新人キャピタリストの動き方・その5(何から手をつけるべきか編)
私の社内向けブログをnoteで公開する企画も第四回に突入しました。キャピタリストになりたての方に私が業界の先輩方から学んだこと、当時のもがき苦しんでいた頃のエピソードなどを中心にお届けしていきます。
パート5は早速方針変更で、本note書き下ろしです。今朝目覚めた瞬間に書きたいことが溢れてきました。今までの流れをぶった斬る形になりますが、よろしくお願いします。新人の方に身に付けてもらいたいポイントについて書かせていただきました。少しの意識と行動で変わってくるので、参考にしていただけますと幸いです。
キャピタリストの仕事
改めて、キャピタリストという職業について私の感想をまとめてみたいと思います。ベンチャーキャピタリストの仕事は、
スタートアップに投資して
投資したスタートアップの株式を売却してキャピタルゲインを得る
というのが一般的な見解だと思います。面接に来られる多くの方がこういった認識を持っていらっしゃっていて間違ってはいないのですが、外からは見えない現場の実像みたいなものがあります。
そもそも「スタートアップに投資」するためには、
起業家に出会う
必要があります。そして、闇雲に「起業家に出会う」のが良いかというとそうではなく、
将来有望な起業家に出会う
ことが必要です。2013年にベンチャーキャピタル業界に転職してきてから、ずっと思っていたことです。年上の小澤さん、同年代のGCPの今野さん・高宮さん、年下のANRIのアンリさん、Skyland木下さん、east ventures金子さん達を見ていると、業界に入ってきたばかりの私が会える人とどうも何かが違うな、ということに気付くのです。
まずここが1つ目の関門です。
また、「投資したスタートアップの株式を売却してキャピタルゲインを得る」ためには、
スタートアップのサポート
が必要になってくるのですが、これもまた一つのスキルでまかなえるものではないのです。
プロダクトのローンチ
採用(開発、営業、財務、人事、他)
資金調達
マーケティング・営業
組織開発(3人、10人、50人、100人、1,000人)
経営者の悩み相談(部下やメンバーとのコミュニケーション)
広報・PR
などなど
A社には「近々、右腕のCFOが辞めそうです。どうにかなりませんか」という相談を受ければ、B社は「今月も売上が横ばいでした」という報告があり、C社からは「1,000人規模の会社のCFOを探している」という依頼があって、D社から「アタックリストに載っている上場企業のサービス導入決裁者を紹介して欲しい」と様々な報告・相談が来るのです。
全部に応えられないのですが、全部に応えられる存在を目指さないとキャピタリスト業界のTop Tierに入ることがなかなかできません。
様々なケイパビリティを備えなくてはいけない。経験が多い人が圧倒的に有利なんです。これが二つ目の関門です。
私は起業経験者ではありません。またサービス開発業務を経験したこともありません。なので、プロダクトづくりにおいてまともなアドバイスができません。起業家の皆さんも私にまともなアドバイスを求めてきません。プロダクト作りが得意なメルカリ山田進太郎さんやアルのけんすうさんにアドバイスを求めたほうが良いに決まっているからです。
キャピタリストになってから最初に感じた後悔は、「俺、何故起業しなかったんだろう」です。「次の人生でもキャピタリストやりたいですか?」の問には「Yes」なんですが、もし次の人生でキャピタリストするなら起業経験を挟んでからキャピタリストになろうかな、と思うぐらいです。
様々なベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家の皆さんのメンタリングを横で見学させていただいたことがあるのですが、やはり起業経験者のアドバイスって重みがあるんですよね。私と同じことを説明していても、重みが違う。全く敵わないんですよ。佐藤裕介さん、家入一真さん、有安伸宏さん、赤坂優さん、中川綾太郎さん、古川健介さん、鶴岡裕太さん、小澤隆生さん。
先日、この大谷選手関連のニュースで、大谷選手が巨人の岡本選手に「テクニックは言い訳。パワーが正解」って伝えていたという報道がありまして。真実は定かではないですが、大谷選手が言うと説得力がありますよね。これ、私が岡本選手に伝えても相手にしてもらえないわけです。
起業家出身ではないけど、すごいなあと思ったのはメルカリの初期の投資家の一人のX Techファンドの手嶋さんですね。とても眩しい存在です。だって、メルカリの初期の投資家ですよ。色々な裏話を知っているじゃないですか。手嶋さんは起業家ではないですが、会社経営経験を沢山お持ちの方なので、眩しいです。同じくX Techの西條さんも素晴らしいですよね。サイバーエージェントFX等を立ち上げた経験がある。強い。強すぎる。
