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Happy lucky? vacation②

「まずこちらからどうかと思ったのですけど…それぞれお二人とも試着なさってください」

手渡されたのはぼくのはレ―スにリボンにフリルといった、女子のいう『かわいい!』をあつめたような服だった。

まあ、メイド服ってそうだよね。
一方のリクは…肩幅もあるし、きっとス―ツが似合うと思うから、執事の衣装は着こなせると思う。

カッコいいんだろうな…。
問題はぼくだよね。

スカ―トの丈、短くない?

「二人とも早く着ておいでよ
なんなら、手伝おうか?」

「いい!大丈夫だから」

たっくんに半ば強引に背中を押され、ぼくは入ってあわててカ―テンを閉めた。

ぼくが手にしているのは、男の娘用のメイド服だ。

女性用と何が違うかって言うと、
胸の周りにレ―スが多めで、ふんわりしている。

リボンもすこし大きめで、目立つようになっている。

これなら女性用の下着はつけなくて平気だよね…。

もうそこまでするなら、速攻で逃げたい。

さて、とりあえず試着するか…。

「お二人ともどうですかぁ?」

店員さんの呼び掛けに
「着替え終わりました」
とリクの声が聞こえた。

「ぼくも終わりました」

ゆっくりとカ―テンをあける。

リクは…思っていた以上にかっこいい。ロイヤルブル―の執事服って、あんまりみることないような…。

一方のぼくは、パステルカラーのメイド服だ。

黒メインのものが当たり前だとおもっていたけれど、
最近は色々あるらしい。

スカ―トには裾に薄紫とピンクのレ―スがあしらわれていて、ふわふわしている。

上半身もお姫様が着るような肩口から二の腕まではふんわりした袖、
その下から袖はまっすぐ延びており、
また手首のところがレ―スになって、薄紫とピンクのグラデーションのリボンが付いている。

