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Autumn of sun!④
次の日、ぼくらはいそいで放課後クラブハウスに向かった。
クラブハウス前には、大道具作りだろう、金づちの音も響いている。
「お疲れ様です」
「お芝居に参加させていただく者です。よろしくお願いします」
すると、部員たちははこちらをむいて
「こちらこそよろしく!」
とそれぞれ笑顔でこたえてくれた。
「おーい中山ー!主役の2人が来たぞ!」
「はーい!」
部室のほうから声が聞こえる。
一人の部員が走ってきて、
「奥に衣装があるので、こちらにどうぞ」
とぼくらを誘ってくれた。
衣装合わせ…にあうかな?
リクの顔を見ると、
「大丈夫」と返してくれた。
ぼくはうなづき、部室のドアをあけた。
「「失礼します」」
すると、いろいろな衣装が並べられた部室の中から中山さんがあらわれた。
「来てくれてありがとう。早速だけど、衣装の試着、してもらっていいかな?」
「うん」
「ああ」
「背中のファスナーがしまらない、とかボタンが硬いとか何かあったら呼んでね。外にいるから」
中山さんはついたてでぼくらを隔てて、外に出た。
すごい…。
これ、ほんとの、舞踏会とかで着るレベルのドレスじゃない?
破らないよう慎重に着ないと…。
ぼくは手早く制服を脱ぎ、ゆっくりとドレスに袖を通した。
丈がぴったり…。
ぼくに合わせたのか、現代の女性は、ぼくくらいの身長なのか…。
ベルのドレスはアニメで見た、あの太陽のような、明るい黄色の衣装だった。
「ソラ、着られた?」
ついたて越しにリクの声が聞こえる。
「なんとか。リクは?」
「着られた」
お互い着替え終わったぼくらはついたてから出た。
「……」
「……」
「可愛い!」
「カッコいい!」
しばらく見とれてしまって声が出せなかった。
リクのタキシードは、金の縁取りがしてある、
深海を思わせるようなブルーで、
胸元にはフリルのリボン、袖口には豪華な刺繍とカフスボタンがあしらわれている。
執事も王子も似合うなんて最高だ!
「おふたりさん、どう?着られた?」
外から中山さんの声が聞こえる。
「うん」
ドアを開けると、中山さんもびっくりしていた。
「2人ともあつらえたようにぴったりね!
よかったあ。きつかったり、ゆるかったりしたら何とかしないといけないから…杞憂だったみたい」
「篠原くんはカツラあわせもしましょ。もう出来てるから」
中山さんはロッカーの上からカツラの箱をもってきた。
「うわあ…」
ベルの明るいブラウンのロングヘアーだ。きちんと髪飾りもつけられ、毛先がくるんとなっている。
こちらもぴったりだ。
「篠原くん、頭小さいのね…女子でも入らない子いるのに」
被ったあと、中山さんがキレイに整えてくれた。
「あと、ガストン役の神田川くんも衣装あわせるの」
トイレからでてきたのは、ガストンの衣装を身に纏った神田川くんだ。
「おお!素晴らしい。
2人とも物語から飛び出してきたくらい素敵だよ!
