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Memories of love②

こうして、晴れて両思いになったわけだけど…。

誰に公表することもなく、今に至る。

まさか不可能だと思っていた願いが叶うなんて思わなかった。

ああ、神様。夢なら永遠に覚めないで欲しい。

人生ではじめてぼくを認めてくれた人が
恋人になってくれた。

ぼくの両親は、いわゆる男らしい子供が欲しかったらしく、身長も低く、色も白くて、病気がちなぼくのことはあまり好きではなかったと思う。

もちろん愛されていないとはおもっていないけど、
言葉の端々にそう感じることはあった。
「リクくん大きくなったわねぇ…男らしくて、かっこいいわね」

母の無意識な言葉さえ、
ぼくには辛いときがあった。

どんなに努力しても得られない。
筋トレしても、リクのような筋肉がつかないし、
身長も今さら伸びそうにもない。
日焼けすると真っ赤になって、また元に戻るから白いまんま。

『いっそ女の子だったらよかったのに。』
それはぼくのセリフだよ。
誰あろうぼくが
いちばんそう思っている。

でも、ぼくはリクを憎むことなんてできない。だって、ぼくからみてもリクはいつも素敵で、あこがれで、大好きだったから。

「…ラ、ソラ」

帰り道、不意に呼び掛けられて、ぼくはぼ―っとしてた。

「ん、なに?」

振り向いてリクを見上げると、優しい笑顔がそこにあった。

「ぼんやりしてたから、つかれたのかなと思って」

リクの言葉に…思わずぼくは顔が赤くなる。

「ちがうよ。つかれたんじゃなくて…うれしかったんだ。夢みたいで」

ぼくの言葉に、くすくすとリクは笑い、顔をのぞきこんで、そっと触れるだけのキスをした。

「……!!」

「現実ってわかった?」

リクがこんなにわかりやすく、恋人だよと表現してくれるタイプだったとは意外だった。

「すっごくうれしいけど、恥ずかしい…」

「そっかそっか。やりすぎたかな?ソラ、ゆでダコみたいに顔真っ赤」

ポンポンと頭を撫でてくれた。

「俺もいままで我慢していたぶん許して」

ぼくは目を見開いてリクの顔をみた。

だんだんも辺りが薄暗くなってきたぶん、
こちらからはすこしわかりにくいけど、リクの耳が赤いことだけは
わかった。

「ん、許す」

長い長い、片想いをぼくらはしてきたんだね。

相手を失うのがこわくて、それほどこの関係が大切で、壊したくなくて。

時折こぼれてしまいそうになるのを必死に心の中の奥底へしまってきた、本当の気持ち。

そう考えるとリクが愛しくてたまらなかった。

「暗くなってきたから、手、繋げるよ」

ぼくの差し出した手を、
返事の代わりに
リクはギュッと握ってくれた。

ゆっくりでいい。
一緒にいられるなら、
ぼくの気持ちは変わらないから。

ぼくはつないだ手のあたたかさがこんなにも心をやわらかくほぐしてくれることをはじめて知った。

それは相手が他ならぬ大切な人だから。

夕闇迫る中、ぼくたちはずっと手をつないで、帰路についた。

―――――――――――――――

ぼくらは両想いになったからってすぐ現実にできることって実はあまりない。

やっぱり人の目もあるし、
リクにも迷惑はかけられない。

それでも以前より世界がキラキラして見えるのは両想いになれたからだろうか。

恋愛ボケしているのかな?ぼく。

リクは部活でサッカーをやっているんだけど、もうすぐ大会が近いとかで、ぼくにできるのは
途中でおなかがすいたときに食べられるおにぎりを作ることくらいしかなかった。

お母さんのお弁当だけじゃ足りないのはわかる。

リクはめちゃくちゃ食べるけど、
全然体重が増えないのは、おそらくあの運動量だろうなとおもう。
多少は体質もあるかもしれないけれど。


朝練でほぼ眠っている一時間目と二時間目の間に、リクにおにぎりを渡す。

最初こそ「岩?」とリクに笑われたけれど、回数をこなすうち、どうにかましになってきた。

中身は鮭や昆布をいれてみたり、大したものをつくってないけど、
笑顔で間食してくれるリクを見ているのが幸せだ。

「リク、大会がんばってね…」

おなかが満たされると、すぐ夢の住人になってしまうけれど、
その寝顔が愛しかった。
正面からみても、もちろん横顔もリクは整っている。

リクのお母さんが、リクは自分そっくりだといっていたが、
リクは女顔ではない。
どことなく今もイケメンの面影があるお父さん似だ。

なにより
リクは外見だけで判断する人ではない。
長い付き合いだけど、これだけは昔から変わっていない。

そんなぶれないリクが好きだ。
心根も漢なんだよなぁ。

リクにとってはようやくお昼休み
だろう。
チャイムが鳴るとむくっと起き出し、屋上で食べようとぼくを誘う。

