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八国万象回想録

ーー鈴の音

極東八国。
神獣選びし国王と、加護を受けた国民と。
その始まりはいつぞのことか。
暴れに暴れた応龍を、八の神獣が地に鎮め
頭と尻尾、腹と胸、4つの足を国土とし
未来永劫目覚めぬように
一つの国に一つの獣。獣が選ぶ国の長。
地に迎えし国民を、加護を持って地鎮とす。
祝祭、奉納、魂鎮め。
時代を伝う紡ぎ歌。
八国の民よ、歌えや踊れ。
喜び、戯れ、歴史を紡げ。
八神嬉戲、寿ぎ、言祝ぎ。

ーー鈴の音

遠い遠いどこかにある、龍の形をした大地と、八つの国のお話

さあ、語って聞かせよう。
命が巡り自然と戯れて暮らす、かの国民たちのことを

さあ、歌って聞かせよう。
神獣の加護に満ちた美しい世界のことを 

八国万象回想録(はちこくばんしょうかいそうろく)、これより、開幕。

ーー鈴の音

昔むかし、世界を壊そうとした黒い龍、応龍を八匹の神獣が封印した。
応龍の体は大地となり、
八匹の神獣と神獣が選んだ王様がこの地を鎮め、
このまま目覚めないように、
世界を壊さないように、
八つの国となったという。

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白虎が喉元に嚙みついた、頭の国『蓮灰』(レンハイ)

蓮灰へ行くのであれば、まずは王宮に併設された演舞場へ
この国の王は、歌と踊りに秀でたものが国民投票によって選ばれる。

鐘が八つ鳴ったら、王の演舞が始まる合図。
最前列はすぐに埋まってしまうから、お早めに

「音」の術を使える国民たちは、街中で音楽を奏で始める。
耳を傾けるもよし、参加するもよし。
蓮灰の夜は賑やかだ。

「蓮灰」またの名を、雷鳴と宴の国
天候は雷雨。
山裾(やますそ)にあり、山の斜面でできた積乱雲によって雷が轟く。
雷でさえも音楽にする芸能の国。

天鼓の声  (てんこのこえ)
地に響き  (ちにひびき)
霹靂の舞  (へきれきのまい)
満天に咲く (まんてんにさく)
百花繚乱  (ひゃっかりょうらん)
絢爛華麗  (けんらんかれい)
遊ぶ言の葉 (あそぶことのは)
湧く調べ  (わくしらべ)
饗宴華やかに(きょうえんはなやかに)
蓮灰の謡  (レンハイのうた)

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朱雀が胸元に爪を立てた国「桔紅」(チューホン)

桔紅は国の中央にある国営武闘場で、四年に一度
「王座決定戦」が開催される。

腕に自信のある武道家が二百人ほど参加する勝ち抜き戦を制すれば、
現王に挑戦する権利が得られるという訳だ。

国民たちの使う「火」の術は、武闘場周辺の屋台で体験できる。
国の色である朱色の旗がはためく街で食べ歩いてほしい。
桔紅の屋台飯は、辛い。

「桔紅」、炎と武芸の国
天候は晴れ。
内陸にあり、雲一つない空に照らされ続ける。
朱雀の火の粉に焦がれた、熱き武人の国。

陽高々と雲は晴れ (ひたかだかと・くもははれ)
焔朱々と氣燃ゆる (ひあかあかと・きもゆる)
敢闘澄みやかに  (かんとうすみやかに)
華めく宴     (はなめくうたげ)
歓呼の声天焦がす (かんこのこえ・てんこがす)
燈火燦々     (とうかさんさん)
発気揚揚     (はっけようよう)
精彩揺るぎなく  (せいさいゆるぎなく)
桔紅の銅鑼    (チューホンのどら)

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青龍が巻きついた左手「海藍」(ハイラン)

入り組んだ沿岸にある港町は、海藍の魅力にあふれている。
漁師たちがこぞって飾り付けた豪華な漁船や、
海風を受ける白い防波堤。

灯台守に話を聞けば、海の機嫌も教えてくれる。

「水」の術を使える海藍の国民は、その半数近くが漁師を営んでいる。
手伝いを願い出れば、すぐに漁師の一員だ。
海藍の雨も、人も暖かい。

青海と漁師の国「海藍」
天候は、俄雨。
温かい湿気を含んだ海風が、やわらかな雨を降らせる。
波に漂い、海と共に生きる国。

潮騒に     (しおさいに)
帆幕鳴き    (ほまくなき)
舟艇に     (しゅうていに)
驟雨弾ける   (しゅううはじける)
水平に擦る紺碧 (すいへいに・なでるこんぺき)
揺籃の地の鼓吹き(ようらんのちの・つづみふき)
しなやかに
たおやかに
寄せては返す  (よせてはかえす)
海藍の波    (ハイランのなみ)

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玄武が抑えた右手の「棕茶」(ツォンチャ)

棕茶の職人街には、王宮認定の工房が5つある。
木造彫刻・石造彫刻・金属彫刻・陶芸・宝飾品。

「棕茶の装飾品」といえば、一級品だ。
その技は師から弟子へ受け継がれている。

棕茶の職人たちは、黙々と「成」の術を磨く。
砂漠の中にある国が工芸の国として発展したのは、
国民が持つ生真面目さゆえか。

早朝。
靄がかかったような街並みに、木槌の音が響く。
棕茶の朝は早い。

「棕茶」、大地と職人の国。
天候は砂塵(さじん)。
乾燥した大地が砂嵐を巻き起こす。
真の美しさを追及する、工芸の国。

黎明に道煙り  (れいめいに・みちけぶり)
厳かに風情佇む (おごそかに・ふぜいたたずむ)
連綿と伝う槌の音(れんめんと・つたうつちのね) 
指し導きの紡唄 (さしみちびきの・つむぎうた)
切々と     (せつせつと)
脈々と     (みゃくみゃくと)
手掌に刻む   (しゅしょうにきざむ)
棕茶の誇    (ツォンチャのほこり)

