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Trust in love②

「しかし…すぐ現世にお戻ししたいのですが、今回のケースはちょっと特殊でして」

ヴィダの表情がさっきと変わって
心なしか暗い。

「どういうことだ?」
となりのリクが首をかしげている。

「いま、あなた方をそのままお戻しすると、
毒物が入った状態でということになります。

あなた方には私たちと違い、肉体があります。
肉体があるということは、内臓などもありますよね?」

「じゃあこのまますぐ戻ると、臓器がどこかおかしくなるってこと?」

ぼくはアルコール中毒で肝硬変を患った人をイメージした。

「そう、ソラさんがいまイメージされたことと同じです」

ヴィダの反応に、ぼくは驚いてしまった。

「えっ!ぼくが考えていることわかるの?」

「天界のもとは人間ではないので、本来言語でなく、イメージで伝えることが普通なんですよ」

ヴィダはいつ持っていたのか
手のひらサイズのホログラムを見せてくれた。

「案内人同士の連絡にもつかっています」

「へええ。物語の中だけかとおもってたら、本当にあるんだね」

ぼくはヴィダの手にあるホログラムを見せてもらった。

「なんか壮大な話になってきたな…。人間同士、俺とソラはテレパシーが使えるのか?」

「いえ、それは基本無理です。いまもここにおりますが、人間であることはかわりないので。
ただ、よほど強い想いなら具現化することもあります」

「よかった…」
ぼくは胸を撫で下ろした。
リクのことをいつも考えていることが全部ばれてたら、
それはそれで恥ずかしい。

「まあ…現世には知らなくていいこともありますからね」

ヴィダは感情の読めない表情で呟いた。

「ああ、真実が時に人を傷つけることもあるからな」

リクもうつむいたまま、ぽつりと言った。

しばしの沈黙が流れる。
それぞれ思うことがあるのかもしれない。

「……ヴィダ、ぼくらは何をしたら戻れるの?」

さすがにずっとこのままでいるわけにはいかないし。

「実は、死後、薬物などで自分の肉体を痛め付けた行為を自ら深く反省し、
改心した魂には
この先にある滝の水をもらえるのです。
その水を飲めば元に戻ります。
なぜかというと変色した魂では意志疎通ができない場合が多々見受けられるからです。」

「じゃ、早速そこへいって…」
ぼくの言葉を制止するように、
ヴィダが首を横に振る。

「じつは崖崩れが起きてしまい、いまいけなくなっております」
申し訳なさそうに、ヴィダが眉を下げる。

「天界って、そんなの念じたら一発でなおるんじゃないのか?」

リクがたずねると、

「はい。普通でしたら…
ちょっとあそこは特別でして、
天界でも管轄が違うので
上司にかけあって早急に直してもらおうと考えています」

「そこはアナログなんだ…」

だんだん突っ込む余裕も出てきた。

「天界もよく壊れるの?今回みたいに崖崩れとか道路陥没とか…」
と聞くと、ヴィダは


「この頃は増えましたね。現世で起こっていることは、少なからず天界にも影響がありますから」

「そうなんだ…」
地震に天災、流行り病…たしかに現世で起こっている。

「そうなのか…」

リクもさすがにショックだったのか声のトーンが暗い。

「そこでお二人にお願いがあるのですが、
いまから至急上司に報告し、
滝を直す許可を得ようとおもいます。
使いのものを向かわせますので、戻ってくるまで受付案内人をやっていただけませんか?」

「「え!?」」

ぼくらは驚きで突っ込むこともできず、唖然とした。

「こんなことをお願いするのは、非常に心苦しいのですが、天界も人手不足でして…」

なにこの『YES』しかないっていう
お願い。

ある意味パワハラでは??

しかしここで押し問答していても埒があかない。

「…わかったよっていうか、受けるしかないよな」

リクも深く追求することは諦めたのか、突っ込みすらしなくなった。

「ありがとうございます。さっそく、ぼくの先輩に伝えて、いってもらうようお願いします」

ヴィダは、ホログラムを取り出し、交信しているようだった。

「…不測の事態なので、報告義務が遅れたら
修理もとりかかってもらえなくなったら困りますからね…」

「ちなみにいつ壊れたんだろうね?」

ヴィダが交信中、リクに話しかけると

「昨日です。現世の時間の流れで言えばですが」

「……そう……」

「…もう…なんもいえねぇ」

喜びから出た言葉ではないことはリクもぼくもよくわかっている。


そんなこんなで、ぼくらはなぜか天界でもミッションが課せられた。


つづく





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