さて、サラリーマンかつコンサル出身で起業経験、サービス立ち上げ経験もない私がキャピタリストを目指すと決めたは良いですが、大変ですね。新卒でキャピタリストを目指す方はもっと大変だと思います。私から見ると気が狂っているように見えます。茨の道を何故突き進むのか。
でも、いつ始めるにせよ、乗り越えなくてはいけない関門は一緒なので、これからキャピタリストを目指している若い世代の方々へ、今から何をしていくと良いのかという点に、私の経験から伝えられることを記していきます。十人十色、百者百様です。あくまでも私の経験がベースなので、アンリさんや木下さんは全く異なったアドバイスをお持ちだと思うので、使えると思ったところだけ試してみていただければと思います。
キャピタリストに必要な能力
キャピタリストに必要な能力を思いつくままに列挙します(順不同)。
コミュニケーションスキル
専門知識・業界知識
課題解決力=人生経験
人を集める力
ネットワーク
サービス運営ノウハウ
行動力
傾聴力
コーチング力
情報発信力
前向きさ
コミットメント(続ける意思)
新卒の方は、社会人経験がないです。よって、「人生経験」はどうあがいても仕方なく、時に身を委ねるしかないでしょう。起業家から「パートナーと離婚しそうなんです」という相談があったとしても、20代前半で相談に乗るのもなかなか難しいものですよね。かといって私も自分は離婚の経験がないので語れることはないのですが(涙)
DeNAでポコチャを3年運営していました、リクルートでホットペッパーの立ち上げに携わっていました、という経験もないです。「サービス運営ノウハウ」も初期は諦めるしかないですね。
クライアント紹介や、起業家の先輩を紹介する時に必要な「ネットワーク」。これも初期はなかなか難しいですよね。だってほぼ知り合いゼロからのスタートで、学生時代のサークルや部活、バイト先、家族の知り合いぐらいが持っているネットワークです。
こうなってくると、へこたれない精神や「コミットメント」で勝負!ってなります。ただただ続けるのも悪くないですが、それだけでTop Tierに食い込めるのかというと分からないです。でも一番大事かもな。
若い人が身に付けるべきシニアの力を借りる力
若くて経験が無い時期は、個人の力で起業家の役に立つのが難しいです。まず、客観的事実として自分が無力、ひどい言い方をすると役立たずという自己認識をすると良いかもしれません。別に自分を蔑む必要はないです。メジャーリーグでスタメンで4番を打てないところから誰もがスタートするのと一緒です。あと、ビジネスにおいてすべての課題を解決できる万能な人を目指すのはかなり難易度が高いし、何年かかるかわからないのでおすすめできないです。孫さんや永守さんの経験を積んでからベンチャーキャピタルやるのも人生遠回りですよね。
なので、若い人は経験豊富な人(シニア。年が上という意味ではなくて、経験や知識が豊富な人とここでは定義します)の力を借りて、サポートしたい起業家の役に立つのが良いでしょう。経験豊富な人の力を借りられる力を身に着けた人は、起業家の役にも立てるし、自身の成長が早くなるので一石二鳥です。
先の事例では、大谷選手と知り合いになって、大谷選手の口から自分の仲良しの野球選手にアドバイスしてもらう。自分の口で「技術よりパワー」って伝えるのに相応しい実績を身につけるのは大変です。
さて、ではどうやってシニアとネットワークを持てるようになれば良いでしょう。こちらは丸腰。何もない若者です。シニアに気に入られる力として下記の2つが若い人でも手をつけやすいと思うので取り組んでみましょう。
人を集める力
専門知識
若いうちは感じられないのですが、年を取るとできなくなるのがこの2つだったりします。正確に言うと、できなくなるのではなく「面倒くさくなる」のです。
人を集めるのって大変ですよね。沢山の人に声をかけなくてはいけない。その時間コストたるや。闇雲に誰でも人を集めるのではなく、参加者の属性にこだわると、難易度はさらにあがります。インバウンドだけでなく、アウトバウンドで声をかける手間が発生するからです。
専門知識は実は若い人でも年長者に勝てる分野があります。それは新しい技術領域です。今でいうところのWeb3や生成AIです。年を取ると新しい情報を収集・獲得するのが面倒くさくなります。
人を集める力とは
例えば、あるエンジェル投資家さんに「お茶しよう」とお声がけいただく機会があったとします。その場に一人で行って色々根掘り葉掘り聞いて勉強するのももちろん良いです。一方で、起業したての起業家を3人連れて行くという発想もあります。何人か連れて行くと自分の話す時間は減ってしまうかもしれませんが、エンジェル投資家さんからすると一度に4人会えるので効率的です。たくさん持ちネタを持っている方であれば、何回でも一人で会いに行く機会を得られるかもしれませんが、若ければ若いほど経験や武勇伝が少ないので、年長者の方が面白いと思ってくれる話を続ける難易度が高まります。一方で、起業家を3人連れて行く手法だと、次回もまた別の3人連れて行くといった手法が使えます。そうすると、次回もまた会える機会が得られます。会う機会が増えれば、エンジェル投資家さんを通じた新たな起業家や投資家の方たちを紹介してもらえる機会が増えるかもしれません。
