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Autumn happening!④
「お邪魔します…」
リクにいたっては、誰もいないことがわかっているから、ただいまもいわない。
「リク!」
ぼくはリクを呼び止めて、
追い越してから向き合った。
「リク、おかえりなさい」
誰も言ってくれない冷たい人気のない部屋のつらさを知っているのはぼくもだから。
リクはふっと表情をゆるめ、
「ただいま…ソラ」
そのままそっと抱きしめてくれた。
ぼくにできることは、リクにさみしい思いをさせる機会を減らすこと。
ぼくはまだ未熟だから、すぐにきづいたり、全部受け止めきれるほどではないけど、いまできる精一杯を伝えたい。
「手洗いうがいしたら、ソラ、先にあがってって。オレ救急セットもっていくから」
「わかった!」
ぼくは洗面所で手洗いうがいをして、リクの鞄も一緒にもって先に上にあがった。
ほどなくリクもやってくる。
救急箱を置くと、じっとぼくの顔を見ている。
「結構痛々しいな…」
「そう?」
リクは大きな鏡でをぼくに向ける。
「あ、ほんとだ…ちょっと血もでてるね」
「染みるけど、化膿したら困るから…我慢してな」
ピンセットに消毒液をつけた綿を挟み、傷口に触れる。
「つっ…」
頬に冷たさと、じわじわ染み込む痛さが広がる。
ぼくは思わず目をつぶった。
「もう少しだから、そのままもうちょっと我慢して、目もつぶってていいから」
リクの言葉に、指でOKサインをつくる。
はやく傷口が乾燥するように、
スプレーをかけてくれたあと、大きめの絆創膏を付けてくれた。
「はい、いいよ。目を開けても」
リクの言葉に
ぼくは目の前にある鏡をみつめた。
キレイに絆創膏が貼られている。
「ありがとう…」
「あ、もう1個忘れてたな」
リクの唇が絆創膏にそっと触れる。
ぼくがたずねるよりはやく、リクが微笑んだ。
「傷がはやく治るおまじない」
「もう…」
「嫌だった?顔真っ赤だよ」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、
リクがぼくを見ている。
「血流がよくなって、はやく治るかな?」
「じゃ、もう一回…」
「それは遠慮します」
ぼくが顔の前でバツマークをつけると、リクは口をとがらせていた。
ちょうどうちの母親が帰ってきたみたいなので、ぼくは帰宅することにした。
「また明日な」
「うん、ちょっとはやいけど、おやすみなさい」
さあて、もう体育祭は目の前だ。
明日は早起きして、お弁当をつくろう。
喜んでもらえるといいな…。
―――――――――――――――
予行練習しておいてよかった…。
つくづく今回実感したことだ。
卵焼きは多少焦げ、崩れた部分はそぼろになっているけれど、
型抜きニンジンとキャラかまぼこに救われている。
あと、タコとカニのウインナーもいれた。プチトマトも彩りにいれてみた。
ニンジンの花には、ちょっと大きいんだけど絹さやを葉っぱに見立てている。
ご飯は、ふりかけを持っていって、好きなのをえらんでもらおうかなと思っている。
間に合ってよかった…。
「よろこんでくれるといいなぁ…」
二人分のお弁当を包み終えて、鞄にいれたところで、ちょうどチャイムが鳴った。
「おはよーソラ、起きてるか?」
「起きてるよ。おはよ」
ぼくは笑顔でリクのそばに並んだ。
「なんか楽しそうだな?」
「お昼、屋上で食べる?」
ふたりの質問がぶつかる。
「そうかな?体育祭だけにテンションを上げようと思って、頑張ってる」
ぼくが答えると、ははっとリクは笑い、なんか可愛いなと言った。
「お昼?もちろん。生徒の自由で、どこで食べてもいいし。そのつもり。
いまは寒くなってきたから、屋上も人いなくなってきたしな」
「その分、ソラとゆっくりできるからありがたいよ」
「ぼくも、リクとご飯が食べられるのが嬉しい」
人混みが苦手なぼくら。
解放感のある屋上は最高のスポットだ。
リクのお弁当も、あそこなら人目を気にせず渡せる。
「とりあえず、棒倒し、朝一番だろ?頑張れ!」
「うん!そのあとは玉入れまで時間があるから、席で応援してるよ」
「わかった。ソラの応援は心強い」
リクは、いっちょ頑張るかー。
と、伸びをしていた。
時刻通りにはじまった体育祭。
校長先生は暑いのか、やたら額に汗が流れている。
そのせいか、いつもより挨拶が短かったような気もする。
つづいて、選手宣誓はあの片桐さんだ。
ジャ―ジ姿でもさまになる長身と長い手足。
後ろから見るとかっこいい男の子にみえる。