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斉天大聖が腹の上にあぐらをかいた「雄黄」(ションホワン)

雄黄を南北へと貫く中央道路の両脇には、
所狭しと露天商が店を連ねている。

この大市場通りには、八国中から商人たちが集まってくるからいつでも大賑わいだ。
雄黄に行けば手に入らないものはない、とはよく言ったものだね。

雄黄国民が使う「気」の術は、あらゆる気を読むことができるそうだ
欲しいものがバレていた?
値段交渉がうまくいった?
雄黄の目は鋭いね。

「雄黄」別名、鉱脈と行商の国
天候は陽炎(ようえん)。
日中は気温が上がり、海沿いに陽炎(かげろう)が出る。
時の移ろいとモノの流れが生まれる国。

栄耀廻り   (えいようめぐり)
豊鉱息づく  (ほうこういきづく)
花めく街に  (はなめくまちに)
潤いの財   (うるおいのざい)
陽炎に映す隆盛(かげろうに・うつすりゅうせい)
移り儚き人の夢(うつりはかなき・ひとのゆめ)
来世へ続く  (らいせへつづく)
雄黄の路   (ションホワンのみち)

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暴れる尻尾に白澤が寝転んだ「翠緑」(ツイリュー)

翠緑に風薫る季節がやってくると、
草原に暮らす人たちは祭りの準備を始める。

「風香祭」
集落ごとに音色の異なる風鈴を飾り付け、
神獣の加護を祝う翠緑で最も大きなお祭りだ。

満月が一千周するごとに一度、
花を咲かせる御神木が蕾をつけたらしい。

「風」の術を使う翠緑の国民は、鳥のように空を舞う。
風に乗って霧を集め、大地の恵みを得るのだそうだ。
翠緑の作物は、本当に美味しい。

草木と風の国「翠緑」
天候は霧。
草原を風が吹き抜け、雲の通り道に霧がかかる。
緑が芽吹く、新緑の国。

木々の声粛々と(きぎのこえ・しゅくしゅくと) 
風の唄凛々と (かぜのうた・りんりんと)
翠気溢れ   (すいきあふれ)
大地に実り  (だいちにみのり)
諸所霧らふ  (しょしょきらう)
朝露の街   (あさつゆのまち)
風候鮮やかに (ふうこうあざやかに)
翠緑の丘   (ツイリューのおか)

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饕餮が踏み抜く右足の「深煙」(シェンエン)

深煙の王宮図書館にある、星詠みの塔に登ったことはあるだろうか?
厚くかかった雲の上に突き抜けた塔の最上階では、
満天の星空をみることができるらしい。

普段は占星術師しか入れない秘密の場所、今年の解放日はいつだろうか。

深煙の「影」の術は、様々な記録に用いられる。
あの図書館には膨大な歴史の影が記録されているそうだよ。
深煙の学識は、どこまでも深い。

雲影と学問の国「深煙」
天候は曇り。
山と山の間にあり、雲海が空を満たしている。
知識によって導きを得る、学者の国。

雲翳に帳降り(うんえいに・とばりおり)
書窓灯る  (しょそうともる)
繙読の刻  (はんどくのこく)
ひそひそと 
深々と   (しんしんと)
更ける宵闇 (ふけるよいやみ)
星朧    (ほしおぼろ)
囁き密やかに(ささやきみつやかに)
深煙の夜  (シェンエンのよる)

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麒麟が抱きしめる左足「蝋白」(ラーパイ)

蝋白の国境付近では、風に乗って薬膳の香りが漂ってくる。
八国唯一の温泉郷。
肥沃(ひよく)な大地から恩恵を受けたこの国は、
傷や病を癒しに多くの人が訪れる。

あちらこちらにある間欠泉から吹き出す温泉で、
常に虹がかかっているこの国は、まるで楽園のようだ。

国民は、「癒」の術を駆使して医療技術を発展させた。
しかし、彼らは命に終わりがあることを知っている。
巡りを遮るようなことはしないのが、蝋白の民の掟なのだそうだ。
蝋白の癒しは、時に儚い。

「蝋白」陽光と癒しの国
天候は虹。
麓から吹き抜ける雲と風で、よく天候が変わり陽が煌めく。
全ての巡りを祈る、理の国。

移りゆく天の彩(うつりゆく・てんのさい)
巡りゆく人の命(めぐりゆく・ひとのめい)
瑞雲高く   (ずいうんたかく)
山入端に東雲 (やまのはにしののめ)
穏やかに   (おだやかに)
緩やかに   (ゆるやかに)
揺蕩う時間  (たゆたうじかん)
まほろばに癒ゆ(まほろばにいゆ)
煌き温かく  (きらめきあたたかく)
蝋白の虹   (ラーパイのにじ)

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ーー鈴の音

遠い遠いどこかにある、龍の形をした大地と、八つの国のお話

さあ、語って聞かせよう。
命が巡り自然と戯れて暮らす、かの国民たちのことを

さあ、歌って聞かせよう。
神獣の加護に満ちた美しい世界のことを 

心にお留めいただけたのなら、これ幸い。
八国万象回想録、これにて、閉幕。

八神嬉戲、寿ぎ、言祝ぎ。

<幕>


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