先日、IVS京都は1万人のスタートアップ関係者を集めました。1万人集まるとカオスにはなりますが、スポンサーは嬉しいですよね。またイベントに登壇したい人は増えると思います。10人しかいないイベントと1万人いるイベントでは情報伝達の力のパワーが桁違いになるからです。
スタートアップBBQというイベントは500人の方が参加しました。最初、Host役のベンチャーキャピタル中心に準備を進めていましたが、当日はエンジェル投資家・起業家の小林Kiyoさんや、DeNA原田さんも来場してくれました。VCもGPクラスのメンバーでANRIのアンリさん、X Tech西條さん、GCP高宮さんと業界の重鎮の方がいらしてくれました。これも30人のBBQだったら顔を出していただけなかったと思います。
天岩戸効果と私はよく表現するのですが、楽しそうに人が集まっていると、続々と著名な方であっても顔を出してみようかな、という気持ちになります。そういった場を作っていくことは、若い人でも行動力さえあればできます。
専門知識とは
何かに詳しい人の話を聞くのって面白いですよね。Web3や生成AIはここ最近登場したキーワードで、将来どのような展開を迎えるのかワクワクしますよね。新しくてよくわからないものに詳しい人がいると、重宝されます。
いや、すでに生成AIもWeb3も出遅れてしまった。今の自分には何も勝てるものがない、と悩んでいる方がいたらそれは間違った認識です。今からでも全然間に合います。新しい領域に限らず、専門知識=おたく的にくわしくなる、というのが重要です。何事もおたく的にくわしくなると、学びが転がっているからです。
マツコの知らない世界がわかりやすい例えでしょうか。日本全国XXをすべて体験する、といったようなものですね。そこまで人の心を突き動かす渇望感や動機というのは話を聞いているだけで面白いですよね。かくいう私はそういったものが全くないツルツルっのつまらない人間なので、こういうことを書いておきながら自分の駄目さにただただ悲しくなるだけです。でも、くわしくなるのおすすめですよ。歴史でも、スポーツでも、映画でも、読書でも。知的好奇心に人は釣られますので。
四季報写経はご存知でしょうか?東洋経済が発行している会社四季報をひたすら写経することで、上場企業の情報を丸暗記する手法です。そんなのやって何になるんだ、と思う方がいらっしゃるかもしれません。詳しいことはこちらのnoteや
最近発売されたこちらの本
に書かれていますので、詳細の説明はここでは省かせていただきます。
私が最近仲良くさせていただいているeast venturesの平田さんはこの四季報写経を実践されてきた方です。とにかく企業情報に詳しい。私なんかより全然詳しい。私は彼とHiveShibuyaで会って情報交換させていただくことが多いのですが、とにかく学びばっかりです。あまり書きすぎると僕と会ってくれる時間がなくなってしまうことを心配しちゃいます。彼は情報を味方につけて、人脈をどんどん拡大している人材の一人だと思います。
彼を紹介している記事があったので、こちらも一読されると面白いと思います。
「人を集める力」「専門知識」の2つは若い人でも圧倒的に優位性を構築できるポイントなので、重い腰をあげて取り組むことをおすすめします。若い起業家やエンジニアを集めることができて、Web3や生成AIについて詳しい若手キャピタリストがいたら、あっという間に業界の重鎮の方から愛されて重宝されるでしょう。
あと書いていて思ったのが、何して良いか全く分からなかったら、先輩キャピタリストが投資した会社に常駐してしばらく一緒に仕事するってのも良いでしょうね。そこで仕事して、業務の経験を積む。広報なり、採用なり、営業なり、開発なり。クライアントの役に立つ。
起業家の事業領域も年々拡大していきます。全部に万能なキャピタリストはいないので、自分の得意領域と、まわりのシニアの力をどう活かして起業家の役に立つか、が重要です。
戦略コンサルタントやベンチャーキャピタリストって新卒からのキャリアパスもあるのですが、なかなかの茨の道だと思います。でも改めて思うといつ始めても茨はあまり変わらないので(笑)、必要な能力を早いうちから身につけるように意識をもって行動していきましょう!近道は簡単に出てこないので、途中にも書きましたが、最後は続ける情熱・コミットメントが勝ると思います!
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