とても感動したから、
この喜びを歌にしたいくらいだ。
あ、自己紹介が遅れました。合唱部の神田川勝です」
帽子を取り、礼をする姿はなかなか上品で、声がよく通る。
大柄で、すこしポッチャリ体型の
彼は、かなり声量があることで知られている。
劇の人選としては申し分ない。
「神田川くんも着こなしてるわねぇ。せっかくだから、スカーフにブローチもつけてみようかな」
中山さんの提案をうけて、
神田川くんも嬉しそうにしている。
「とにかく劇に関しては僕をふくめ、みんな素人。中山さんのアドバイスを聞いていたら間違いないと思うよ」
笑顔でこの状況を前向きにとらえている神田川くん。
不安もあるだろうに、さすが、合唱コンクールにでているだけ舞台度胸がありそうだ。
では、舞台にいってみましょうか。立ち位置だけ確認しとかないと…」
体育館の舞台なので、途中も、いろいろな人に二度見されたりといろいろあったが、
なんとか体育館にたどり着いた。
「華厳学院のように舞台は広くないから、動くときにすこし遅れたりしても、大丈夫だと推測しているの」
中山さんは舞台の広さ、使えるスペースを細かく書き込んでおり、
大道具を置いた場合、動線が確保できるか、再確認するらしい。
「篠原くんこっちにゆっくりと歩いて。 下手側、神田川くん歩いてきて、真ん中で篠原くんに不自然に肩をポンと叩けるか、やってみて」
「うん」
「了解」
村ではガストンとベルが顔を合わせるシーンがあるため、自然な距離が取れるか確認している。
「篠原くんはまっすぐ前むいてて大丈夫だよ。ガストンが近づいてくる設定だから」
「はい!」
ぼくはゆっくりと下手側にむかって歩く。
神田川くんは大股で向かってくる。
ちょうど真ん中あたりで、通りすがる直前に、ポン、と肩を叩かれた。
「よう、ベル。どこへいくんだ?」
「オッケー!だいたいガストンからベルへ声かけるから、篠原くんは、それから反応してくれて大丈夫だからね」
中山さんは納得できたのか笑顔だ。
「2人とも歩く早さは、普段の場面ならそれでちょうどいい。
あと、村にいるときは、ベルはもっと動きやすい格好だから、安心してね」
「わかった!」
「じゃ、次は屋敷にきたベルと、なにごとかとでてきた野獣のシーンね。ベルも野獣もゆっくりめで歩いてみて」
ベルはそのまま、下手側に神崎くん、やってみてくれる?」
「うん、わかった」
「ああ」
「ベルはあたりをきょろきょろして、野獣よりゆっくりめにね。神崎くんはこころもち、ベルより早めで」
「よし、わかった」
ぼくは若干怯えたように、すこし前のめりになって、あたりを見回す。
野獣は背後を見たり、立ち止まっては、歩く速度を早めた。
ぼくはゆるい風にのってきた
リクの匂いに驚き、
思わずつまづきそうになった。
「おっと」
リクが素早くぼくの腕をつかみ、自分の元へ引き寄せた。
「大丈夫か?」
「う、うん」
この姿のリクは、格好よすぎる…。
胸のドキドキが聞こえないか心配だ。
「はーい!神崎くん大丈夫?本番はヒールじゃないから安心してね。野獣もそんな感じで速度も大丈夫。いつも元気なベルがすこし怯えている風でよかった」
「よかった。こんな高価なドレス、破ったらどうしようかと思った 」
すると中山さんは
「2人の衣装ね、本物は本物なんだけど、逢阪に中古でこういうドレスやタキシードを格安で扱っているところがあって、部費で買える範囲の値段なの」
「へえー」
「そうだよな、こんなドレスやタキシード、そうそう買えないよな」
「うん。ウエディングドレスとかもたくさん種類があるよ。
来年のシンデレラのときはウエディングにしようかなぁとか部費と相談中」
中山さん、やり手だな…。
将来部長になりそう。
「あと、ポット夫人やコグスワースは私がセリフを言うからそれに合わせてこれをパクパクしてくれれば。
中山さんがぼくに手渡してきたのはミトンだ。
白いミトンの上部にポットの蓋に見立てたフェルトをつけ、ミシンで蓋とポットの下部を分けて、マジックで模様と目がかかれている。
取っ手もフェルトでつけられている。
ポットの注ぎ口が口に当たるので、僕が指をいれて動かすとパクパク動く。
「すごい!うまく出来てる」
「きちんと見て、セリフをいうから、安心してね」
家来同士の会話は、他の部員もアフレコしてくれるので、その点も安心だ。
「前日に最終チェックで、場ミリっていって、照明がきちんと当たる立ち位置の場所決めるから、
迷ったらその印をみたら大丈夫だからね」
「わかった。ありがとう」
「具体的なアドバイスでわかりやすかった。俺も勉強になった」
ぼくとリクでお礼を言うと、中山さんは、
「こっちからおねがいしてもらった上に、無茶振りでもひきうけてくれた…こっちは感謝しかないわ。ありがとう」
中山さんは爽やかな笑顔で、
「神田川くんも、本当にありがとう」
と軽く頭を下げていた。
「成功するよう、精一杯の力をだし尽くします!」
神田川くんの敬礼に、舞台に暖かい雰囲気が流れた。
つづく