「宣誓!私たちはスポーツマンシップにのっとり、本日の体育祭の競技を正々堂々と勝負して行うことを誓います!」
拍手があがる。
女子もかっこいいと呟いているのがきこえる。
「それでは、早速ですが、午前の第一競技となります、棒倒しに出場の方は、準備のため、所定の位置へお願いいたします」
真田くんも、マイクを高木さんにバトンタッチして、場所へと向かっていった。
「ソラ、頑張れよ!」
「うん!」
リクの応援を背に受けて、ぼくも準備に向かった。
棒倒しはいたって簡単で
赤、白、3チ―ムずつに振り分けられる。
それぞれが棒の上にくっついているなかなかとれない仕様のボ―ルをとるだけだ。
はやくとったほうが勝利。
以前は敵チ―ムのものをとるはずだったのだが、交差して倒れたので、細かくルール改正がされている。
下の支える学生がぶつかり合って怪我が多かったそうだ。
勝負のポイントは、いかに棒を垂直に登りやすくして、手の長い生徒がさっとボ―ルをとれるかにかかっている。
ぼくは必死に下で支えるのみだ。
うちのチ―ムにはバスケ部の生徒がいるので、彼にとってもらえればありがたい。
「それでは、棒倒し第一戦、スタートです!」
乾いたパンという音がなり、一斉に選手は棒を真っ直ぐにしようと固まり始める。
ボ―ルのついた棒をできるだけ、生徒のとりやすい位置に設置するのも忘れてはいけない。
バスケ部の生徒が必死にジャンプする。
「もうすこし、もうすこし!」
ぼくらは棒を寄せようとする。
届いたか!?
手が赤いボ―ルをつかんだようにみえた。
「おおっ!赤組、先制点!一組目は赤がさきにとりました!」
「やった!」
歓喜にわく赤組。
「さあ、まだ勝負はわかりません。この勢いのまますすむか?それとも白の逆襲が怒涛のようにやってくるか!」
第2試合は接戦の末、白のほうが一瞬早かった。
「さあ、最後まで勝利はわかりません。泣いても笑っても、つぎが最後です」
「速攻勝負でいくぞ!」
「おう!」
すぐに棒を垂直にし、棒を駆け上がるように長い腕で一瞬にボ―ルを奪い取った。
歓声が上がる。
高々と上げたのは赤のボ―ル。
「勝負ありました。2対1で赤の勝利です!」
「やった―!!」
「赤組、おめでとうございます!両組とも足元に気をつけてご退場ください」
ぼくらが退場したあと、
助っ人として、柔道部が棒を担いで直してくれている。
「真田くん、急がないと」
「うん、高木さんと交代してくる、またあとでな!」
真田くんは本業?に戻るべく
発声練習をしながら走っていった。
「つぎが100メートルだから、リクはでてるよね。女子100、200メートルのあとがリレーってきついなぁ」
リクは、もう所定の位置へいったらしく、タオルが椅子に置かれていた。
「リク、頑張れっ!」
幼稚園の時から、リクは早かった。血筋といえば血筋なんだけど、風をきって走る姿がものすごくかっこよくて…。
ずっとずっと、今まで憧れて見てきた。
リクは、長距離は好きではなく、陸上をやると、プレッシャーも大きいからやめたらしい。
種目がたくさんあり、適性もよくわからない、というのも理由だった。
おそらくどれもそつなくこなすとおもうんだけど、
それではリクの性格上納得しなさそうだ。
「ただいまより、男子100メートルの選手入場です」
キャ―、と一気に歓声があがる。
ポンポンが隣の席になぜか置かれていたので、一応ぼくもそれを使った。
リクだけでなく、みんなアスリートの体つきだ。
まるで精悍なヒョウのようだ、と思った。
「さあ、各選手スタンバイしてください…よ―い!スタート!!」
乾いた音とともに、選手たちが一斉に走り出す。
リクも早いが、本家陸上部の追い上げが半端じゃない。
ハンデとして、外周トラックだったが、ごぼう抜きだ。
最後の最後でリクも追い付かれ、
2位だった。
次々間髪いれてゴ―ルする。
これが運動部の本気…。
ぼくはポンポンを持っていたのに降っている暇がなかった。
「いや―素晴らしい戦いでした!一位の皆川(みながわ)くんをはじめ、
みなさんコンマ何秒の戦いだったのではないのでしょうか?
素晴らしい検討を称えたいと思います。
みなさま、退場する選手たちに今一度、拍手をお願いいたします!!」
白熱した戦いに、真田くんの放送も絶好調だ。
なんか、応援するのも、なかなか大変だな。
どうしても選手の熱意や緊張が伝わってきて、ドキドキが止まらない。
次はリクは、リレーか。男子200メートルは小橋くんがでる。
小橋くんはゴ―ルを守る守護神なんだけど、足も早いと思う。
入場のアナウンスで、再び歓声があがる。
今回はもうすこし応援できるかな?