そのときだった。
リクに女子生徒が声をかけてきた。

あ、また告白かな。
ぼくはそそくさと退散して、先に屋上に行こうとした。

リクのファンがたくさんいるから、全員は覚えてないけれど、たぶんそうだろう。

リクは顔色ひとつ変えず、
「ここでいえないこと?」
「え…あの…」

「告白なら無駄だよ。俺、誰とも付き合うつもりないから。部活と勉強で手一杯だし」

それだけいうと、女子生徒の顔もみることもなく、ぼくのあとを付いてきた。

「本当によかったの?」
卵焼きを半分にして、レンにあげる。
「サンキュー。ソラの家の卵焼き好きなんだ。」

リクは卵焼きを口に放り込むと、コクコクと首を縦にふった。

「あいつらに俺のなにがわかる。
無性に腹が立つんだよ。そんなかんたんに好きになんなって」

レンは眉間にシワを寄せてきた。
本当に嫌なんだろう。

「ファンとか取り巻きさんなら、
サッカーしてるときの行動とかにひかれたのかもよ?」

一応フォローしてみたけれど、
リクは聞く耳を持たない。

お弁当を食べ終えたリクの分を片付けていると、不意に抱きしめられた。

「俺は、俺の意志で愛する人を選ぶ。それがソラ、お前なんだ」


リクの長い指がぼくの頬をなぞる。
ちゅ、というリップ音がして、
ぼくの唇にリクのそれが重なる。

「ありがとう…ぼくも同じ気持ちだよ」

リク、本当に大好きだよ。


放課後もリクは部活がある。
けれど朝練皆勤賞のため、すこしくらい早く上がっても許されるらしい。
疲労がとれないのもいけないからね。
そんなわけで、ぼくは日直ということもあって、日誌を書いていた。

「…よし」
あとは先生のところにこれをもっていったらおしまいだ。

まだリクは帰ってこないし、職員室にいってこよう。

部活でのこっている生徒以外は
すれ違う人影もまばらだった。

先生は職員会議らしく、会議室にいるとかいてあったので、日誌を机において、ぼくはその場をあとにした。


「篠原くん」

階段をのぼっていると、上から声がふってくる。

姿が見えてくるにつれ、ぼくは足取りが重くなった。

一瞬背筋がぞくっとする。

この子は…今日リクに告白してきた子だ。

「なに?」

「ちょっといい?話があるの」

その子はうっすらと笑っていた。
しかし有無をいわさぬ雰囲気を醸し出していた。

「…わかった」

ここで断って、リクになにかあったら、絶対後悔する。

ぼくは屋上にいく手前の扉前、そこまでついていった。

「話ってなに?」

「いつも金魚のふんみたいに神崎くんのそばにいて、そんなに好きなの?」

容赦ない言葉がささる。

「幼馴染みなんだ。あまり友達のできないぼくと仲良くしてくれるのがリクなんだ」

「幼馴染みだからって、こんなことするの?」

彼女はそういって、ぼくにスマホを見せてきた。

これは…。

「どうして…」

昼休みにキスした写真だ。

「私、あのあと先回りしてたのよ。そうしたら屋上で二人がこんなことしてたから」

「どうやって誘惑したの?篠原くんはよくても、本心では向こうは嫌がってるんじゃないの?男同士なんて」

ひと言ひと言が、
ガラスのような心の床を
土足で、ぼくの心を踏み、粉々にしていく。

やめて、これ以上言わないで。

「本当に気持ち悪い。同性同士なんて」

ぼくはもう何も言う言葉がなく、
唇を噛み締め、涙を堪えることしかできなかった。

「そうだ、これを、拡散したら
神崎くんも目が覚めるかも。
やっぱり女の子がいいって」

いやだ。
リクを失うことも嫌だけど、
リクが好奇の目にさらされるのはいやだ。

「やめてよ。ぼくはともかく、リクを傷つけることはやめてよ」

ぼくはもう懇願するしかなかった。

「じゃあ神崎くんから離れてよ。
あんたがいるから邪魔なのよ」

頭がくらくらする。
わかってる。
ぼくらが普通じゃないことなんてわかっているんだ。

いまならまだ、リクも一時の気の迷いとおもってくれるかもしれない。

「わかっ…」

「おい!そこでなにをしているんだ!」

鋭い声がする。
この声は…。

「おまえ、今日の…ソラになにをしようとしているんだ!」

「リク!」

彼女はぼくを突き飛ばし、ぼくは階段から滑り落ちる。

「うわっ!」
バランスを崩したぼくは、後ろに倒れそうになる。

「ソラ!」

リクが駆け上がって、ソラを抱き止め、そのまま階段を転げ落ちる。

ぼくは全身をうち、リクはぼくを抱えて、下敷きになっている。

頭からは出血していた。

「誰か!誰か!きてください!」

ぼくは叫んでいる間に、目の前が白くなって意識が遠のいていった。


つづく














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