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Autumn happening!②

5時限目は、先生がぎっくり腰になったため、急遽自習になった。

そのため、担任から許可をもらい、体育祭のメンバ―をきちんときめたいと提案して
その時間にあてることとなった。

男子、女子、それぞれの100、200メ―トルの短距離にでたい人、
リレーにでたい人
大玉転がしなど、チ―ムプレイの競技がしたい人。

応援団は設けないため、各自自分の競技が終わったら、クラス席で応援することになっている。

禁止事項は派手すぎる応援。
以前ブブゼラ(アフリカの楽器)を鳴らして近所から苦情がきたこと。
紙吹雪を飛ばしすぎ、あとの掃除が大変だったり、いろいろあったらしい。
きわめつけは、なぜか紙テ―プを投げて、本体ごと選手のほうに転がり、ひやひやする場面があったそう。

「…と、いうわけで普通の応援をお願いいたします」

玉入れは、体育祭に本腰いれなくない人に人気が高い。

ダメなら、真田くんもでる棒倒しにエントリーしようかな?

男女混合リレーは、昨今のジェンダー問題に配慮して、今回は見送りになったらしい。

もともと人気のない種目なんだよね。

個人で出たい人なら、迷わず短距離にいくだろうし、
リレーは結構本気モ―ドだ。

周りをみると、お昼過ぎで、みんな眠たそうな雰囲気が漂っている。

異論を唱えるものもなく、案外すんなり決まった。

リクは男子100メ―トル、リレー、借り物競争。

僕は玉入れと棒倒し。

リクの部活仲間、小橋くんは
男子200メ―トル、リレー、障害物競争。

リレーへの本気度がわかる人選だ。

真田くんは司会進行のため、棒倒しのみで、その間は高木さんがやるそうだ。

高木さんは先日のミスコンの司会の腕を買われて、真田くんに全幅の信頼を寄せられている。

高木さんの就職先、報道、マスコミ関係でいいんじゃないかな?と
最近勝手に考えたりしてしまう。

選手宣誓は、一つ短距離のエントリーを減らすことを条件に、片桐さんが引き受けた。なかなかの策士とみた。

片桐さんは、大玉転がしと女子100メ―トルだ。

綱引きは、このごろ突風や竜巻が多いため、生徒の安全を考えて見送ったらしい。

ここのところ雨も降らず、
グラウンドの土は乾ききっている。

コンタクトの人はつらいだろうな。

そんなことを考えていると、あっという間に放課後だ。

リクたちはリレーの順番などを決めるらしく、
ぼくはとくに打ち合わせがないので、美術室に向かうことにした。

作品はほぼ出来上がっているけど、みんなの進み具合も気になる。

廊下のつきあたりにある、ドアを開けると、油絵の具のにおいがする。
ほかにも石膏とか、土のにおい。
いろいろなものが静寂の中で、存在している。

一見雑多に見えて、ぼくはこの空間が好きだ。

ここに籍をおく部員が、
自分の作品への熱意に向けられていて、変な詮索をしてこない。

野次馬もいない。
屋上とおなじように、
ほっとできる場所だ。

美大を目指す生徒は、
毎年さまざまな物にチャレンジしている。
再生紙と古布をつかったドレスなど女性らしい作品も見事に作り上げる。

『好きなことを好きにしていい』

ここだと
それを無条件に許された気がするんだ。

学園祭が近いこともあり、
このごろは美術室も特に活気があった。

文化祭、体育祭、学園祭。
年に一度の発表の場。

体を動かすことが得意な人も
そうでない人も、平等に輝けるイベントがあるのは秋ならではだ。

そういえば、天文部は秋だけではなく一年の夜空をスライドショーで発表していた。
うまく神話のお話も入れていて、
一番頑張った部活として優秀賞をもらっていた。

今年は何をするのかくわしく聞いてないけれど、リクと覗いてみようかな…。

「あ、篠原くん。どう?発表作品の進捗具合は?」

すこし身体が弱いけれど、部活には顔を出す、園上柊真(そのがみ とうま)くんがやってきた。

彼は本当は二年生なんだけど、一年の時に長期入院で単位をおとしてしまったため、ぼくらと同学年なんだ。

どちらかというと、中性的な顔つきなんだけれど、身長も高く、
いわゆるゆるふわ癖毛の人だ。
首に手術跡があるため、隠したいと、届けをだして、ボブが許されている。

そして手足が長い。白いシャツ1枚着ているだけで絵になる人だ。

