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ココロザシナカバ~壮絶な自分史~ 第14話/60話:「判決」


【ここまでのあらすじ】
岩手→練馬→川口→浦和→茨城・・・と住まいを転々としてきた阿部家。
父の酒とギャンブル好きが原因で、貧乏で夫婦けんかが絶えない。
家計のために小学生からバイトで稼ぐ長女まゆみ(私)が
好きな人と同じ高校に進んだ。
しかし失恋して、中退して、家を出たが・・・。




窃盗では不謹慎だがちょっと笑える話がある。

バイクに入れるガソリンがなくて、夜中のモータープールに忍び込んだ。
モータープールとは、トラックが停めてある場所のこと。

ストーブにポリタンクから給油する時に使う、あのシュポシュポを持って友達とトラックの燃料タンクから油を盗もうと忍び込んだ。

するとそこで飼われている秋田犬にでかい声で吠えられて、
事務所で仮眠していたおじさんに捕まってしまった。

シュポシュポ片手に捕まるなんて恥ずかしさの極みだった。
私たちを捕まえたおじさんは「燃料を盗んでどうするんだ?」と聞いてきた。「はい、バイクに入れようとしました。」と素直に答えた。

すると、おじさんが大笑いし始めた。

笑いすぎて涙まで流している。

キョトンとしていると、
「これは軽油だ。バイクに入れたら壊れるぞ。」
とまた思い出したように笑いだした。
未遂だったこともあり、おじさんは私たちを咎めることもなく、警察に突き出すこともなく、家に帰れと言ってくれた。


おじさんありがとう。
あれ以来、人のものを盗んだことはない。


しかし、それまでやりたい放題だった私はとうとう裁判所に呼ばれた。
私を少年鑑別所に送るかどうか決めるために聴取されるのだ。

同伴した父親が急に土下座をして、床にオデコを擦りながら

「この子は下のきょうだいの母親代わりです。連れて行かれると困るんです。勘弁してください。きちんと監督しますから!」

と何度もお願いした。

そりゃそうだ。
私がいるから父は好き勝手できる。
なかなかの演技力だと冷静にその光景を見ていた。

判決は後日なので、その日は父に連れられて帰った。
父のオデコが赤く擦り剥けていた。

「あぁでもしなくちゃ連れて行かれちまう。」と、
してやったりといった顔をしていた。

そして後日、判決は「二十歳まで保護観察処分」というものだった。


保護司は近くに住む、はつみさんという教員を定年した女性だった。
小柄な60代の、厳しくて明るいおばさんだった。

その人の元に、毎月顔を出すことになった。
日々日記を書くように命じられた。

最初は堅苦しいババァだと思っていたけど、色々と話を聞いてくれて話しているうちに、すごく私を心配してくれているのだということが分かって、だんだん好きになっていった。



そしてその頃、私には同居するひとつ上の彼氏がいた。

ケン君という人で、後輩のお兄さん。

私のきょうだいにも優しく、お兄ちゃんのように接してくれた。

免許を取ったら親の経営する運送屋で、トラック運転手になると言っていた。

でも何度も試験に落ちた。

偏差値の低い不良だったのだ、それも仕方ない。

だが免許が無いからとケン君が働きに出てくれないので、私の負担が増えていった。

きれい好きでいつも家中をピカピカにして、私が仕事から帰ってくるのをひたすら待っているケン君は、帰りを待つ仔犬のようだった。


このままじゃいけないと思い、彼を実家に帰した。


つづく


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