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Autumn of sun!⑤

「中山さんてすごい人だったんだね…知らなかった」

あのあと部活帰りの片桐さんに会い、中山さんの話になった。

彼女は体が弱く、家庭に問題があり、
家に帰りたくないからという理由で部活にはいったらしい。

そこでたまたま体験で見に行った演劇部の先生に絶賛され、

小学校高学年から部活をしていたそうだ。

中学でも、児童劇団の子を抜かしてオーディションで
3年間主役をはり続けた異色の存在だ。

「現実が死ぬほど辛いなら、お芝居で別の人になりきればいい」

彼女は読書好きで、その世界に入り込むことが好きだったらしい。

そして、それを現実にするならとお話を演じられるお芝居を選んだ。

おそらく中山さんも過去にかなりつらいことがあって、現実逃避の道を模索していたのかもしれない。

「実は彼女歌えるんだけど、お芝居も歌も引き込まれる。

中山さんでなく、『役』そのものが舞台にいるの。悲しいときは泣きながら歌い、すべての感情をぶつけてくるの」

片桐さんは正直お芝居は興味がなかったらしい。

けれど決して背丈も大きいとは言えない中山さんが、
舞台では大きく、存在感があり、

不思議と目が離せなくなり、
気がつけば彼女のお芝居を楽しみにするようになったそうだ。

「そうだったんだ…」
あの笑顔の裏にたくさんいろいろなことがあったのだろうなとぼくは思いをはせた。

「思春期って、普通ひねくれるだろうけど、彼女は別人になることで自信をつけていった。
私にもバレーしているときのキラキラが眩しい、何て言ってね」

「中山さん、変わってないんだな。今もおなじこと言ってるし」

リクが何度か片桐さんと中山さんの会話で聞いたことがあるらしい。

集団生活は、時に出る杭や目立つものを叩いたり、傷つけたりする。
もともとそういう考えがない中山さんの正義感が片桐さんと一致するらしい。

みんな、譲れないものがあるんだ。
自分だけの信念、宝物。

それを守りたいから辛くても、それを強さに変えていくんだろうな。

「じゃ、私こっちだから。また明日ね」

「うん。また明日」
「じゃあな」

「片桐さんがあんなに信頼をよせてるってすごいよね。中山さん」

「2人ともいわゆる女子の嫌な部分がないタイプだからな。無駄な詮索とかしないし、基本一人で行動しているし」

「うんうん」
「なんだかんだで、周りの人には恵まれているよな、俺たち」

リクが優しい目でぼくを見つめる。
切れ長で、きれいな瞳。
「なにより、ソラが傷つかないことがいちばんだよ」
「リク…」

ありがとう、と言おうとしたとき

リクが風で乱れたぼくの髪を指先で払う。

「ソラには笑っているのが一番似合うから」

「ぼくも、リクの笑顔がいちばんのビタミン剤だよ」

「そっか。そうだよな。大切な人の笑顔がいちばんだよな」
「うんっ」

ぼくらは笑いあいながら、
帰路についた。

学園祭までもうすぐだ。


つづく

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