なんていうのかな、優美で、やっぱりぼくらより雰囲気も大人っぽいんだよね。

とても穏やかな人で、ぼくのような人見知りにもやさしい。

誰とでも分け隔てなく接する姿をぼくは尊敬している。

「今回は貼り絵、小さめにしました。そのかわり二枚出品します」

「どれ?この二つ?グラデーションが素敵だね。このサイズでも色、集めるの大変だったんじゃない?」

質問しつつ、ぼくの二作品を目を細めながら、じっくりと見ている。

「うん。ほんと大変で…この色、とこの色の中間がほしいのになかなか見つからなかったりとか、時間か買っちゃった」

「そうだろうねぇ。新緑と紅葉…どちらも途方もない色の種類があるもんね」

トウマくんは顔をくしゃっとして笑う。
すると急に可愛らしくなる。

「トウマくんの作品は?」

「これ。家にあった人形なんだけど、なんか気になってね」

「わあ…キレイ…」

トウマくんは水彩画を得意としている。

窓際で陽に照らされた白いドレスの貴婦人が傘を持って佇んでいる。
帽子を斜めにかぶり、ドレスにフリルは何段もふんだんに使われている。

「これ実は紙粘土の人形なんだ。腕がとれたから母が捨てようとしてたんで、ぼくが引き受けた」

「そうなんだ…だからこの薄い色彩が引き立つね」

陶器のような鋭さやフィギュアの生々しさがなく、
触ったら消えてしまいそうな儚げな貴婦人。

作品も作者に似るのだろうか?
この貴婦人がトウマくんとにている気がする。

「どうしたの?」

「いや、なんか、この貴婦人とトウマくんと似ているなって思ったんだよね。独特の、柔らかいタッチが好きだな。」

「ありがとう!とっても嬉しいよ」

トウマくんは頬を紅潮させてぼくの手を握った。

よほど嬉しかったみたいだ。

そうだよね。心血注いで作った作品なんだもん。

「あの…この勢いなら言えそうな気がする。ソラくん」

「ん?なになに?」

「今度作品をつくるとき、絵のモデルになってくれない?

「えっ?ぼく?」

「うん。男性も女性もきちんと描けるようになりたいんだ。でもなかなかOKしてくれるひとがいなくて…」

「そっか。じゃ、とりあえず一連の秋イベントが終わってから返事でもいい?」

「うん。ソラくんもやることがたくさんあるだろうし、また落ち着いたら、返事を聞くから」

「わかった。また話そう」

笑顔のままトウマくんは手を振って、抱えた絵を奥のカンバスに置いて、自分の席に戻っていった。

チャレンジ精神がすごいな…ぼくも見習わないと。

部活の時間が終わり、下駄箱で靴をはきかえる。

とりあえず体育祭はベストをつくすと心に誓った。

そしてあとはリクを全力で応援する!

「よし!」

気合いを入れていると、
「なにが、『よし』なんだ?」

後ろからふわっと腕に包まれる。
いつもの声。
ぼくの好きなにおい。

「リク…」

「部活もあるのに、うちあわせお疲れ様」

「ソラも作品作り、お疲れ様」

辺りはもう暗くなり始めていた。

「これからもっと、日が短くなるね」

校舎を出て、歩きだすぼくら。

「手を繋いでいてもばれないから、俺には嬉しい季節だけどね。
冬って。星空もキレイだし、
さむいからソラもくっついてくれるし」

「もう!ほかはともかく、最後のってぼく犬とか猫じゃないよ」

「ごめんごめん。でも俺にとって最後が恋人にされると最高なんだよソラはちがう?」

「んー、ぼくもそうだけど」

冷たい風が吹き抜けていく
「ん!」

リクが手を差し出す。

ぼくがリクをみると、また
「ん!」

といって手を差し出す。

幼稚園のときとおなじだ。

あのときは手をつないだけれど、

今日はブレザーのポケットに手をいれてくれた。

「そろそろマフラーいるかな?」

首をすくめるリクをみて、ふと思い出した。

「そうだなぁ。長めのやつで、一緒にする?」

「学校では嫌だよ」

「もちろんデートのときにきまってるだろ」

「する気なんだ…」

「悪い?」

リクがぼくの頭を引き寄せて、
一瞬唇が触れた。

「もう!」

「すこしあったかくなった?」

リクは悪びれる様子もなく、すました顔をしている。

ぼくは今、顔真っ赤なんだろうなと思いながら

「もう、しらない!」

と返した。


つづく











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