さっきはあっという間だったから。
と、思ったものの、やはり目で追うのが必死で、途中戻ってきたリクが
「小橋がんばれー」と
ポンポンを振っていた。
小橋くんは惜しくも三位。
陸上選手にものすごく足の速い転校生がいて、その子の独壇場状態だった。
将来オリンピックにでられるかもしれない。
そんな噂を聞いたこともある。
「あいつにゃかなわねぇわ」
さすがの小橋くんも完敗ををみとめていた。
「相手が…すごすぎたな。大健闘じゃないか」
リクは、小橋くんを讃えていた。
「センキュ」
小橋くんはタオルで汗をぬぐい、
「リレーがんばろうな」とリクに声をかけた。
この後は女子の100、200メートルがつづく。
そのあとが午前最後の男子リレーだ。
女子100メートルの片桐さんはぶっちぎりで1位だった。
陸上の選手が怪我をして、200メートルのみになったので、長身で足長の片桐さんは、ものすごくかっこよかった。
女子からも歓声があがる。
片桐さんはゴ―ルテ―プを切って
肩で息をしていた。
その姿も一切の妥協を許さなかった、彼女らしい。
他の選手も全力を出しきり、
全員が走り終わった後、
大きな拍手があがる。
「1位は片桐さんです!
みなさん大健闘でした。
女子の選手のみなさま、お疲れ様でした!」
選手を労う拍手の中、プレッシャーから解放された選手たちはほっとした表情をしていた。
このあとの女子200メートルは片桐さんが免除された競技なので、本当に解放された感じなんだろう。
「これが終わったら、俺がリレーか…」
「とにかく怪我なく完走してくれたら、それが一番だよ」
ポンポンを振りながらリクにエ―ルを送ると、
「可愛いな」
と頭を撫でてくれた。
「頑張って!応援してる」
「ああ」
手を振り、リクは、またリレーの準備へと向かった。
「さて、午前最後の競技となりました。男子リレーです」
真田くんも淡々と進行をつづけている。
「お久しぶりです。篠原くん」
気づけばカメラを構えた小早川さんがいた。
「わ!ビックリした。あ、取材?リレーは体育祭の花形だもんね」
「ええ、ベストショットをとろうと、反対側には吉川くんがスタンバイしています」
さすが、新聞部。熱意が半端じゃない。
「インタビューは、各選手に時間をもらう約束を取り付けたので、いまは写真で少しでもベストショットをと」
「ぼく邪魔にならない?かわろうか?」
「大丈夫。おまかせあれ」
小早川さんは三脚の位置を調整している。
「それでは、男子リレー、選手が入場いたします!」
はじまった。
リクは、第三走者。アンカーが小橋くんだ。
二人が後ろにきているのは、おそらく疲労面を考えてだろう。
あのごぼう抜き選手も出ているのかな…。
あ、いる!
みんなの視線はやはり彼に注がれている。
「それでは、第一走者、位置について、よ―い!」
パン!と鳴ると同時に選手たちが一気に駆け出す。
あの選手は足の運びがものすごく速い。
オリンピック候補になるって、
あそこまでのレベルなんだ…。
ついつい目を奪われてしまう。
彼を第一走者にしたことで、周回遅れがでてしまった。
それくらい追い付けないのだ。
第二走者も陸上部のエ―スなので、やはり速い。
少しくらいリ―ドが狭められても、とても追い付けそうにない。
それでもみんな、必死に食らいついていく。
うちのクラスもどうにかリクまで回ってきたが、さすがになかなか挽回は難しい。
けれど真っ直ぐ、先をいく背中を見て、走っている。
「リク―!がんばれー」
ポンポンを振り、必死に応援する。
アンカー小橋くんも、諦めている顔ではなかった。
結局ぼくらのクラスは5クラス中3位だった。
大健闘だ。最後の走者がゴ―ルすると、
出場選手に惜しみ無い拍手と歓声があふれた。
「みなさんの気迫、伝わりました。応援しているみなさんの拍手が、何よりの証だと思います。
本当に、お疲れ様でした。
お昼からの競技に参加される方、
しばし英気を養ってください!
それでは、選手も各席に戻り、お昼休憩をとってください。
学食の方も移動してくださってかまいません」
真田くんのアナウンスが終わり、
ぼくはもどってきたリクに
タオルをかけ、
「お疲れ様」
と声をかけると
「やっぱ、あの転校生すごいなぁ。足が長いだけじゃなく、筋肉のつき方とかもすごい」
「そうだね。もうなんか一人全てがちがってた」
「ああ、お腹空いた。お弁当持ってきてないけどー…」
「うん。知ってる。とりあえず屋上いこう」
ぼくはリクの背中を押し、屋上へと向かった。
つづく