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Trust in love④

そんなこんなで、ぼくらはどうにかこうにか、受付をこなしていった。

すると、ぼくの前に次の人がやってきた。

「ええと、あなたのお名前は…」

その人はいかにも普通の状態には見えなかった。

痩せ細った身体、顔色はどす黒く、目の下に色濃いくまができている。
目はどこを見ているのか、
虚ろで焦点が定まらない。

「あの、お名前を…」

「ホログラムを使え。名前がそこにでてくるから。それと名簿と照らし合わせろ」

「わかった」

リベルテのいうとおり、ホログラムでみると、名前がでてきた。

そして、今日の受付名簿と照らし合わせる。

「あなたは○○○○さんですね」

やはり反応が返ってこない。

そして、彼の胸のあたりは、鉛のような、キラキラした輝きのないものが見えた。

これがヴィダのいっていた、魂の汚れ、みたいなものかもしれない。

リベルテがやってきて、
「こいつをみたらわかるだろう?
本来の魂の色が全くわからない。

そして、どういう経緯でこうなったかは鑑定専門の部署がある。
管轄にいま、連絡する」

リベルテがホログラムで通信し、ほどなくして、紺色の服に身を包んだ二人組が空を飛んできた。

二人は長いフードをかぶり、全身魔法使いみたいなローブを着ている。

そして、その場に座り込んでしまった男を
両腕を持って立ち上がらせると
「失礼します」

と去っていった。

男は結局、何も言葉を発することなく
連れていかれた。

「あいつはあのあとどうなるんだ?」

リクがたずねると、
「まず、薬物によるものか、
アルコールなど嗜好品によるものか、
そして、自らが摂取しつづけたのか、
誰かに摂取させられたのか、
この経緯を調べるんだ。

状況によって、本人の意志かそうでないか、
しっかり調査される。
それによっていく階層がちがうからな」

「それほど重いことなんだね…」
ぼくは以前何度も死にたいと願ったことを思い出した。

あちこち引っ掻いて、爪をかんで、何度も高い建物へいって、飛び降りようとした。

寒い中、凍死してしまえばいいのにと1日歩き続けたけれど、結局、高熱がでてインフルエンザになった。

「現世では、肉体があるから、動ける。
それによって経験ができる。
肉体は現世において一番大切な、替えのないものだ。
それを乱雑に扱うことは
許しがたいことなんだ」

リベルテがもう、俺らには経験できないことだからな。
と続けた。

「先天性の病気や、本人が悪くなくて、事故や心臓発作とかで急死もだめなの?」

「それはまた話が変わってくるな。
たとえば抗がん剤とかきついものを摂取しなければならないとか。

魂の色が変化しても、事情が違う。

亡くなりかたはどうあれ、希望を失わず、現世で生きる努力をしたかどうか、最後はそこに尽きるな」

淡々と堪えるリベルテの言葉は、とても重く聞こえた。

「ソラ…」
リクがぼくの方を見ている。
そうだ。リクもぼくも投げやりになっていた。
昔を思い出したのか、リクも悲しげな瞳をしていた。

「おいおい、しんみりするなよ。よくよくかんがえたら、
お前らだってとばっちりじゃないか。
死ぬ気もないのに毒飲まされ
て、本来ならまだここに来なくていいのに
滝が通れないから、待つ間に、
なぜか手伝いに駆り出されて」

「まあ…はい、いまここにいることで、なんとなくそうだなと…」

「生きてる時の俺ならここで暴れるぜ。お前ら心が広いな」

リベルテが笑顔を見せる。
天界の人にしては、ヴィダもリベルテも表情豊かだ。

「むこうに戻ったら、ボコボコにしてやろうかなとは思っている」

リクが拳を握って答える。

「リク、そこまでしなくても…」
ぼくの制止に、

「あ、ここでの記憶なくなるから、それ無理」

リベルテのあっさりした言葉に
リクもポカンとしている。

「じゃ、俺らやられ損?」
ため息をつくリク。

「そのためにここがあるんだよ。お前らが手を下さなくても、やったことからは逃げられない」

じゃ、やっぱり
あの死神みたいな人たちのところに連れていかれるのかな…。

「さあさあ、また、受付にお出ましだから、しっかり頼むぞ、二人とも!」

「はい。リク、頑張ろうね」
「ああ」

お互いコスプレのままなので、ニヤニヤしてしまう。
でも、集中しなきゃね。

それから休憩といわれるまで、
ぼくらはひたすら受付の仕事に戻った。

つづく




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