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ココロザシナカバ~壮絶な自分史~ 第23話/60話:「姐さんとの出会い」

【ここまでのあらすじ】※このお話は実話です。
岩手→練馬→川口→浦和→茨城・・・と住まいを転々としてきた阿部家。
父の酒とギャンブル好きが原因で、貧乏で夫婦けんかが絶えない。
家計のために小学生からバイトで稼ぐ長女まゆみ(私)が
高校を中退、家を出て、人生初の同棲相手の男を追い出した。
そしてヤクザに拉致され、駆け落ちした母を見つけ出した。
あれから3年。
自分も駆け落ちで結婚し、川崎で平穏に暮らしていたが父に連れ戻され、
埼玉→茨城と引っ越し、隠し子がいた夫と別れたが・・・・。






夫を手放した私は昼はトラックの運転手になった。

20台ほどを所有する、地元では老舗の運送屋さん。
覚えているだろうか。

私がシュポシュポを持って油泥棒に入った、
あの運送屋さんに勤めることにしたのだ。

今のご時世では到底考えられないが、当時の私は会社に相談して、長男をチャイルドシートに乗せて仕事をするお許しもいただいた。

とても豪快で気の良い、初老の社長夫婦だった。
シュポシュポ話では何度も笑いを取った。
運転手さんたちもみな優しく、長男のおやつはぜんぶ会社の仲間から調達できた。


私に関わってくださる人々は本当に情に厚い。
だから私も人に精一杯尽くす生き方をしようと、決意を新たにさせられる日々を過ごした。


夜は妹に長男を預けてコンパニオン業務を続けていた。
個人で行っているのは私ぐらいで、他のコンパニオン屋は組織で動いていた。

ある夜、宴会の席で他のコンパニオン会社のお姉さんが2人混じったことがあった。
どう見ても7~8歳ぐらい上の、そのお姉さんたちに「終わったらちょっと顔貸しな。」的なお誘いを受けた。

私は宴会後に自分のスタッフに支払いを済ませ、お姉さんたちが所属する事務所に連れて行かれた。




行くと「姐さん」と呼ばれる女性が座っていた。

その人は化粧っけもなく、上下はスエットを着ていて30歳ぐらいに見えた。


私が自己紹介すると「あんたひとりでやってるんだって?」と聞いてきた。それは、あなたはコンパニオン業務をひとりでやっているのですよね?という意味だ。

「まぁ流れで。」、って感じで答えたと思う。

部屋には『●●一家●●組総長●●』と記された、ふんどし姿で仁王立ち、全身刺青男の写真が額に飾られている。

松方弘樹や梅宮辰夫など、ヤクザ映画に出てくる有名俳優とのツーショット写真も並べて飾られていた。


ここがどのような事務所かを理解するのに1秒とかからなかった。


この目の前の『姐さん』と呼ばれている人は『正真正銘の姐さん』なのである。
でも姐さんの眼差しは優しかった。

ニコニコして「ねぇ、あたしと組まない?」って、私の瞳を覗き込んだ。


敏腕のコンパニオン首謀者がいると聞いて、調査のためにお姉さんたちふたりを今回の宴会に放り込んできたという。
私はスナックの経験があるので、女の子たちの席の動かし方は上手だった。

また私は、女の子たちのお尻を触ろうとしているお客を見たら、
速攻で近寄り、客のその手で自分のお尻を撫で、
1回さする事ごとに「はい千円~、二千円~」とやるのである。

場は大爆笑だ。
そうやって現場の女の子たちを守っていた。
だから、うちは稼ぎたい女性には人気のコンパニオン屋だった。

その仕事ぶりを、あのお姉さんたちが姐さんに事細かに説明している。
自分のことのように自慢げに話しているのだ。


それを黙って聞いていた姐さんは、

「本当なら素人がコンパニオン業界に足を踏み入れたとなると、
それは見過ごせないことなんだ。」

そう言って、遠い目をした。


つづく。


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