヴィダ」

ぼくはよくわからないけれど、
心の奥底ではそんなことが起こってたんだ。

「はい。ですから薬物過剰摂取や依存性のかたは、魂に輝きがなくなり、色も多少変色しています」

「それなら俺たち自らではない。
ソラが兄弟校のチヤホヤされてるやつに目をつけられてたんだよ」

リクが怒りの表情を浮かべる。

「なんとなく概要はわかりました。要するにお二人とも、
生きることを諦めたわけでもなく、自ら摂取したわけでなく、
まさにとんだとばっちりだったわけですね」

「はい。ぼくはリクがいればそれでいい。彼と出会ったときからそうおもっています」

「俺は幼稚園でソラに一目惚れしたんだ。
男だから、女だから、そんなことはおいといて、
ソラという人間が好きなんだ。
俺が守るときめたんだ。
そんなやすやすと死んでたまるか」

ぼくらの言葉に、ヴィダは納得したのかうなづいている。

「お二人は現世でいう『運命の相手』
ですから試練は多いはずです。
けれど、乗り越えられるから

あえてその人生を選んだ。
私にはそう見受けられます。

いま、ここであなた方をみていても、薬物で心中しようとは考えてないことは伝わってきます」

とヴィダもわかってくれたようだ。


つづく






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