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Autumn of sun!⑦

さて、いよいよこの日がやってきた。

内股で歩くのも今日でおさらばだ。
最初は中山さんによく怒られたっけ。
「ベルは女の子!肩で風切って歩かない!」って。

今日舞台が成功すれば、それもいい思い出になるよね。

ぼくたちは落ち着かなくて、いつもよりだいぶ早く学校についてしまった。

かといって、舞台までまだまだあるし、どうしたもんかな…、

「リク、読みあわせしとこうか」
本番には台本はない。
間違えそうなところを確認する。
「ああ。そうだな」

しばらく読みあわせをしていると、
「おはよう!2人とも早いね」

神田川くんがやってきた。

「おはよう!なんか落ち着かなくてさ…神田川くんも充分早いよ?」 

リクが隣でうなづくと、
「いや、実は僕も2人とおなじで落ち着かなかった。そりゃそうだよな。舞台にあがるんだから」

神田川くんは、「隣いい?」と
すわって3人で読みあわせをはじめた。

しばらくすると中山さんが走ってきた。

「おはよう!途中でみんなの姿が見えたから。3人ともずいぶん早く来たのね。気合い十分ってとこ?」

「大丈夫。フォローするし、いままで努力したことは嘘をつかないから」

中山さんはポット夫人の息子は真田くんがやってくれること、インカムをつけるから、

万が一セリフを忘れても平然として、舞台にたってほしいとアドバイスしてくれた。

大丈夫。こんなに仲間がいる。さらに一年生部員もいる。
リラックスして、出せる力をだそう。

ぼくは心でひっそりと誓った。

舞台の幕が上がるまで、ぼくは正直記憶が曖昧だ。

町娘の服を着て、カツラをつけたら、中山さんがメイクをしてくれた。
「舞台化粧は濃い目なんだけど、できるだけナチュラルにするね」

「うん。ありがとう」

中山さんはもう一人の部員とともに、ガストンとリクの服装を整えた。

リクは野獣になったときは、顔がほとんど見えない、バサバサのカツラを被る。

そして、目の部分は仮面をつけ、顔の下半分は口の部分をわずかに開けて、ターバンみたいなものをつけている。

「リク、ほぼ顔見えないし、緊張しないからいいよなぁ…」

ぼくが言うと、
「俺はソラのかわいい姿をしっかりみたいんだけど」

と返された。

ガストン役の神田川くんは、発声練習をしている。

ある意味一番ノリノリだ。

2人の準備も整い、あとは幕が上がるのを待つだけだ。
舞台にのぼる足が小刻みに震える。

リクが階段のところでそっとぼくの手をとって、
「大丈夫」
とぎゅっと握ってくれた。

いよいよ幕が上がる。

舞台は、時間の都合上、傲慢な王子に追い返された魔女の呪いがかけられた状態からはじまる。

家来も食器や道具に変えられ、お城は荒れ放題。

バラの花びらが全て散る前に、真実の愛をしらないと、野獣のまま命は終わってしまう。

ますます自暴自棄になる野獣をとめられず、家来は嘆く日々。

「私たちはいったいどうしたら…」
掛け時計のコグスワースと
ろうそくのルミエールがため息をつく。
ここはアフレコで各部員が声を当てている。

ちなみにろうそくは、電気で火が灯るようにみえる、おもちゃのものだ。

発明家のベルの父は、部員が演じており、ベルは読書が好きな少女だ。

「じゃあ、ベル、いってくるからあとは頼むよ」

父は発明品を街へ持っていくために、村を出発した。

「よう、ベル。また本呼んでるのかよ。飽きねぇなあ。それより
遊ばないか?」

神田川くんのよく通る声が響く。

「ガストン。あいにくだけど
私は遠慮するわ」

ベルはちらりとガストンを、見たきり、再び本に視線を戻した。

「なんだよ、毎回付き合い悪いな」

「暇じゃないのよ、わたしも」

「へーえ、親父の発明品もたいして売れてないのに?」

その一言にベルは気色ばみ
「父さんは誇りをもって仕事をしているの、バカにしないで!」

ベルはガストンを押し、外に出すとドアを閉めてしまった。

「しつこい人…」

父の帰りをまちわびていたベル。

しかし、困った事態が起こってしまった。
父親が数日たっても帰ってこないのだ。

これはもしかして、迷ってしまったのかと思い、思いきって探しに行くことにした。

「父さん…どこにいるの?」
もともと村をでると、街までの道のりは森やきれいにされている道路ではない。

「森…かしら」

ベルはおそるおそる、奥へ、奥へと進んでいく。

「なあに?ここ?」

森の奥にこんな廃墟のような城があったとは。

ベルは勇気をだして、城に入ることにした。

一方、野獣は城の窓から何かが動くのを察知し、
階下へと降りていった。

ゆっくり、ゆっくり、こわごわ進むベル。

一方の野獣は、顔を隠すように歩いていく。

「お前は誰だ!ここに何しにきた」

鋭い声に思わずベルの身体が硬直する。

「父を…父を探しています。迷ってこちらにお邪魔してないでしょうか?」

「父…?あの爺か…。入れ」

荒れ果てた瓦礫(本当は発泡スチロール)に気を付けながら奥へ行くと
つかれた様子の父がいた。

「お父さん!」

「おお、ベル!どうしてここに?」
拘束こそされてなかったが、野獣の恐ろしさに、逃げ出せなかったのかもしれない。

「ねえ、私が父の代わりにここに残るわ。だから父を家に帰してあげて!」

野獣は一瞬たじろいたが、

「恐れながら…お父上の身体が悪くなる前に、お帰ししてあげたほうが…。娘さんが残るといわれておりますし…」

コグズワースの進言に、
野獣は父親を解放した。

こうして、ベルと野獣の不思議な生活がはじまった。


つづく










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