肩口のふんわりした部分は薄い水色、その下から手首までは白い布が使われている。

「うわ―、これじゃ街歩いてたら誘拐されるレベル」

ぼくの姿をみて、たっくんがやられた、とばかりに手を顔で覆っている。

「ほんっとにお二人ともお似合いです!素敵です!」
と店員さんは目を輝かせている。

リクは…と、そちらをみたら顔が赤い。

「へ、変?」

「…あのさ、写真撮らない?」

「え!?」

結局、この姿で何枚か撮ってもらい、
ぼくはリクのかっこいい執事姿を
写メらせてもらった。

そして、これにあうヘッドドレスも用意してもらい、なんだかんだで大変だった。

一番気になるのはぼくのニ―ハイなんだけど、みんなが気持ち悪がらなければそれでいいかな、と思った。

ぼくらは何だか疲れたが、たっくんは楽しそうだった。

結局、メイド服のお店でかなりの時間を費やしてしまった。

それなら晩御飯もついでに食べに行こうということになり、
ぼくらは洋食メインのお店に決めた。

リクといくような感じではない、ちょっとお高いお店だ。

そのため予約がいるらしく、まだ時間があるので、
僕らは海に行った。
たっくんは友達が帰国している連絡があり、どうやらご飯に誘っているようだ。

二人で砂浜を歩く。
うしろにはぼくらの足跡がぼんやりと付く。

足の長いリクに歩幅を合わせると、つまづきそうになった。

「おっと」

背中にあたってしまったぼくを
リクは動かず、受け止めてくれた。

「ご、ごめん」

「俺が早く歩きすぎた。はい」

手を差し出してくれるリク。

ぼくは少し照れながら、その手を握る。
「ありがと…」

波の音が心地いい。
「きれいだね…」

暮れゆく夕陽がぼくらの顔を赤く照らしてゆく。

海岸の端までくると、僕らは石段のところに腰かけた。

「今日楽しかった?」
「うん。リクかっこよかったなぁ。男女ともに惚れるよ」

リクはふふっと笑い、
「ソラは反則級だったよ。俺が女子なら女子やめたくなる」

「ええ―!?そんなことないない」

ぼくは全力で否定した。

「ま、俺はどんなソラでも好きだけど、あれはまいったね。似合いすぎてて…誰もいなかったら抱きしめたかった」

「だから写メとったの?」

「そうそう。どうしても残しておきたくて」

「ぼくも、リクの執事姿がほんとうに素敵で、ドキドキしてたよ。
執事というより王子さまみたいだった」

リクは穏やかに微笑むとぼくの髪を何度も撫でる。
照れているときのリクの癖だ。

「ソラ…」

リクが顔を寄せてくる。

「見られちゃうよ?」

「もう暗くなってきたから大丈夫」

リクの腕がぼくの背中にまわり、
ぐっと引き寄せられた。

ぼくはリクの肩に手をあて、
顔を近づけた。

重なる二つの影。

これからのぼるお月さまだけが知る秘密だ。

しばらくくっついていると、
たっくんから連絡が入る。

『ふたりにも友人紹介したいから、一緒にご飯をたべよう。
海岸通りまで迎えに行くから、そこまで待ってて』

「あ、そういえば言ってたね。一時帰国している友人がいるって」

「言ってたな…ソラ緊張する?」

リクは初対面で人見知りなぼくを気遣ってくれる。

「ううん。リクもたっくんもいるし…それにたっくんの友達なら、きっと悪い人ではないと思う」

ぼくが微笑むと、リクは目を細めて、おでこにキスをしてくれた。

それから僕らは海岸通りまで手を繋いで歩き、たっくんと合流した。

「友人は直接店にくるから、俺らが先にいって待つけどいい?」

「うん、もちろん大丈夫だよ」

「たっくん、友達とちょうど予定があってよかったよな。大学ともなると就職してたり、なかなか会えない人もいるだろ?」

「そうなんだよ。とくにこの子は忙しいんだ。ヘアメイクのスタイリストなんだけど、人気でね」

リクの言葉に、たっくんは友人のスタイリストさんの話をする。

(どんな人なんだろ…)

それから5分ほどして、店につき、
予約していた旨を伝えると
奥の部屋に案内された。

「俺らこんな格好でいいの?」
「ドレスコ―ド無視しまくりじゃない?」

不安になり、たっくんの方をみると、
「個室取ってる。見えないから安心していいよ。急だったんでっていうとお店の人もわかってくれたし。その子のいきつけだから、融通がきくんだ」

「ここが行きつけって…すごい人なんじゃ?」

「ああ、弟がいて、華厳(けごん)学院にいってるらしいから、実家にお金はあるかもね。本人ももちろん収入あるだろうけど」

「華厳学院…超セレブ校じゃん」

席についてしばらくすると
「タクト、遅れてごめんなさい」
低く、凛とした声が響いた。

背が高くて、黒のパンツスーツが似合う、足の長い人だ。

ただ、性別が不詳なんだけど、
女性?かな?
ボーイッシュな雰囲気だし。

「ルーシア花音ともうします。いきなりおしかけてきてごめんなさい」

あ、ハーフなんだ。それで色素が薄い瞳をしているんだ。
鼻も高いし、髪色も、もしかしたら自然なブラウンなのかもしれない。

「はじめまして。神崎陸です。
タクトのいとこです。よろしくお願いします」

「はじめまして。篠原空です。
リクの幼馴染みで、タクトさんには昔よく遊んでもらいました。よろしくお願いします」

「二人とも…そんなにかまえなくていいよ」
たっくんが苦笑する。

「そうよ。わたしのことも花音って気軽に呼んで、よろしく、リク、ソラ」

それから、雑誌の撮影では、たびたびたっくんをモデルに呼んでいること、アメリカンスクール出身の帰国子女であることなど
色々と話してくれた。

クールな雰囲気とは裏腹に、気さくな人柄に、ぼくも安心して話すことができた。

あっという間に予約の時間が過ぎ、お開きになった。

「楽しかったわ。また会いましょう、リク、ソラ」

私は自分の車で帰るからと、花音さんとは店の前でわかれた。

「ってことは実家帰るの?」

たっくんがたずねると
「そう。めんどくさいなぁ、ややこしい人しかいないからね。うちの家族」

花音さんは本当に嫌らしく肩をすくめていた。

「じゃあ花音、またな」

タクトが手を上げると、花音さんも手を上げた。

ぼくらはそれから家に帰り、この服一式はとりあえずリクのクローゼットに入れといてもらうことにした。

そのほうがシワにならなくていいしね。

「ふー、疲れたけど楽しかったね」

宿題がそのままなので、今日はリクの部屋にとまることにした。

泊まる連絡を入れても、母親は特に反対しなかった。

「ああ。楽しかったな。ソラの可愛い姿を見れたし」

「可愛いって、ぼく男なんだけど!」

「わかってるって。ほら、おいで。ゆっくりしなよ」

リクがダイブした布団の横をぽんぽんと叩いた。

「はーい…」

ぼくは背中を向けてリクの横に寝転がった。

リクの腕がのびてきて、
後ろから抱きしめられる。

「こっち向いてくれないの?」
ぼくは自分にまわされた
リクの腕を包み込む。

「んー、眠りを邪魔しない?」

ぼくの問いに、リクはしばしの沈黙のあと、

「とりあえず今日は邪魔しない…」

とりあえずっていうのが気になるけど、リクのぬくもりが伝わってきて、まぶたが重くなってきた。

「おやすみ、ソラ」

「ん、おやすみ…」

遠ざかる意識のなかで
「大好きだよ」

と聞こえた気がした。
今日もこうして
夏休みの一日が終わっていった。


おしまい。

















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